家族なのでぇ

 ◆




「腰抜けました」


 しばらく泣いていた莉子が落ち着いてからの、第一声がそれだった。


 李津は一瞬ぽかんとしてから吹き出した。


「そりゃあんな高さから落ちかけたらそうなるよな。あはははは」


 遠慮なく笑われて、莉子は恥ずかしさにうつむく。


「つむぎは立てるか?」


「うん、大丈夫〜」


「元気でよかったよ、じゃあ莉子は俺が連れて帰るか」


 李津は莉子に背中を向けてしゃがみ込んだ。


「ほら、乗って」


「!?」


 黙ったまま、なかなか乗らない妹にしびれを切らした李津は、ちらりと後ろを振り返る。妹はぐずぐずとつま先を見つめていた。


「動けない女の子を置いて帰るほど、俺は薄情じゃないつもりだけど?」


 ぶっきらぼうなそぶりを見せるが、どこか背中に優しさが漂っていた。


 自分なんかがいいのかと迷っていた莉子だが、李津の心遣いを感じ取って。


「……ありがと、のる」


 ひとまわり大きな背中に手をかけると、恐る恐る身を預けるのだった。






 人の少ない町だ。李津たちが橋の上でやんややっている間も、15分に一台ほどしか車は通らなかった。徒歩や自転車なんてひとりもすれ違わない。


 だからこうして15歳の妹をおぶって歩く16歳の兄がいたとしても、人目を気にしなくてよかった。


 すっかり大人しくなっていた莉子がつぶやく。


「……まさかおまえが追いかけてくるなんて、思わなかったです」


 隣で自転車を押すつむぎに対しての言葉だった。


 つむぎはゆっくりと莉子を見上げると、ぎこちなく笑った。


「だって、心配だったからぁ」


 やはり莉子はイラッとする。


 幸せお花畑ヘッドかよとついにらみつけそうになって、慌てて兄の背に顔を埋めた。


 ――そうじゃないから。


 つむぎは自分と同じように施設で暮らしてきたし、あまりうまくいってなかったようなことも言っていた。そういう子の気持ちを、莉子はよく知っている。



 人間関係を構築し続けるために、心が折れた莉子。


 人間関係を構築できなかったが、ピュアでいられたつむぎ。



 全ては、莉子の嫉妬から始まった。


「心配、って……」


「家族なのでぇ」


 迷うことなくつむぎは言い切った。その表情は、今日の空と同じように晴れやかだ。


「あーあー、おまえって、やっぱ頭わいてますよね! 兄とはそうかもですけど、あたしとは100%他人じゃないですか」


 親切も、ずっと偽善のような気がして嫌だった。


 なぜなら今まで見てきた子たちも自分も、人に優しくするときはたいてい、見返りを求めていたから。


「でもぉ、おにーちゃんが同じわたしたちも、家族だよねぇ?」


「……」


 だけどつむぎは違うと、もう莉子は理解していた。簡単だ。だってこの子、底抜けのバカだから。


 ぎゅうっと李津のTシャツを握りしめる。胸の中がぐらぐらと沸騰するように熱い。


 バカだ、バカ。よく考えずに自分の感情で動いて怪我する、甘っちょろパーフェクトバカ。


 だから、今までのも全部。


 莉子のことをすごいと褒めたのも、濡れ衣を着せられて受け入れたのも、そんなことをされても全力で心配してくれたのも打算はない。


 打算なんて考えようともしないくらい、バカだから。


 こんなモンスターなんかと張り合って、叶うはずがなかったのだ。


「……だったら、家族でおまえがいちばん下ですね」


「おい、莉子――」


 たしなめようとして李津はすぐ口をつぐんだ。


「だってあたしの誕生日、8月20日なので。3月生まれのつむぎ・・・よりも早く生まれたから、あたしが姉、でしょう?」


 莉子がつむぎを名前で呼んだから。


 顔はそっぽを向いているが、耳が真っ赤な莉子に、つむぎはへらっと笑顔をこぼす。


「えへへ。みんなで莉子ちゃんのお誕生日会、しようねぇ〜」


「別にそういうつもりで言ったんじゃないです」


「それでぇ、おにーちゃんはいつ〜?」


「俺? いいだろ別に……」


「えぇ〜。莉子ちゃんみたいなことを言う〜」


「兄も川に落ちかけたら、口を割るんじゃないですか」


「あー! 5月1日! 突き落とされたらかなわねえよ!!」


 李津の嫌そうな声に妹たちは笑った。


 莉子が片手を伸ばす。


 自転車を押しながら、つむぎはその手を取る。



 帰り道、二人の手が離れることはなかった。





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初めまして、アサミカナエです。


おそらくラストまでポップでシニカルなテンションで、ラブはおまけ程度です。ただ、どちらかとは恋仲になります。

テイスト的に大丈夫そうでしたら引き続きお楽しみください。


また、イラストレーターさんが手がけた莉子&つむぎの表紙がノートにあります。良かったら見ていってください。


今後は登場人物たちのLINE画像をノートに掲載するので、作者フォローも推奨です。

一応本文にはテキスト化したものを載せますが、スタンプやキャラアイコンもこだわっているので、よろしければノートも見ていただきたいです。


そして応援のハートはなんぼあってもうれしいです( ᐛ )v

作者がやっているライフハックなのですが、ハートをしおり感覚で挟むと、どこまで読んだかわかりやすいし作者も喜ぶし、いいことしかないですよ!


それでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。



↓表紙画像掲載ノートです!

https://kakuyomu.jp/users/asamikanae/news/16817330651255265558


 

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