第48回配信 え?何この配信
僕は家に帰り、自分の部屋でじっと固まっていた。
僕にできることはこれだけ。
きっと、今頃2人は騒いでいることだろう。
きっと起こしに行かないから、お昼ぐらいに起きて、手紙を見て驚くことだろう。
だが、ほとぼりが冷めるまではマンションに行かない方がいい。
一応手紙は残してきたが、2人は僕にどこにいるのかすぐに連絡を取ってくるだろう。
そう思い、携帯をすぐ近くに置いていた。
だが、いつまで経っても携帯はならない。
僕の予想とは異なり、2人は僕には全く連絡を送ってこないようだ。
なんだか僕は恥ずかしくなった。
ある意味よかった、2人にとって僕はそこまで必要な人ではなかったと言うことだ。
こうなってくると、手紙を残してきたことが少し恥ずかしくも思えてくる。
2人と僕はいつかは離れなければならないのだ。いつまでも一緒にはいられない。
2人も僕とずっと一緒にいても、世界は広がらないし、小さい世界で楽しんでいるだけ。
2人はレミーとのコラボだって、できた。これを機に、Vtuberとしてもっと成長していくためには僕なんて邪魔でしかない。
それに、僕だって後数年後には就職する。
ならば、これを機会に離れることも選択肢の一つだ。
そのいい機会だと思おう。
僕は自分にそうやって言い聞かせることで、精神を保つことにした。
僕は気を紛らわせるため、ネットサーフィンをしていた。
すると、
「ピロンッ」
通知音がなった。
ん?なんだ?僕が、通知をオンにしているのは2人のチャンネルだけ。
通知を見ると、たしかに2人の配信を告げるもの。
なぜ?今日は火曜日。配信の日ではない。
なのに、なぜ通知音が鳴るんだ?
しかも、今週は僕がいないから配信はないと思っていた。
2人がこんな精神状態で配信なんてできないだろうし。
僕が急いで画面を開けると、たしかに2人の配信だ。しかも、緊急生配信なのかコメント欄も
『あれ?今日火曜日なのに』
『この間の記事、気にしなくていいよ!』
『楽しみー』
と、十人十色のコメントで埋まる。
なんだ?
このタイミングでするなんて、あまり得策とはいえない。
僕が策を考えるまで待って欲しかったのに。
僕は、なんだかイライラする。
だけど、と僕は思った。
もしかしたら、これは2人からの僕がいなくても大丈夫と言うメッセージなのかもしれない。
それならば、僕は受け入れなければ。
僕は感情が揺れ動き、どうしたらいいのかわからない。
コメント欄も右往左往しながら、心配している声が多いということは、みんなあれに触れると思っているということ。
だって、題名は『お騒がせしてごめんなさい』だ。
こりゃあもう、あの記事に触れると言っているようなもの。
僕はもうちょっと待ってから配信して欲しかった。それなら、なんとか僕の方でもいい感じのセリフと状況を作り上げられるようにしたのに。
まぁ、でももうそんな必要も本当にないということだ。
2人はこんな事態になっても、自分達で内容を考え配信している。
これだけでも、2人がこれから2人だけで配信していくことができる意志を感じる。
時刻は9時。
待機画面は変わり、2人のVが映る。
[みなさんこんばんわ!カガです]
【こんばんわ!ガミです】
と、明るく配信は始まる。
題名との格差に少し混乱するも、動画がどのように進んでいくのか不安でならない。
いや、もう心配したところで僕にできることはなにもないが。
[えっと、今日突然配信したのは昨日僕たちのつぶやきに載せられた記事についてです]
と蒼が話し出す。
あぁ、とうとう触れるのか。どうするんだ、どうやって行ったら変な感じにならない?
2人が炎上しないようにするにはうまくヤンデレを出すこと。
これが大事なんだぞ、わかってるのか?
だが、2人は僕の思いとは裏腹に話を進めていく。
[あの写真は、実は僕たちと一緒に動画をしてくれている友人です]
【幼馴染でずっと一緒にやってきたので、もはや家族みたいな感じなんですけど、とりあえず私たちではありません】
と紫友が続ける。
あぁ、なに言ってるんだ。冗談めかして言えば、みんなも特に気にしていないこと。
Vtuber的にはよくあることなんだから、自分達でないことだけ言えばいいんだ。
僕のことなんて放っておいて。
[僕らが頑張れているのは、彼のおかげなんです]
【だから、彼の情報をどこかに載せるのはやめてください。これは、私たちからの一番のお願いです】
そして、2人はそれだけ言うと、せーの、と言い
[【私たちだけを見ていてくれたらいいから]】
と言い、その一言を境に配信は突然終わった。
だが、コメント欄は、
『2人にこれからも頑張ってほしい』
『こういうのよくあるから気にしないで!応援してる』
『頑張ってー!!』
といった肯定的なもので溢れている。
なんなんだ、こんな配信。
こんなのあり得ない。
こんな短時間で、言いたいことだけ言うなんて配信者とは言えない。
だけど、僕は目の前が滲んでいくのを感じた。
本当はVtuberとしては認められた発言ではないのかもしれない。
きちんと説明し、その上で中の人には触れないように話すことも必要だし、暴かれた人が誰なのかなんて全く関係ない。
でも、僕は嬉しかった。
僕のことを守るような発言をしてくれたこと。
これだけで、僕はとても嬉しかった。
そして、配信後蒼から電話がかかってきた。
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