第9回配信 休日だからって休めるわけないよね
以前にも、配信回数を増やそうとしたことがある。そう、それはまだ配信を初めたての頃だった。
その頃は、初めたてだったこともあり、あまり注目されておらず、視聴回数も登録者数も全然少なかった。
今考えれば当然のことだが、僕としては焦っていた。2人を始めさせた手前、なんとか2人には楽しんでもらいたかったし、元に戻る足がかりにして欲しかった。
だが、2人は配信に疲れ始めていた。
元の2人に戻って欲しいと思って始めたこの行為で疲れてしまっては本末転倒。
まぁ、大体のVtuberが人気が出ないことを苦に感じるといったことは経験するだろうし、それこそ新人が乗り越える壁だとも言える。
だが、情緒が不安定になりがちな2人にとっては、
誰にも見られていない=必要とされていない、にすぐに結びついてしまう。
現に、2人は自分達の配信は別に必要とされていないんだと思い、またただの引きこもりの生活に戻ってしまいそうになっていた。
だから、僕は視聴者数を増やすため、様々な方法を画策した。
なんとか、人気が出る方法を。それもあまり負担にならず、できる限り2人にもできる簡単な方法を。
その中で見つけたのが、配信回数を増やすというものだった。
代表的かつ、お金もかからず簡単にできるもの、これならいいんじゃないかと僕は思った。
だって、家にずっといる2人にとって配信数を増やすなんて、家でやっているゲームをただ配信にのせればいいだけのこと。2人でもできる簡単な方法だ、って。これで万事解決だと思った。
ただ、その考えが間違っていた。
2人は自己肯定感がミジンコほどもない。そんな2人が、他人に見られているという緊張感たっぷりの行為をそう何度も行うことができるはずがないということに僕は全く気がついていなかった。
配信を毎日行おう!と息巻いて行ったはいいが、日を追うごとに2人は、疲弊していった。
初めは笑顔で行えていた配信も徐々に会話も減り、
そして、とうとう配信を行うことができなくなってしまったのだった。
気分転換のもので体調を崩してしまっては元も子もない。
結局、2人にとってもっとも良い頻度は週1だということがわかり、それを維持している形なのだ。
まぁ、コメントとか見る量が多すぎて、週1しかできないっていうのもあるけど。
あと、2人がコメントとかに執着しがちなのは、この対策のせいでもあった。
僕が2人を励ますために一度だけ見せたのがいけなかった。
2人を必要としている人はたくさんいるよ、だから頑張ろうよ、そんなことを伝えたくて見せたのだ。2人はリスナーの反応に目を輝かせ、毎日見るようになっていった。そして、それはいつしか毎秒見るように。
そして、つぶやきやコメントはいつしか2人の配信のエネルギーとなっていった。
まぁ、僕が見せていなくたって、2人はいつかリスナーの反応に執着するようになっていただろう。
まぁ、ここで本題に戻るが、紫友が配信の数を増やした方がいいのかという意見を見た、ってことだったな。
ここまで聞いた人ならわかるだろうが、当然この問いはNOだ。そして、当然当事者である紫友もわかっていなければならない。
だが、そこは喉元過ぎれば熱さを忘れるの精神。つまり、配信回数を増やし疲弊した過去など全く忘れているのである。
だが、ここで言ってはいけないセリフ。
「前に増やして大変だったよね?覚えてないの?」
こんなセリフだ。
絶対にダメ!このセリフを言ったが最後、
「あり得ない、なんでそんなこと言うの?」
「龍ちゃんは私のこと真剣に考えてくれないんだね。私こんなに悩んでるのに」
「なんで一緒に悩んでくれないの?」
彼女は闇のオーラを全開にし、こう言った発言をするだろう。
そして、僕は弁明をすることに時間を取られ、これ以降掃除ができなくなるに違いない。考えただけでゾッとする。
つまり、ここで求められるのは、正論ではなく如何に彼女の精神に寄り添ったセリフを言うことができるかということ。
だが、僕だって馬鹿じゃない。
僕だって、伊達に2人の幼馴染やってないから。
「別に無理して増やさなくてもいいんじゃない?その分、濃い配信していけば」
僕は、当たり障りのない、オブラートに包んだ表現で伝える。
2人に伝えるにはオブラートは必須。
ここで求められるのはこういう表現。みんなも学んでおいた方がいいよ、ヤンデレはいつ現れるかわからないから、なんてね。
ちなみに、このオブラートを外すと、2人に週2配信は無理だよ、ヤンデレ野郎ってことなんだけども。それは秘密。
「そうだよね!龍ちゃんいいこと言うねぇ!さすが!」
と紫友は上機嫌。こっちは、君たちの機嫌を取ることで疲弊しているんだけどもね。
紫友は、僕の発言に満足したのか、またネットに没頭し始めた。
はぁ、僕まだ掃除機リビングしかかけられてないよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます