第49回配信 これからも僕らは
僕は、涙を拭き急いで電話を取る。
「おつかれ、配信見てたよ」
僕はそれだけしか言えない。なんて言ったらいいのかわからなかった。
2人が何のためにこの配信を行ったのか、その真意をはかりかねたからだ。
だが、僕が次の言葉に迷っている間に、
「ねぇ!龍ちゃん今日の配信どうだった?よかったよね?よかったよね?」
と紫友が携帯を奪ったのか、紫友が僕に話しかけてくる。
あぁ、よかったと思うよ。そう答えたい僕と、なんで僕のことなんて言ったんだ、そんなこと言ったら炎上するかもしれないじゃないか、という僕がいて、うまく言葉にできない。
すると、
「え?よくなかった?ダメだった?ねぇ、龍ちゃんダメだったの?ねぇ、ねぇ?」
と紫友の不安そうな声をだす。
いや、違うんだ。ダメとかそういうことじゃなくて、僕は頭が整理できていない。
うまく言葉がまとまらず、僕は紫友の問いかけにうまく返すことができない。
あぁ、ダメじゃないか。紫友はこんな無言が続いたら、不安になってしまう。
僕は、ちゃんとしないと。2人を不安にさせるなんて、あり得ない。
そんなことを思っていると、
「ねぇ、龍は今回の配信、嫌だった?」
と、蒼が語りかけてくる。
いや、嫌とかじゃないんだ。
なんて言ったらいいんだ、なんて言ったら伝わるんだ。
僕は無言で返すことしかできない。そして、2人も無言で返してくる。
そんな時間が続いた。
他人から見たら、僕たちが喧嘩をしているように、あるいは会話が止まってしまっているように見えるだろう。
だが、僕はその無言が心地よかった。
ただただこの静かな時が、僕の考えをまとまらせ、僕の思いを確かなものにした。
僕らは幼馴染。何も言わなくても伝わる関係かもしれないが、そんなものは脆い。
伝えられる時には、きちんと伝えなければ何の意味もない。
その伝えることを考える時間を、2人はくれた。
あぁ、あの時の2人もこんな思いだったのかもしれない。
僕はそんなふうに思った。
その時間は、数分あるいは数十分続いたかもしれない。
だが、どれだけの時間であろうと僕の考えをまとめるのには十分であった。
そして、僕は言葉を発した。
今の僕が伝えられる全てを。
配信はよかったこと。
でも2人が、この配信を通してリスナーに責められるんじゃないか、と心配なこと。
そして、
僕を守ってくれて嬉しかったこと。
うまく言うことなんてできなかった。
言葉だって詰まっていたし、いつもの僕ではなかったと思う。
だが、2人は黙って聴いてくれた。
そして、2人揃って言ったのだ。
「「別にいいよ、龍(ちゃん)以外に大切な人なんていないし。龍(ちゃん)がいなくなることに比べればうちらどうなったっていい。誰に嫌われようと、誰に責められようと何にも関係ない」」
と。
僕は何て愚かだったんだろうかと思った。
僕は、2人は僕がいなくても過ごしていけることを示してくれることを配信を通して僕に伝えたかったのかと思っていた。
だが、違った。
2人は、ただ僕が傷ついたと思って、僕とまたVtubeをしたいと思って、あの配信をしてくれたんだ。
でも、僕としては一抹の不安が。
それは、2人からリスナーが離れて行ってしまうんじゃないかということ。
それを伝えると、
「え?何言ってるの?だから、さっきも言ったけど、龍ちゃん以外に大事な人なんていないから」
「そうそう、リスナーの人たちに全員嫌われようと、龍ちゃんに嫌われることが1番悲しいんだよ?そんなの決まってるでしょ?」
と、2人は少し怒ったように僕に言う。
あぁ、なるほどこれが本物のヤンデレということか。
僕は妙に納得し、腑に落ちた。
この2人なら大丈夫、やっていけるって。
結局、この騒動はこれで終わりその後炎上することもなかった。
コメント欄もつぶやきも2人を擁護する声で溢れ、誰も責める声などない。
それに、むしろこれが話題となり、新しいリスナーたちも獲得することができた。
良くも悪くも、話題になるというのは大事らしい。
2人の態度と共に、友人を守るということも評価されたようだ。
僕の心配は杞憂に終わった。
だが、僕にとっては不安なことが生まれてしまった。
僕という幼馴染がいると知り、
『幼馴染さんも見てみたい』
『幼馴染さんしか知らない暴露とかしてほしい笑』
など、ちょっとだけ僕に対し興味を持つ人も現れた。
僕は、そのコメントを見て驚き、2人に言ったが、
「そんなの気にしなくていいよ。龍ちゃん出すわけないでしょ?」
「龍は僕らはだけが知ってればいいから」
と、静かに怒られた。
な、なるほどね。2人はもう知ってたのね。
僕は、2人のことを少し舐めていたようだ。
まぁでも、大きな騒動にならず本当によかった。
2人にとって悪い影響ではなく、逆にいい影響にすることができた。
僕は心新たに2人のサポートをしていくことに決めた。
これからだって、何があるかはわからない。僕だけでなく、2人の正体がバレてしまうことだってあるし、僕だって卒論や就職だってある。
僕らのリズムがずれてしまえば、簡単に僕らの関係は崩れてしまうかもしれない。
でも、崩れるならまた修復すればいい。
僕らなら、それができる。
何があれば、また3人で乗り越えていけばいい。そのために、3人でやっているんだ。
誰が1人だけが、背負う必要はない。
そんなことを学ばせてくれた出来事だった。
だが、僕の知らないところで最後の決戦は行われていた。
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