第12回配信 2人の配信よりもこっちをみる人が、、

2人は、あの日から話題の新人Vtuberを目の敵にし始めた。

2人の前でその名前を出すことは愚か、それを匂わす発言をするだけで爆発するほどの威力をもつものとなってしまった。

これまでも新人Vtuberが出てくるたびに、自分達のリスナーが見ていないかチェックする癖はあったが、ここまでひどいのは初めて。

それは多分、リスナーが被っていた割合が高かったことと、僕が見ていたことがバレてしまったから。

だから、僕の携帯には毎分チェックが入るようになった。特に、動画サイトでは2人以外の動画を見ていないかを、おすすめされる動画までチェックされる。

そこで2人以外の動画をおすすめされれば怒り爆発。嫉妬爆発となるのだ。

いや、むしろその人のだけでなく関連動画をあげることこそこのおすすめ機能の本質だから。そやって、派生したところにも関心を持ってもらおうと言うのが、大切だから。

だが、2人にはそんな常識も通用しない。僕は反論することも億劫になり、言いなりになるしかなかった。

いや、僕にはプライバシーってものは存在していないのか。


話題の新人Vtuberの名前は、まりあ。

「まりあちゃんねる」というチャンネル名で、ゴシックロリータを着たぶりっ子キャラとして活動中。

トークのキレとやはり近年には珍しいぶりっ子全面な感じが、特に男性にウケやすいのだろう。

そんな分析ができるくらいには、冷静に見れているのだが、2人にはそんなことは伝わらない。

僕が、興味を持ち、いちファンとして疑わない2人は、僕が携帯を見ているだけで、すごい目で見てくる。

いや、そんな顔されても僕も調べ物とかしたいし。


まぁ、2人には自分達の配信に集中して欲しいものだ。

「まりあちゃんねる」を意識し、めちゃくちゃな配信になることは目に見えている。出来るだけ、思い出さないようにしてほしいが、そんなことは通じない。


配信日の木曜日になっても、2人は変わらない。

いつものなら嵐の前の静けさのように、配信前には穏やかな2人も、今回だけはパソコンの前から離れようとしない。

まりあちゃんねるのリスナーとコメント、SNSに夢中なのだ。

もはや、「まりあちゃんねる」のヘビーリスナーだとも言える。

ある意味、ファンだよ。


そんな2人を無視して、僕はいつも通り配信の準備を整える。

すると、


「ちょっと!!これ見てよ!」


と言う、紫友の悲鳴が聞こえてきた。

なんだなんだと僕が駆け寄ると、紫友の開いているサイトには、「まりあちゃんねる」の文字。

なんだ、またかと思ったのも束の間、「まりあちゃんねる」は今、ライブ配信中だった。しかも、


「今日はちょっと病んでるかもです」


といったタイトルで。

ヤンデレ配信者は少ないわけではない。そもそも、ヤンデレ営業というのは先駆者がおり、それを僕たちも真似をしているといえばしているのだ。

だから、別に専売特許なわけではないし、しょうがない。

それに、ヤンデレを売りにしていない人だって、たまにそういったら重めの発言をすることで、メンヘラ発言、と話題になることも多いんだし、別に気にする必要はない。

そりゃ、少しキャラが被ってしまうこともあるさ。今は、Vtuberも激戦区。みんな何か特徴や特技がないと生き残れない時代なんだから。


だが、目の敵にしていたVtuberからおんなじ曜日のおんなじ時間に、そんな配信をされれば、2人は意識せざるをえない。

自分達の専売特許とも言えるヤンデレを取られては、2人に打つ手はない。

2人が他のVtuberと違うところといえば、そう言ったところしかないんだから。そう言ってはなんだけど。


まぁ、ヤンデレが2人の特徴であることには変わりない。

なんとか宥めさせても、2人の嫉妬の炎は収まらない。


そして、なんと間の悪いことにまりあちゃんねるの配信時間は2人の配信時間と丸かぶりしていた。

始まりこそ異なるものの、終わりの時間は同じ。

配信時間をかぶせ、おんなじような配信をしているなんてケンカを売っていると思われてもしょうがない。

だが、別に気にしなくてもいいんだ。いつものリスナー達はこの木曜日を楽しみにしてくれているし、意識しすぎても、かえって良くない。

相手だって何も考えずに行っているのかもしれないし。


だが、良くないことに、まりあちゃんねるに流れた人も多かったのか、視聴者数がいつもの3分の2ほどしかいなかったのだ。

これには、僕の宥めは効かない。


「私たちのためにもう時間は使えないってこと?」


「売られたケンカは買わないとね。僕たちのこと舐めてるんだったらこっちだってやってやる」


「当たり前じゃん。私たちの好きな子、奪ってくなんて許されないから」


2人は、ライブ後、いつもとは違う方向に燃えていた。

やめてほしい、と思うと同時に2人のファンでもある僕はこのケンカを買ってほしいとも思うのだった。

あぁ、僕だけは中立でないといけないのに。

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