第8回配信 僕に休みはない
「ピピピピッピピピピッ」
朝7時。目覚ましが鳴る。あぁ、今日も授業が始まるのか、そう思いながら布団の中でモゾモゾする。
いや、違う。今日は授業休講で、ないんだった。
嬉しいと思いつつも、僕は昨日の疲れが取れていないことに辟易する。
昨日も結局0時まで2人の検索は続くし、励まさないといけないしでどうにもならなかった。
だが、僕はすぐにベッドから起きる。
休日なのに何故か、疲れが取れていないのに何故か。
休日であるなど僕には関係ない。僕に休みはないのだ。行きたくはないが、いくしかない。僕は自分を鼓舞しながら、仕方なく家を出る。
向かうところはもちろん、2人のマンション。
「おはよう」
と言いつつ、僕は鍵を開ける。
挨拶したものの、2人はこの時間には起きていない。
当たり前といえば当たり前かもしれないが、2人は引きこもっているだけあって、昼夜逆転生活だ。
平日は僕も大学がある関係で、電話で起こし放課後に部屋に行くぐらいしかできないが、休日ぐらいは行かないと、2人はもっとダメになる。
放っておいたら、人間とは程遠い生活しかしない。ご飯も食べずに、1日中ゲームをし、眠くなったらねる。欲望に忠実だと言えばそれまでだが、そんな生活を送っていては流石に体に良くない。
僕が以前、キツく言ったことで、なんとか1日1回は
、運動をするようになってくれた。運動ゲームだけど。
2人にとって、休日の2日は、人間に戻れる唯一の日と言っても過言ではないのだ。
「早く起きろー」
僕はそれぞれの部屋のドアと布団を剥ぎ取り、カーテンを開ける。
眩い光が部屋に差し、今日の天気の良さを伝える。だが、2人には伝わらない。
こんなにいい日差しなのに、全く起きる気配はない。
はぁ、僕はため息をつきつつ、掃除を始めた。
僕が休日にもマンションに行く理由は、人間としての生活をさせる以外にもある。
それは、部屋をきれいにすること。
2人は全く掃除をしない。皿洗いもトイレ掃除もしない。
皿洗いは毎日来ている時にまとめてやったとしても、毎日掃除は流石に厳しい。僕も大学に行っている身のため、課題などもあるのだ。だから、掃除は土日にまとめてする、と僕は決めている。
甘やかしている自覚はあるが、どうしてもしてしまう。こういう甘さが2人の自立をより妨げているのかもしれない。
掃除機の音をガンガンにかけ、僕は掃除をする。流石の2人もそうしているとなんとか起きてくる。
「おはようー、龍。ふぁぁー」
「おはよう、龍ちゃん」
僕に挨拶をするのも束の間、起きてすぐすることはもちろん携帯を見ること。
寝ている間に来ている通知を確かめないと、先には進めない。
2人の携帯には鬼のような通知の数が映し出されている。
2人は、本アカにてリスナーのものと思しきつぶやきを全てフォローしている。そのため、通知の数も半端じゃないのだ。
2人にとって通知を切ることは、世間から見放されていることと一緒。常に、自分達のことを考えてくれている人たちがいるということを知ることで精神的に安定することができるのだ。
また、全員フォローしていることから、2人のことをつぶやくと、高確率でいいねをしてくれると話題になったことがあり、これは2人が人気がでた理由の一つだった。
だが、世間は誤解している。別に2人は人気が欲しいから、つぶやきを見ているわけじゃない。
単に、これは2人の趣味と実益が兼ね備えられているだけのこと。2人はリスナーが何をしているのか、何を見ているのかを知りたいだけ。
人気など二の次なのだ。まぁ、一回自分達を好きになった人たちがどこか別のところに向いてしまうことは許さないけどね。
まさか、リスナーも普段の何気ないどうでもいいつぶやきまで監視されているとは思うまい。
馬鹿にするな、2人はエゴサーチをしているわけではない。リスナーの全てを知りたがっているだけなのだ。
「ねぇ龍ちゃん、私たちもっと配信増やした方がいいのかなぁ。ねぇ、どう思う?」
と紫友が不安そうに僕に話しかけてくる。
いや、だからそんなリスナーの発言に左右されないでってば。
まだ朝だし、僕は掃除してるし。早く顔洗って着替えてほしい。
だが、今回のはまともな意見を拾ってきたな、とは思う。
週一だと、やっぱり毎日配信している人よりは注目度が落ちるし、配信回数を増やした方が、それは登録者は増えるだろう。
それに、2人にとっても配信してた方がずっとリスナーの動向を窺っているよりは健全だし、気も紛れるだろう。
暇こそ2人に対する毒。
だが、2人にとって配信することは結構難易度が高い。
情緒が不安定になりがちな2人にとって、木曜日に対してコンディションを整えるために普段の生活がある。
ある意味、2人にとって、つぶやきやコメントの監視は、コンディションを整えるためのルーティーンなのだ。
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