第30回配信 (レミー目線)ねぇ、偽物だったら容赦しないからね

私は、メッセージを送ってからというもの、ずっとドキドキしていた。

どんな返信が返ってくるんだろうか、と不安と期待に胸を躍らせ、食事も喉を通らない。

もしかして病んでる返事とか?

無視されたらどうしよう、でもそれはそれで良い、なんて。

私は、1分ごとに画面を見ては、まだきていない返事にため息をつき、また見てしまう時間を繰り返した。


ところで、2人は、ある程度有名であるにも関わらず、一切コラボを行っていない。

そりゃ、個人でやっているとコラボをしにくいことは十分に考えられるが、2人ほどの知名度があればコラボの誘いがありそうなもの。

それなのに、なぜこれまでコラボをしたことがないのか?

そう考えると、一度もしたことがないということは断っている可能性が高いとも言える。

そう考えると、私は胸がスッと冷え鼓動が速くなるのを感じた。

え、もし断られたらどうしよう?本物かもしれないのに、金輪際関わってもらえなかったらどうしよう。

絶対にそれは嫌。絶対にコラボしたい、してみせる。

どんな手を使っても。


そして、送ってから3時間後、ピコンッと通知音が鳴った。

今、通知をオンにしているのはミラーツインズのDMだけ!

私は光の速さで画面を見た。


すると、


『返信が遅れてしまって申し訳ありません。1度検討させていただきたいと思います。返信の期限はございますでしょうか?お返事お待ちしています』


え?もしかして、また待たないといけないってこと?

そりゃ、すぐに快い返事がもらえるとは思っていなかったけれど、実際に来るとショックが大きい。

それと、DMの文面から全然ヤンデレを感じることができないんだけど、どうした?

もっときていいのよ。

どっぷり、ぐってりと。


もっと、


『はじめての人と会話なんてしたくありません』

って遠ざけてくるとか、

『私たちとコラボなんて、私のこと見ててくれたんですね。ずっと私たちのことだけ見ててくださいね』

ってちょっと重めの発言してくるとか、そんなことを想像していた。

だけど、返信はまるでサラリーマンが送ったもののようだった。

まぁ、でもこれからかもね。親しくならないと病みなんて出ないよね。


あれ?と私はもう1つの名案が思い浮かんだ。

あ、もしかしてマネージャーさんとかがいるのかな?

個人だって言ったって、2人ほど有名なら忙しいだろうし、マネージャーがいる可能性も高い。

ならば、病みが出てこないのも仕方ない。

だって、マネージャーはヤンデレじゃないだろうしね。

なるほど、そうかもしれない。

私は、自分の想像力でなんとかコラボに対するモチベーションを保つことにした。


その日からの1週間、私は何も手につかなかった。

いつ返信が来るか、なんて返信がくるか、そのことだけを考えて、夜も寝むれなかったのだ。

はぁ、こんなに期待と不安が溢れるなんてこれはもはや恋だわ。


期限の1週間になる当日、

ピコンッという通知音とともに、私が待ち焦がれた返事が来た。


『返事が遅くなってしまい、申し訳ありません。コラボは初めてですが、よろしくお願いします!』


はわわわ!!

私は、見た画面が信じられず、スクリーンショットにおさめ、証拠を残した。

うわぁ、もうこれだけまったからダメなのかと思ってた。でも、2人は真剣にこの1週間を考えてくれていたんだね。

嬉しい。なら、私もより真剣に答えるからね。

最高のコラボにしよ。


そして、その日から私はそのマネージャー(仮)と連絡を取り合う日々。

コラボの基礎から、コラボ内容の取り決め、当日の流れまで何から何まで打ち合わせを重ねた。


すごいな。マネージャー(仮)からのメッセージが来るたびに私は感動していた。

コラボするからといって、私任せにしすぎず、しかしわからないところはきちんと聞いてくる。

こういうところ、きちんとしてくれる人っていうのは、なんだか気持ちがいいよね。


だけど、やっぱり2人ではないよね。

私は、何度もメッセージを重ねることで2人ではないという確信を得た。

ヤンデレなら、こんなに初対面と話せないだろうし、病みっぽさも感じない。

むしろ爽やかさを感じる。

2人ともメッセージしてみたかったけどな、ってね。


そして、日は過ぎとうとう明日がコラボの日となった。

あぁ、楽しみすぎる。

2人のあの声で、一体どんなセリフを聞かせてくれるんだろうか。しかも、私の名前を呼んで、私のために言ってくれるセリフ。

そりゃ、偽物だろうと本物のだろうと、ヤンデレとコラボできることはとても至福なのよ。

眼福ならぬ耳福なの。そのセリフを聞くだけで、私には力がみなぎる。

しかも、2人はヤンデレのセリフの時ちゃんと声がちょっと低い気がするの。

これも私にとっては、かなりの高ポイント。


でも、私は本来の目的を忘れてはいないと頭を振る。

2人が本物のヤンデレがどうか、それを見破ることこそが、今回のコラボの意味。

油断してはいけない。私のように、期待している世界のヤンデレ好きたちのために、私は頑張る。

そりゃ、ヤンデレ営業をしてくれてることで喜ぶ民もいるでしょう。でも、なら本物のようにいつでもどこでもヤンデレであってほしいのよ。わかるでしょう?


絶対に、素顔を暴いてみせるんだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る