第14回配信 2人の配信を見てあげてほしい

2人が考えた策とは、名付けて


「もちろん私たちの配信見るよね作戦」


作戦名からも分かるように、策は至ってシンプル。

自分達の配信を見るように促すというもの。

2人は、あえて「まりあちゃんねる」の時間に合わせ配信を行い、その同時配信で自分達の配信を見るに決まっているリスナーを取り戻そうという作戦なのだ。


これだけ相手の戦況を分析し、自分達と他のVtuberとの違いを知ったにも関わらず、やることはいつもの病み。

2人にはこれ以外の行動はできないのか、まあ2人の専売特許でもあるが。


そんな策を編み出した2人はなんとしても成功させるために必死に準備を行った。

まず、何曜日に配信を行うか。これは簡単だった。

Vtuberあるあるだが、生配信が多い。だから、配信前に大体何時にやるよーと呟くことが多い。

そのため、いつでも配信できるように準備しつつ、つぶやきを監視しておけばいいのだ。

つぶやきを監視することは2人の得意分野。だから、なんの問題はなかった。

なんの問題はないのだが、うん、これは僕が大変だったけどね。毎日来させられて準備させられて。配信すると決まっているわけでもないのに。

お陰で、僕は数日間寝不足続きだった。


そして、もう一つは2人の体調をコントロールすること。不安定になりがちだからこそ、自由にあまり他人と関わらずできるもの、そして時間に縛られないもので2人は生活を行ってきた。

だから、他のVtuberはどうか知らないが、2人にとって急に配信が決まってしまうことは体調的に難しいものがある。

だから、僕はこの点でこの策はどうせ諦めるだろう、2人もあまり周りを気にしない生活をしてほしい、そう思っていた。


だが、2人の執念は僕の予想を大きく上回り、なんともまぁ毎日のいつ配信するかわからないという状況に耐えたのだった。

そして、その日は突然やってきた。


「今日は雑談配信するよん!みんな22時に集合ね」


通知音と共に流れてきたつぶやきには、待ちに待っていた、まりあの配信を告げるもの。


「来たよ、紫友。準備できてる?」


「もちろんだよ、お兄ちゃん。私たちの大好きな人たち取り返すんだから」


2人は、まるでこれから戦いにでもいくような表情を決め、ケンカを買ったのだった。

だが、ここで忘れてはいけないのがケンカと思っているのはこちらサイドだけってこと。

相手はなんの意識もしていないし、リスナーを奪ったとも思っていないよ。

あと、リスナーって君たちのものだけじゃないから。


刻々と配信時間へと近づいていく。

しかも、相手が雑談配信をすると予告したことからこちらも雑談配信に決まってるでしょ、と今日の配信は当然のように雑談。

これで、相手に沢山のリスナーが流れていったとしたら目も当てられない。

とりあえず、励ます準備はしておこう。


22時が周り、配信が始まる。


[土曜日の夜にこんにちは、カガでーす]


【ガミもいるよん。今日は珍しく土曜日に配信するよー】


明るく爽やかに、配信はスタートした。

今日の配信前には2人は情緒不安定にならなかった。よかった、いつもこんなんならいいのに。


2人が土曜日に配信を行うのは珍しいと、人は集まり、あっという間に視聴者数は1万人を超える。

よかった、なんとか作戦は成功している。

失敗化した日には再起不能になると思ったから。


[ん?なんで木曜日じゃないのに配信してるのかって?]


そうだよね、やっぱり突っ込まれるとは思う。さぁ、どう答えるのか。

僕はいちリスナーのようにドキドキしていた。

素直に答えるほど、2人は馬鹿じゃないだろう。というか、リスナーも反応に困る。


【え?それはもう、みんなに会いたかったからに決まってるじゃん】


そうそう、いいね。紫友は動画内ではいつもよりも会話がうまいような気がする。

リスナーに期待というか良い思いをさせつつ、適度な嘘とかも大事だから。

そう思い、油断していた僕に飛び込んできたのは、


[いや、紫友それ嘘でしょ。まりあちゃんに対抗してるんでしょ]


という葵の言葉。

えー!!それは言っちゃダメだって。

どう考えても、新人Vtuberと競ってるなんて言ったら炎上案件。

それは心の中に留めとけ。

僕がダメの合図をしても2人はやめない。

僕の静止を無視し、雑談を続ける。


もうダメだ、僕はガックリと肩を落とす。

今までなんとか炎上せずに来れていたのに、こんな日がくるなんて。

いや、わかっている。最近は炎上も結構あるもの、乗り越えるものだって。

だけど、コメントが見れない。

だって、コメントは凄い勢いで流れていくんだから。


【そうだよ、みんなうちらの配信だけ見てればいいんだからね】


いや、だからまりあちゃんねると被せてそんな発言しないでよ。

そう思った僕に飛び込んできたコメントは僕の予想とは全く異なるものだった。


『やば!まりあちゃん見てる俺たちに嫉妬してるってこと?』

『最高すぎる!』

『2人しか勝たん』

『2人のことしか見えてないで』


え?みんなこの2人に毒されているの?

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