第39回配信 それは突然の出来事だった
僕がマンションに入る前からすごい声が聞こえていた。
言い争う声と、何かが割れる音。
はぁ、どこだよこんな昼間から昭和の夫婦喧嘩みたいなのしているところは。
だが、僕はそんなことを思ったことをすぐに後悔する。
なぜなら、僕が今から入ろうとしている部屋から、うるさいと思っていた声が聞こえてきていたからだ。
はぁ、ここだったのか。
僕がドアを開けると、
「ねぇ、食べたのお兄ちゃんでしょ!わかってるんだから!」
「だから、僕じゃないって言ってるだろ?どうせ、自分で食べたの忘れてるだけだろ?人のせいにするな!」
と2人は大声で口喧嘩をしているところ。
うん、ひどいものだ。
部屋の中は、一歩入っただけでわかるほど散らかっている。
ゴミは投げられ、クッションは下に落ち、割れたガラスが散乱している。
さっき音がしていたのは、このコップか?
はぁ、僕はため息しか出ない。
マンションでこんなことやめてくれよ。
周りの人に迷惑じゃないか。
僕が、来たことに気がついたのか2人は足早にこちらに近づく。
いや、来なくていいから。僕を巻き込まないで。
だが、そんな僕の思いも虚しく、
「ねぇ!聞いてよ龍ちゃん!お兄ちゃん、私のプリン食べちゃったの。わざわざ頼んだ高級なやつだったのに!」
「聞いてくれよ、龍。紫友がプリン食べたとか言ってくるだよ。うるさいし、僕じゃないって言っても信じてくれないしさ」
あぁ、なるほど。今回のケンカの理由はプリンね。
2人は定期的に喧嘩をする。
当たり前だが、2人は基本的に2人でしか住んでいない。
僕もマンションにはくるが、僕が大学に行っている間や朝夜など2人しかいない時間は多い。
しかも、2人にはあまり友達がいないものだから、必然的にお互いに話すのはお互いだけ。
そうなれば、喧嘩も起こりやすい。
頻度としては、月に3〜4回といったところ。
もう、大人になってきているのにね。
その龍もさまざまで、ゲームやテレビ権、今回のようにスイーツのことも多い。
はぁ、いつまで子供なんだと僕は呆れる。
まぁ、でも今回はプリンか。ふぅん、プリンね。
僕が噛み締めている間に、
「だから、お兄ちゃんしか有り得ないでしょ!この家には、お兄ちゃんと私しかいないんだから!」
「前もそんなこと言って、自分で食べてたの忘れてたことあったじゃないか!」
と、口喧嘩は続く。
いや、そんな小学生みたいな言い争いやめてほしいよ。
いいじゃん、どっちでも。
僕はそう思うが、とてもじゃないが言い出せる雰囲気ではない。
今何かを言い出したら、2人の言葉の刃が僕に向いて、たちまち僕はKO負けだ。
僕は、2人が落ち着くのを待っていた。
すると、
「もういいよ!」
「こっちこそ!」
と、お互いの部屋へと戻って行ってしまった。
はぁ、やっと静かになった。
僕は、一息つく。
もう、いつものことだから、本当は放っておきたいところ。
だが、今日は水曜日。
明日もそのままならば、配信に響く可能性もある。そんなこと、あってはならないが2人にとって自分で自分の機嫌を取るというのは、何とも難しい。
だから、誰かが機嫌をとってあげなければならない。
だから僕は手を打つ。
はぁ、今回もいつもと同じ作戦で行くか。
いつもおんなじ作戦だけど、バレてないのかな?まぁ、いいか。
「コンコンコン」
僕は、葵の部屋のドアを叩く。
「なに?」
と、不機嫌な様子で返事がくる。
はぁ、機嫌悪いなぁ。めんどくさい。
僕は、部屋に入ると、蒼はベッドに寝転んでいた。
そして、
「なんだ、龍か!どうしたの?ほら、ここ座っていいよ?」
と、先ほどとは打って変わって楽しそうな声を出す。
だから、その声を紫友に向けてあげてよ。兄なのではないのか。
だが、僕はそんな思いを飲み込み、彼に言う。
「喧嘩しないでよ、めんどくさいから。明日の配信の話もしたいし」
僕の言葉にやっぱりね、という表情を浮かべながら、僕の方を向く。
そして、
「別に僕はどうでもいいんだよ。だけど、紫友が怒るから僕も嫌なんだよ。言うなら紫友に言ってよね」
と言う。
まあ先程の様子を見ていたらそんな感じだ。
紫友が怒っているのに対して、蒼は呆れつつ、あしらうのがめんどくさくなって怒っている感じ。
そうだよな、いつもそうだし。
だから、いつものセリフを言えば大丈夫だろ。
「喧嘩しないでよ、明日も配信あるんだし。紫友には僕から言っとくからさ」
と僕は言う。
これで勘弁してくれ。もうこれ以上、この歳になってこんなことに関わりたくない。
すると、
「まぁ、龍がそこまで言うんだったらいいよ。龍に免じてってやつで」
と蒼はあっさり言うと、のんびりと漫画を読み出す。
はぁ、とりあえず1人。
まぁでも蒼は簡単。基本的にあまり怒ることはないし、いつもあっさりしたもんだ。
問題は次の人。
はぁ、次も行くか。
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