第37回配信 (紫友視点)今日は女子会という名の審判
「完全プライベートで話すなんて初めてだから、ドキドキしちゃう」
ウキウキな声と共に始まるオンライン飲み会。
その声の主はレミー。そして、私。
レミーのウキウキ声とは裏腹に私は今日、レミーの審判を行う。
金曜日の夜、いつもならみんなの愛を見るのに忙しい私だけど、今回だけはお兄ちゃんに任せてきた。
だって、これは大事な事だから。
今日画面にいるのは、私のVとレミーのVだけ。
もちろん配信しているわけでもなく、お兄ちゃんはいないし、龍ちゃんもいない。
そう、今日は私とレミーの2人だけでのプライベート飲み会なのだ。
事の発端は、レミーの提案。
「一回2人で話してみたいな」
突然私宛に来たメッセージ。
最初は、2人でなんて無理だし必要ないし、理由もないじゃんって思った。
だから、する必要ないなと思ってすぐ断ろうと思った。
だけど、ふと私は思った。
ねぇ、なんで急にこんなこと言ってきたんだろうって。
私と2人で話すなんてはっきり言ってメリットない。なんか、ヤンデレが好きだとかなんとか言ってるけど、私は別にヤンデレってわけでもないと思うし。
自分達の好きに言ってたらそう言われ始めたけど、別に自分では自覚はないし、お兄ちゃんと私はただのネガティブなだけ。
つまり、レミーが私のことを好きになる理由なんてない。
だから、本当にレミーって私たちのことが好きなの?
もしかして、龍ちゃんが目当てなんじゃない?って。
私は、この前のコラボの時から気になっていた。
だから本当は聞きたかったんだけど、龍ちゃんの手前、聞いても誤魔化されるかと思って、言えなかった。
でも、冷静に考えたら好きにならないはずないなと思う。
だって、龍ちゃんと2人でずっと仕事の話でDMしてたの、私知ってるんだから。
そんなに親密になっといて、実は私たちのことが好きでしたなんてあり得ないでしょ。
それに、許せない。
私を差し置いて2人でメッセージのやり取りをするなんて。
そんな決意のもと始まったオンライン。
私の決意とは裏腹に、レミーはとても楽しそうだ。
待っててよ、私が審判してあげるから。
だが、始まったものの、私がそんな話をする隙間はなかった。
だって、
「ねぇ、2人って普段何してるの?」
「いつもの配信って言いたいこととか決めてるの?それともアドリブ?」
「コメントとかSNSっていつもチェックしてるの?やっぱり気になるから?」
と矢継ぎ早の質問。
私はここ数年、お兄ちゃんか龍ちゃんとしか話していないから、戸惑ってしまう。
どうやっていったら伝わるか、どういえば不快に伝わらないか。
そんなことを考えていたら、答えは遅くなるし会話は盛り上がらない。
私は、自分のコミュニケーション能力の低さを痛感する。
あぁ、だから他の人となんて話したくないの。
人と話すと自分のダメさが際立ってしまう。
私となんて話しても、誰も楽しくない。
それなのに、なんで話さないといけないの?
私は、泣きたい気分になった。
だけどレミーは、
「うんうん、そうなんだ」とか、「それって〇〇ってこと?」
と私の遅い答えを待ってくれるどころか、代弁までしてくれた。
くだらない返事でも、へーって言ってくれるし、うんうん、って相槌を打ってくれる
私はそんなレミーに、少しずつ心が解けていくのを感じた。
だが、
「ねぇ、そういえば実際、今何歳?今更だけど、私タメ口で大丈夫なのかなって思ってさ」
と何気なくレミーは言った。
私はドキッとした。
レミーに他意はないだろう、勿論だ。
だが、一気に現実に引き戻されるこの感覚。忘れていたのかもしれない。
私は、一般の人が思う“普通”な生活を送ってきていない。
高校から引きこもって、今も引きこもり。
お金はなんとか稼げているとは言っても、“普通”ではない。
だから、こう言った話はどう返したらいいのかわからなくなってしまう。
どうすれば、レミーは引かないでくれるの?
ねぇ、教えてよ。
「大丈夫。私、20歳だから」
かろうじてそう返す。
あぁ、なんで私はこんなやつなんだろう。
結局、話せるようになったって私は私。
何も変わらない。なのに、調子に乗ってレミーと友達になれるかもなんて思って。
私はこの返答で、更なる過去に突っ込まれ、レミーとの交友関係は終わると思った。
だが、
「あ、よかった。私22歳なんだよね。大体おんなじだった!これで、30歳とかだったらタメ口やばいと思っちゃったよ」
とケラケラ笑い、過去に踏み込む様子はない。
え?いいの?気にならないの?
私は拍子抜けした。
それどころか、レミーは違う話題へとまた話を進めていった。
私の顔や過去を一切聞かず、私が対面は嫌だろうと思ったのか一度も顔を見せてとは言わない。
私のことを否定することなく、ただただ話を聞いてくれる。
え?この人めっちゃいい人じゃない?
そう思い始めた私だったが、ふと自分の使命を思い出す。
そうだった、私には聞かないといけないことが!
「ねぇ、レミーって龍ちゃんのことどうも思ってるの?」
私は突然ぶっ込んだ。
これぐらいのことしないと、もう空気とか読んでてもわからないから。
あぁ、どうしよう。私は聞いたものの、その後の返答が怖い。
これでもし好きって言われたら?もしもう付き合ってるとか言われたら?
その時はレミーと共に私も命を絶つかもしれない。
だが、レミーは
「龍ちゃんって立花くん?好きって言うか、尊敬はしてるかもだけど。私が好きなのはミラーツインズの2人かな」
とあっけらんと言った。
え?本当?私は自分の耳を疑い、何度も聞き返す。
だが、返答はずっと同じ。
よかったぁ。
私はほっと胸を撫で下ろす。
よかった、龍ちゃんのこと好きじゃないんだ。
まぁ、好きにならない人なんていないとは思うけど、でもよかった。
これで私もレミーのこと好きになれる。
だって、いい人だし、何よりわたしたちのこと好きなんだもんね?
よかった、龍ちゃんの取られちゃうかと思ったもん。
まぁ、取らせやしないけど。
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