第13回配信 2人の執念はすごかった

2人が本気になれば、まりあちゃんねるの視聴者数の把握、リスナーの特定は簡単だった。


「紫友、わかったよ。わかっているだけで、僕たちと被っているリスナーは17256人。そのうち、この前の放送で僕たちの放送を見ていたのは8634人、まりあちゃんねるを見ていたのは5214人。この5214人の子達は取り戻さないとね」


2人は普通のVtuberではとてもやらないことをしている。

「まりあちゃんねる」を見ていた全ての人を特定するため、コメントやSNSの感想をリストアップ。そして、その見ていたリスナーの中から、自分達のリスナーと照らし合わし、被っている人たちを炙り出すという悪魔のような作業を、もうかれこれ数時間はやっているのだ。

僕は、2人の怒りに圧倒され何もいうことができない。

2人がこんな恐ろしいことをしないように、抑止力となるために僕は存在していたのに。


「なるほどね、じゃあ残りの、えっと、、3408人の人たちはそもそも見てないってわけね。それもありえないけど。でも、今は論点が違うから。今大事なのは、まりあちゃんねるが5214人の私たちのリスナーを奪っていっていることが問題だから」


もはや、僕という抑止力がない2人は暴走機関車と化している。

止めるものはいないし、僕ももう止める気はない。止めるために使う体力で、僕は明日の自分の体力の蓄積をしたい。


ここで冷静な僕から一つ。

感想やコメントもしない、いわゆる見る専のような人もいるわけだから、これは正確な数値とは言えない。

それに、同時視聴っていうか交互に見るタイプの人もいたかもしれないから、こう言った点でも正確な数値とは言いにくいと思う。

しかし、そんなことは言わない。僕だって、命は惜しいのだ。

だが、この数値が正しくはなくとも、最低でもこの数値といったものではあり、全く役に立たないものではない。

どれくらいの年代や性別のリスナーが他の、今回なら「まりあちゃんねる」の動画を見ているのか。そういったことを知ることで、今後の企画や方向性を定めていくことにつながる。

だから、意味がないわけじゃないのだ。ただ、あまりする人がいないだけで。


2人は異常な方向に走ってはいるが、リスナーを増やそうという努力は大事だ。

Vtuberをやってきて、はや3年とちょっと。少しずつ登録者数が増えていき、大台の50万人にいった。

だが、あくまでも僕の目標は、元の2人に戻ってもらうこと。

2人の笑顔が増えてきた要因として、確実にVtubeがある。ならば、Vtuberであることが必要であり、Vtuberとしての成長は必須であると言える。

2人を認めてくれる人たちをこれからも増やしていき、100万人も目指していきながら、2人が2人らしく生きていける道を探していきたい。

そのためには、ある程度の努力と動向の把握は必要だと思う。

だから、大事なことなのだ。他のチャンネルのリスナーの動向を把握することは。

だが、1つのVtuberにこだわり、そこから奪おうというのは考えとして間違っていると思う。


「僕たちのリスナーを奪うなんて許さない。きっと、リスナー達も騙されてるんだよ」


普段は、紫友よりはマシな考えを持っているはずの蒼さえも、冷静さはカケラもなく、過激な考えを掲げる。

そんなこと無いけどね。

奪ってないのよ。今はどこも弱肉強食の世界。それはVtuberの世界も同じ。

リスナーを奪い、奪われは普通。リスナー達は常に新しく、心奪われるものを求めている。

その波に乗れなければ、廃れていってしまうのも事実。

その事実を受け止め、再度スタートをきることができるかどうかが、その後の活動を左右するだろう。


まぁ、ここまでちょっと語ってしまったが、あくまでフォローしておくと、2人にとって大切なのは自分達のファン。つまり、自分達のファンが自分達以外を見ることを許さないために、より自分に目を向けさせるために行う行為。


2人にとっては自分達を見ていない人には興味がない。

だから、別に「まりあちゃんねる」のリスナー全員を奪おうというわけじゃないのだ。

自分達と被っているリスナーが自分達以外を見ている、その事実が2人にとっては耐えられないだけ。

まぁ、こうやってフォローしたところで、2人がしていることが正当化されるわけではないけれど。だけど、僕としてはフォローせずにはいられない。2人の一番のファンである僕がね。


「ねぇ、こうしたらいいんじゃない?」


「そうだね。紫友天才だ。これできっと、みんな戻ってきてくれるに違いない」


2人は、突然目を輝かせると話し合いを始めた。

そして、2人は自分達にリスナーを取り戻し、また「まりあちゃんねる」をぎゃふんと言わせる策を考えた。

全ては、愛するリスナーを取り戻すために。

いや、別に悪いことをしているわけじゃないんだし、ぎゃふんっていう表現はおかしいと思うんだがね。ただ、ちょっとわかってほしいんだよね。木曜日のヤンデレは2人だって。

はいはい、もう好きにしてよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る