第44回配信 波乱の幕開け
僕は夏休みに入り、マンションに入り浸りとなった。
というか、僕はそのマンションに合宿のように泊りがけになっていた。
だって、2人は夏休みが始まったと思うと、僕を帰宅させようとはせず、マンションに拘束し出した。
「え?だってもう学校ないでしょ?泊まってったら良くない?」
「そうだよ、そうしたらずっと一緒に入れるよ?」
そんな感じで、数時間2人から詰められ、僕は降参し、マンションに泊まることになったのだ。
僕だって、夏休みは2人の配信をサポートすることを中心に過ごすつもりだった。
だから、僕はできる限りマンションには行くつもりだった。
だが、まさかずっと泊まることになろうとは。というか、それを強制されるとは。
僕はげっそりとする。
僕に自由はない。休みなどないのだ。
だが、3人で過ごす夏休みはなかなか充実していた。
2人は、いつも通りパソコンに向き合っているのは変わらないが、僕がいることで3食しっかり食べることができる。
僕は僕で、エアコンの効いた部屋で勉強をしながら2人のサポートをすることができる。
まぁまぁ、WIN-WINなのだ。
だが、ある日異変が起きた。
2人の携帯が異様に鳴るのだ。
今日は月曜日。
2人の配信日が木曜日であることからも、月曜日はあまり2人の話題で賑やかになることはない。
だから、こんな曜日にこんなに音が鳴ることは珍しいのだ。
なんでだ?おかしいな?
僕はなんだか嫌な予感がしていた。
2人が携帯を見ると、
『そういうのやめてください』
『まじで通報して』
『やめろってまじで』
と、なんだかつぶやきが荒れている様子。
なんだ?
僕らが画面を覗き込むと、そこには見慣れた顔の写真とともに、
「ミラーツインズのカガの中の人はコイツ!」
との見出しの記事のリンクが貼られている。
え?なにこの記事。
そして、見慣れた写真とは何を隠そう、この僕の顔だったのだ。
え?どういうこと?
僕は混乱し、どうしたらいいかわからなくなる。
なんで僕の顔なんだ?
僕は全く顔出ししていないし、2人の配信に声だって出したことがない。
なのに、なんで僕が2人と関係があるってバレてるんだ?
しかも、僕がガミってことは蒼と間違えられてるってことか?なんで?
僕は頭が混乱してしまい、どうしたらいいかわからなくなってしまう。
Vtuberの中の人に触れることは禁忌というか、触れないことが暗黙の了解。
なぜなら、それはVtuberとして、いや顔出しをして活動していない以上、それに突っ込む権利は誰にもないからだ。
特に、VtuberにとってはVが顔。それと共にある声だけを駆使し、魅力を伝えるものだ。
それに対して、中がどうのなんて野暮な話。
VtuberはVtuberとしての楽しみ方が必要なのだ。
顔がいい人が見たいのならば、顔を出している人の配信を見ればいい。
だが、一方で中の人に対して興味がある人が一定数いるのも事実。
そりゃ、魅力を感じることで実際にはどういった人なのか、そう考えることは人間のサガであるとも言える。
だから、実際そういったサイトもあるし、それはそれとしてもう対処のしようがないとも言える。
尤も、中の人としてサイトが出るのは前世といって、Vtuberを始める前に配信をしていた経験がある人が多い。
配信していた時の声と比べられ、同一人物ではないかと疑惑が立つ。
そして、配信時に顔も出していれば尚よし、とばかりに顔写真も乗っている。
そうでなければ、なかなか中の人など分からないのも実際のところだ。
しかし、今回は全く違う。
僕は顔出しをしていないどころか、過去に配信の経験もない。
ましてや、こんな本人のつぶやきのところにリンクを貼るなんて禁忌中の禁忌。
ありえない状況なのだ。
「ねぇ、なにこれ。ありえないんだけど」
「とりあえず、この記事見て見るか」
紫友と蒼はそう言い、僕が固まっている間にその記事を見る。
僕は頭がぐるぐる周り、うまく考えることができない。
なんでこんなことに?どうして?
僕は誰にも話したことがなかったと思うが。
そのサイトでは、僕の色々な写真と共に「なぜこの人が中の人と分かったか」や、「声を比べてみた」だの、出身地や今の大学まで事細かに記載されていた。
うわ、なんだこれ。
個人情報がダダ漏れしており、僕のことを全く知らない人でも、僕にたどり着くことはもはやできるのではないかという量の情報量。
そして、僕が目を奪われたのはこの文だった。
『彼が中の人であるということに気がついたのは、彼がミラーツインズのチャンネルのイラストについて話をしていたことだった』
え?もしかしてあの時か?
そう、僕が大学で、2人と共にミラーツインズについて話すだけでなく、チャンネルのイラストの変更について話していたあの時だ。
その時しか考えられない。
それ以外で、2人ことを外で話したことはない。
あぁ、僕の不注意じゃないか。
僕は何も考えられなくなっていた。
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