第43回配信 油断が生むものとは

今日は大学での試験。

これさえ終われば、夏休みが待っているという、素晴らしき場面。

何が楽しみかって?

別に、プールとか夏祭りとかそんなのじゃない。

だって、僕の夏休みは通常2人にほぼ軟禁される形になる。

他のバイトにもほぼ行けず、ただ2人と過ごす日々。

だが今年は違う。

今年の夏休みは、2人と配信につきっきりになる予定だ(前向きに)。


僕は、これまでできてなかったゲームの攻略や、今までとは違う配信内容への変更、可能ならば、新衣装だって考えたいと思っているのだ。

夏休みほど時間があれば、僕だってゆっくり考えられるし、2人の意見もきっちり聞ける。

去年までは、なぁなぁで過ぎていた夏休みも今年は違うものに変えるぞ。

夏休みを通して、2人をより素晴らしいVtuberに変化させるのだ。

僕は気合十分だ。


ちなみに、イラストは外部へ依頼しているが、案は3人で考えている。

だから、新衣装だって、3人でびっくり悩んで依頼するのだ。


まぁ、2人が今の衣装を気に入り過ぎて、今までほとんど変えたことはないんだけれど。

でも、僕としてはVtuberだからこそできることをもっと楽しんでほしい。

今は、ヨーロッパ風のドレスとスーツを着ているが、今度は薄手のドレスにしてもいいし、ワンピースとかでもいいかもしれない。

僕は想像を膨らませる。


そうだ、レミーとのコラボ以来、色んなVtuberさんからコラボの誘いもきているし、一つずつ受けていってもいいよなぁ。

夏休みなら僕も思う存分サポートできるし、2人も少しずつなら頑張れるだろう。

レミー以来まだ受けてはいないが、今ならコラボの波に乗って、受けることもできるだろう。


僕は今後の進展を考え、ウキウキしていた。

あぁ、もうテストも終わったし、考えることは2人のことだけ。


そんなウキウキ気分の僕に来る、一通の電話。

画面を見ると、紫友の表示。

はぁ、紫友か。なんだろう、嫌な予感しかしない。

僕が電話に出るとすぐさま、


「ねぇ!龍ちゃん!いつ来るの?今日は12時には終わるって言ってたよね?今何してるの?」


と甲高い声で言ってくる。

いや、12時ぐらいって言っただけで、まだ12時15分。

テストが終わってこれから帰るところだから。

そう伝えようとするも、


「ねぇ、聞いてるの?今日はさ、みんなでお昼食べて配信内容考える約束だったじゃん!早く帰ってきてよ?ねぇ?」


と矢継ぎ早に問いかけてくる。

いや、わかったって。待っててよ。

だが、急に「ちょっと変わって」と薄く声が入ったかと思うと、


「ねぇ、そんなことより龍。僕らのチャンネルがちょっとおかしいかもしれないんだよね。今見れる?」


と蒼の声に変わる。

その後ろで、


「ちょっとお兄ちゃん!そんなことよりって何?」


と怒鳴る紫友の声がうっすら聞こえる。

だが、それは一旦無視。

チャンネルがおかしい?

それは一大事かもしれない。

チャンネルはVtuberにとって命。

もし乗っ取りにあっていたりすれば、一刻を争う。

僕は急いで2人のチャンネルを調べる。

だが、どこも不思議なところはない。

ん?どこが変なんだ?


「蒼、どこが変?いつも通りに見えるけど」


と僕が聞く。

すると、


「何がって、いつも上のチャンネルの名前が書いてある部分は青色なのに、今日は緑なんだよ。どう言うこと?もしかして乗っ取られてるんじゃない?」


と言う。

僕はあぁ、と合点が言った。


「あぁ、これは昨日、僕が変えたんだよ。ごめん、言おうと思ってたのに忘れてた。そろそろ2人の絵の色を変えた方がいいかなと思ってさ」


と僕は笑いながら言った。

そう、僕は昨日テスト前にもかかわらず2人のチャンネルのイラストを考えていた。

簡単な絵なら僕も描くのは好きで、2人のチャンネル名を紹介する部分は僕がデザインしていた。

昨日ふと、緑にした方が映えるんじゃないか?

2人の良さがもっと伝えられるかも、と思い夢中になってやってしまったのだ。


テスト前によくあるでしょう?

関係ないことが気になって、ハマっちゃうあれ。

僕にとってはそれが、チャンネルの帯的なところだったわけ。


僕がそう伝えると、


「なんだぁ、そうだったのか。僕はてっきり乗っ取りとかにあって、勝手に変えられちゃったのかと思ったよ」


と、蒼は安堵の声を出す。

いや、そんな一部分だけ変える乗っ取りいる?

面白すぎるでしょ、その乗っ取り。

だけど、この変化に気づくなんてさすが自分達のチャンネルばっかり見ているだけはあるね。

僕はある意味感心した。


そんなこんなで電話は終わり、僕は帰る準備をする。

そんな僕の様子を密かに見ている人が1人。


今まで、大学では一切Vtuberについて話してこなかった僕が、生んだこの油断が僕らの運命を大きく変える。



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