第36回配信 切り抜きを今日は見てみる

今日も、僕は大学帰り、いつものようにマンションへと向かう。

はぁ、きっと今日も2人はパソコンをいじりまくっているんだろうな。

僕は少し気が滅入りながらも、ドアを開けると、2人がいつもと違う様子で座っていた。


いつもならこの曜日は血眼になって、自分達のSNS等を見ながら病み全開のはず。

だが、今日は2人で動画を見ている。

しかも、自分達の。

なにをしているんだ?

僕は2人の近くに行き、なにを見ているのかよく見てみると、どうやら自分達の配信は配信でも、切り抜きを見ているようだ。

あぁ、とうとう2人は自分達の切り抜きも網羅するようになったんだ。


切り抜きとは、動画の一部を切り取って投稿する文化。ルールは守る必要があるが、ある程度リスナーの好きな部分を切り取り、好きを広げていくもの。

特に、Vtuberにとって切り抜きは重要なコンテンツになりうる。


生放送の多いVtuberにとって、2〜3時間の配信はざら。

そんな中で、効率よく見られる切り抜きは、自分達を知ってもらえる絶好の機会。

切り抜きから視聴し、面白い!と見てもらえることも多く、そこから新たなリスナーの確保へとつながることもある。


だから、別に切り抜きに注目することはいいことではあると思う。

だが、2人が切り抜きを見るとは思わなかった。

だって、僕の印象では2人は自分達の放送をほとんど見ないからだ。


それはおそらく、自分を客観視することで自分の嫌なところばかりが目に入ってしまうんじゃないかと思う。

2人は、自己肯定感が低いから過去の自分なんて見ようものなら破滅するんじゃないかと思っていた。


だけど、どういう風の吹き回しか、2人は真剣に自分達の切り抜きを見ている。どうしたのか?

どういった経緯でこうなったのか。


すると、


「ねぇ、こういう発言がみんな好きなのかな?もっというべきなのかな。こんなんのどこがいいのかわからないけど」


と、蒼がボソボソと言っている。

やっぱり、ネガティブな蒼が出ちゃってる。

別に、そんな思いまでしてみる必要ないのに。

切り抜きって本来、本人に見られることを想定して作られてはないんだから、別に無理してみることない。

まぁ、それはいつものSNSとかもそうだけど。


だから、僕は聞いた。


「ねぇ、今まで切り抜きとかあんまりみてこなかったじゃん。どうしたの?」


そう聞くと、蒼が顔を向ける。

え、なんか顔色悪いけど。

そんな顔してまでみるものでもないと思うけど。この切り抜きは面白いけどね。


「だって、僕達のことが好きでこんな手間暇かけてやってくれてるんだよ?見ないと失礼だよ。本当は嫌だけど」


と言う。

あぁ、自分の体調よりもリスナーの好きを受け止めようとしているんだなと思うと、僕は心が温かくなるのを感じた。

どこでこんな心の変化があったのかはわからないが、更なる2人の成長を感じで僕は嬉しくなる。

そうだよね、リスナーあっての2人だもんね。

大事な心だ。


だが、そんなふうに感動している僕の横で、


「ちょっと!なんでルルちゃんレミーの切り抜きにコメントしてるの?信じられない!私たちだけのにしてよ」


「ねぇ、ここのコメント見てみて。サラちゃんここでも発言してくれてるよ。嬉しいんだけど!」


と騒いでいる紫友がいる。

どれだけ対照的な場面なんだ。

本当に双子なのか?

もっと、蒼を見習ってくれ。

そして、切り抜きのコメントも注目してるってちょっと引く。

せめて、自分達に向けたものだけにしてください。


まぁ、なんにせよ、切り抜きを把握することはいいかもしれない。

切り抜かれるってことは、それだけ需要がありそうだなとリスナーの人が判断したってこと。

それは、需要と供給を理解するためにも大切なことではあると思う。


っていうか、2人の切り抜きヤンデレ発言の切り抜き多いな。

まぁ、そりゃそれが売りなんだからわかるけど、もっと「光る神プレー!」とか「2人の恋愛観」とかあるのかと思ったけど、全然ない。

それもそうか、そもそも恋バナとかしたことないし。

そういうのも需要としてあるかもな、と僕はメモする。


最近、僕はいいんじゃないかとと思ったら企画をメモするようになった。

今までは、特に2人の自主性に任せていたというか、ワンパターンでもいいかなと思っていた。

僕に制御できる部分はするが、あくまで2人のペースでできるように支援していくことが僕の役目だと思っていた。

だから、企画を提案することはあるものの、そこまで企画という企画は作らず、その場の流れで進むことが多かった。


だが、レミーとのコラボを通して、2人の可能性をもっと感じた。

もっとできることがあるんじゃないか、こんなことも2人に向いているんじゃないか、ってどんどん思い浮かぶようになっていった。

これは、コラボを終えて、僕にあった小さな変化かもしれない。


その日は、2人とも切り抜きを見ながら喜怒哀楽(ほぼ蒼は哀、紫友は怒)することで終わっていった。

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