第15回配信 ふぅ、なんとか終わったか

僕が思っていたよりも、2人のリスナーは2人に毒されており、かつヤンデレ営業を営業として受け取りむしろ盛り上げる方にシフトしてくれるとてもいい人たちだった。

その証拠に、みんないつものヤンデレと同じ反応をしている。


よかった。僕はホッと胸を撫で下ろした。

もしかして、2人のVtuber人生は終わったんじゃないかなって思った。

他の配信者にわざわざ時間帯を被せ配信し、しかもその相手と仲良くもないのにその話をし、よもや自分達の配信を見るように言うなんて普通なら受け入れられないだろう。

だが、2人のキャラクターがそれをも営業だと錯覚させ、逆に成功しているのだ。

でも、冷静に考えれば、そりゃそうだよな。

こんなの本気だと思う人なんているわけがない。

本気だと知っているが故に、僕はいらぬ心配をしてしまったというわけだ。


だけど、2人の努力も無駄ではなかったことはこの配信を見れば分かる。

いつもとは違う曜日、時間帯の放送にも関わらずいつもよりも沢山の人が見にきてくれている。

その中には以前の同時配信では「まりあちゃんねる」を見ていた人はもちろん、新たな人の開拓にもつながったといえるだろう。

たまには、木曜日から飛び出して違う曜日に配信できるように体調を調整してもいいかもしれない。

それに、みんな2人のヤンデレについてきてくれている。それはありがたいことだし、これからもこの路線でいいんだろうと僕を安心させてくれた。


[まりあちゃんと配信が被った時、ちょっと寂しかったんだよね、紫友]


【そう、もう私たちに興味ないのかなって心配になっちゃったから】


2人が明るく言っているだけに、本気にはされていない。この塩梅が大事なんだろうけど、もうその辺にしておけ。ボロが出ても困る。

僕の合図に気がついたのか、少し控えめになる2人。


[そういえば、最近このゲーム始めたんだよね]


【あぁ!そうそう。今度はこの配信しよっかなーって言ってたんだよね】


一方で、まりあちゃんねるの方も盛り上がりを見せている。

初めは普通に雑談をしていたが、相手も土曜日に珍しく2人が配信していることに気づき、話題にしている。

どちらのリスナーも相手がなんて言っていた、とコメントで言う人はいないが、同時配信ならではのコメントもあり、より盛り上がりを見せている。

コラボするの?なんて言っている人もいるくらいで、なんとか「まりあちゃんねる」の配信を邪魔することなく、2人の配信は進行することができた。


配信終了後も、つぶやきには2人に関するもので溢れ、トレンド入り。

コメントや視聴者数も普段と変わらない、いや普段以上にあり、あっという間に、2人を見ていた人たちは戻ってきてくれたと言えるだろう。

まぁ、たまたま「まりあちゃんねる」を見ていたともいるだろうし、両方をこれから見続ける人ももちろんいるだろう。

だけど、2人にとってそんなことは、今考えることではない。

今大事なのは、今この時見てくれている、応援してくれている人がいるということだからだ。

はぁ、なんだったんだこの怒涛の日々は。

僕はどっと疲れが出た。


数日後、発表がありますというタイトルのもと、まりあちゃんねるは緊急生配信を行った。

実は、自分はぶりっ子キャラを行なっていくことに悩んでいたこと、本当は自分はボーイッシュなキャラで行きたいことなどを赤裸々に語ったのだった。

結局、まりあはキャラクターを模索していただけだったのだ。

別に、ヤンデレを奪いたいから2人の配信に被せたわけでもなく、ただただ模索していた時に配信が被っただけだったのだ。

その配信後、何かが吹っ切れたのか、「まりあちゃんねる」はスポーツ配信など様々なジャンルに挑戦するようになり、よりリスナー数を増やしたのだった。

なんやかんや双方にいいことがあってよかった。


だが、2人にとってそんなことはどうでもよかった。


「ねぇ、見て!今日はみんな私たちの感想ばっかり」


「よかった、やっぱり被せたからこそ、みんな僕らのところに戻ってきてくれたんだよ!僕らの愛が勝ったんだよ」


2人はこんな清々しい素敵な配信後も、いつものネットサーフィンを行う。

「まりあちゃんねる」のことなんてもはや忘れているような、いつもの反応。

2人にとって相手がどんな反応か、などどうでもいいことなのだ。

2人を見てくれる人が戻ってきてくれることだけが重要。

まぁ、2人らしいけどね。

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