第10回配信 休日はこうやって終わっていく
次は布団でも干すか、と掃除を終えた僕が動き出そうとすると、今度は蒼の独り言が聞こえてくる。
「はぁ、こうしてる間にもみんな他の人の動画見てるんだよね。考えたくないけど、絶対そうだし」
とぶつぶつ言いながら、新聞を破いている。
ぶつぶつ言っているだけでも怖いのに、新聞もやばいているなんて怖さが倍増する。
何をぶつぶつ言っているのか、あとゴミを増やさないで欲しい。
そんで、できることなら放っておきたい。聞こえなかったふりをして、スルーしたい。
だが、ここでヤンデレの鉄則。
独り言は無視するな!
独り言なんて普段あんまり言う機会がないものだし、ましてやこの2人はかまってちゃん。
聞こえてくる独り言は問いかけ。言う勇気がないから独り言を装っているだけだから。
こんなに大きい声の独り言なんてあるわけないんだからね。
独り言にはヤンデレの種が詰まってる。無視すると後が厄介。灰になって帰ってくる。後で病みの世界に行ってしまっては戻すのが大変。
というわけで芽吹く前に摘んでいくのが大事。
だが、今回の議題は難しい。
配信していない時に、他の人の配信を見ているのなんて、はっきり言って当然なのだ。
まぁ、別に1人の人の配信しか見ないタイプの人もいるだろうけど、そんな人は稀。
大体の人は、複数人好きな人がいて、それをローテーションしていることで楽しんでいるコンテンツだ。
ましてや、配信していない間にも、その人だけの配信をみているなんてそんな人そうそういない。
だが、そんな理屈は蒼には通用しない。というか、ヤンデレには通用しない。
蒼にとって大切なのは、リスナーが自分達のことだけが好きなこと。
いつも自分達の配信しか見ず、常に自分達のことしか考えおらず、生活の中心が自分達であること。
これが、2人の望む世界。
怖い。冷静に考えて怖いが、2人にとっての普通はそれ。普通とは難しい。人によって違うんだから。
大事なのは、否定をしないこと。
今見ている人がいるという事実を伝えること。そして、気を紛らわせること。
これが大切。
というわけで、
「いや、でもほら今見てくれている人もいるだろ。この人なんて数分前にコメントしてくれてるぞ」
そう言い、画面を見せる。
今っていうことが大事だ。いまみているひとがいるよー、今君のことをかんがえているひとがいるよー、そんなことを暗に伝えるのだ。
想像力だけは、人一倍あるんだから。その後の展開は本人が考えればいい。
僕が、パソコンの画面を見せると、食いつくように蒼はパソコンに飛びつき、
「ほんとだ!しかもこの子、いつもコメントしている子じゃない。誰だろう?探さなきゃ」
とパソコンをいじり出した。
いや、探さなくていいって。そう言うために言ったわけじゃないから。
まぁ、だが、なんとか独り言期は終わったか。より悪化した気がしないでもないけど、もう放っておこう。
これ以上はかまっても仕方がない。
お腹も減ったし、お昼ご飯作らないと。
「ねぇ、なんでなの?嫌なところあるんだったら教えてくれたらなおすから!なんでみんな紫友の前からいなくなっちゃうの?」
いや、うるさい。
今度はなんだ。昼ごはんを作ろうとした僕の鼓膜を突き抜けたのは紫友の声。
どうしたんだよ、さっきまでちょっと落ち着いてたじゃん。
さっき僕君の相手したばっかだよ?
何を見てそんな叫んでいるんだと、紫友の方を見ると、紫友が見ていたのは、登録者数の画面。
また精神的に良くないものを見てるな。
登録者は、結構上下する。増えることもあれば、何もなくても減ることもある。
そこも含めてコンテンツとして成り立っているし、一喜一憂しすぎては体にも悪い。
だが、そんなことまだ考えることができる人ならヤンデレとは言わない。
減る=自分達に興味がなくなった、もう自分達を好きな人なんていない、とすぐに結びつく。
はぁ、何回病むんだよ。
もう終わったと思ったら、すぐ次の病み。
2人いたら、僕も2人いないと割に合わないんだけど。
「どうしよう、やっぱさ、ずっと配信してたらいいんじゃない?そしたらみんな私たちのことしか見ないでしょ。っていうか、みんなが見ようと動画サイト開くと全部私たちの動画に飛んだらみんな私たちのことしか見ないよね?ねぇ、そんなシステムとか作ってよ、りゅうちゃん」
そんなの作れないし、作らない。犯罪すぎる。
リスナーの人たちもずっと2人のことが好きなわけじゃない。
いい加減わかって欲しい。
はぁ、2人の相手をしていたせいで、全く家事は進まないし、僕の精神はすり減るしで、疲れは溜まる一方。
休日とは思えない疲労度だ。
僕は明日も学校に行くのに。
はぁ、ため息しか出ない。
もう、相手にもしてられない。
僕はハイハイと言いつつ、ご飯作りに集中することにした。
僕には休日はない。2人のヤンデレに付き合わなければならないのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます