第16回配信(蒼目線) 今日は僕の話をしようか聞きたいよね?

「ねぇ、蒼くんってやっぱり×××だよね」


ハッ。

僕は目を覚ます。時計を見ると、時刻は夜中の3時。

僕は汗で濡れたパジャマに辟易する。

別になんてことはない。いつも見る夢。

僕が学校に行けなくなった、人と関わりたくなくなった、ただそれだけのトラウマを何度僕に見せれば気が済むのか。

僕はいつもこの夢を見て、そして目を覚ます。

満足に寝られた夜などあの出来事以来一度もない。

きっと、紫友もそうに違いない。

僕は、水を飲みにベッドから出る。


今日も目が覚めてしまった。

僕はコップに水を注ぎながら、ため息をつく。

僕は、いつまでもあの時から動くことができていない。

何をしても、僕は何も変わることができない。この夢を見るたびに、僕はそんな思いを突きつけられるのだ。

いつになったら、僕は元に戻れるのか。

こんな夜はあの日のことを思い出す。


あの日、僕と紫友は誰も知らないマンションへ行った。

誰も信じられなくなり、誰にも会いたくなかった僕らが逃げ込めた場所はここだけだった。

もう誰にも会いたくなかった。

この場所はかつて輝き、僕らがまだただの子供だった頃の思い出の場所。


僕らは、そこから動けなくなってしまった。

ただただ、日が昇り沈むのを眺めるだけの毎日。

何も考えることはなく、ただ毎日が過ぎていく。

時間が過ぎ、また次の日が来ることをただ待つだけ。

誰かが心配しているかもしれない、探し回っているかもしれない、そんなことも考えることができなくなっていた。

そんなことを考えるキャパシティなどなかった。

そんな毎日を過ごしていくと、ふと1人の顔が浮かんだ。

あ、龍には言っておかないと。ふと、そう思った。


後から思えば、このマンションに逃げ込んだのも、龍ならこの場所を知っているという思いがあったからかもしれない。

僕らの子供の頃の思い出には常に龍がいたから。

僕は動けるようになった数日後、龍に一言連絡した。

僕ら3人しか知らないこの場所のことをたったこの一言、「秘密基地」そういうだけで。それ以上に説明する気力は僕には残っていなかった。

この一言を送ることだけが、僕にできる最大の力だった。わからなければそれまで。

僕達はここで終わるだけ。僕と紫友も、僕ら2人と龍との関係も。


まぁ、来ないだろう。これで僕達2人の居場所は誰にも知られることなくここで朽ちるのみ。

そんな人生もいいね。

そんな思いだった僕らのもとに、龍はきた。

連絡をして何時間もしないうちに、息を切らせながらきた。

僕は、あの一言だけで来てくれた龍が信じられなかった。


龍は、僕らを連れ戻そうとする様子はなくただ僕らのそばにいた。

ずっと、僕らと共に時間が経つのを待ってくれていた。ずっと、ずっと。

何を言うこともなく、ただそばにいてくれた。

励ます言葉も、帰ろうとただの一言も言わなかった。

そのことがどれだけ心に染みるか、僕は考えたこともなかった。

あぁ、もう僕らには龍しかいないそう思った。


その日々をなんとか過ごし、今僕らはVtuberをしながら生活している。

人生というのは、不思議なものだ。

なんとか生活できるようになったものの、まだこんな夢で起きるほどには僕の心は安定していない。

あの頃よりは少しは成長しているだろうけど。

そういえば、Vtuberを始めた時も大変だった。


ある日、急に龍がこれしよう!と誘ってきたのがVtubeだった。

初めは、なんでこんなこと誘ってくるんだろうと思っていた。

一応、そういうものがあるということは知っていたが、それ程度の知識。

特にVtuberが好きなわけではなかったし、龍も好きだとは聞いたことがなかった。

なのに、なんでそんな提案をしてくるのか。

なんで?これからも3人で静かに過ごしていければいいじゃん。

Vtubeなんて、全世界に配信するもの。なんで誰かに僕らのことを知らせようとするのか。

顔が見えないとはいえ、もう僕らは他人と関わりたくない。もう誰にも僕らは知られなくていいし、知られたくない。

外に出ていかなければ、外と関わらなければ生きていけないのならば、もうこの場で朽ちても良いのに。


僕は龍の考えていることがわからなかった。

だが、ある日惰性でつけていたテレビで流れてきた情報から納得することができた。

それは、在宅ワークを行うことで社会とつながるといったものだった。

あぁ、そういうことか。龍は僕らに社会と繋がってほしいんだ。もしくは、助けてやってくれって、家族に頼まれているのかもしれない。

引きこもっている僕らをどうにか社会復帰させるために、なんとか僕らが興味を持ちそうなものを準備してきたんだ。

なんだ、僕らのことは家族に頼まれているから面倒見てくれてるだけなんだ。

僕らのことが好きだから一緒にいてくれているのかと思ったのに。

そして、それができれば僕達を見捨てるつもりなんだ。

あぁそう、龍もそういうことするんだ。

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