第5回配信 今日はゲーム配信です
また次の木曜日が来た。
木曜日は、早く学校から帰り配信の準備をしなくてはならない。
急いでマンションに向かうと、2人は呑気にゲームをしていた。
「おかえりー、龍」
「そんな急いでどうしたの?龍ちゃん」
2人揃ってソファに座っている姿に僕は苛立ちを隠せない。
いや、2人の配信の準備に早く来たに決まってるじゃん。呆れてものも言えない。
配信後、コメントやSNSチェックを鬼のようにしていた2人とは思えないほどの、冷静さ。
2人は、一旦全てのコメントなどを見終えると、現状が見えて安心するのか少し満足する傾向がある。
ヤンデレの特徴として、自己肯定感が低いせいで周りからどう思われているのか、特に好きな相手からどう思われているのか気になりすぎるっていうのはあると思う。
2人にとって好きな相手っていうのは視聴者に当たるわけだけど。
この2人は、まさにそれに当てはまりすぎるわけだ。そりゃ、コメントとかも見まくるよなって話なわけで。
まぁ、この満足の時間が漂うのは次の配信の前のほんの僅か時間だけ。
その時間だけは2人も評価を少し忘れ、穏やかな時を過ごす。
その冷静さを、配信直後にも持ってほしいものだと僕がは常々思っているけどね。
ヤンデレを出すのは放送内だけでいいんで。
さて、もうすぐ沈みが来る。
配信の1時間前。
配信の準備万端。あとは2人がいれば放送ができる、といったところまで僕が用意すると、僕の前には準備のできた2人が現れた。
しかし、先ほどまでとは打って変わって酷い表情を見せている。
はぁ、またこの時間か。
僕には、配信前にやっておかなければならないことがあるのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、どうしよう龍ちゃん。もうすぐ配信始まっちゃうんだけど」
紫友は呼吸を荒くし、僕には話しかけてくる。先ほどまでののんびりした様子はどこへやら、彼女は焦りに焦った表情をしている。
いや、どんだけ呼吸が荒いんだ。富士山の頂上なのかって言う感じ。
毎回、毎週しているにも関わらず、この時間は変わらないのだ。
いい加減慣れてほしい、と思う気持ちを隠しながら彼女をできる限りベストコンディションに持って行けるように僕は声をかける。
「紫友、大丈夫だから深呼吸して」
紫友は素直に応じ、深呼吸をする。
しかし、深呼吸したのも束の間、数分後にはまた、同じ状態になる。
さっきまでの冷静さはどこに行ったんだ。
一方で、
「大丈夫、大丈夫。みんな見に来てくれるし、大丈夫」
とぶつぶつ言っているのは蒼。部屋の隅で手を握りしめながら何か言っている。
いや、怖い。蒼は一人で自問自答しながら不安になるタイプ。これもこれで怖いからやめてほしい。
でも、これはほっとくに限る。
一回、大丈夫だって、って言ったら逆ギレされたことあるからね。
僕は出来る限り争いは避けたい主義だから。
配信1分前。
この世とは思えないほどの顔色の二人。
一応、配信準備はできている。まぁ、でも配信が始まれば大丈夫でしょ。
彼らだって伊達に何年もやってるわけじゃない。
「テッテレテテッテー」
2人の心の準備ができていようがいまいが関係ない。視聴者は待っている。
軽やかなオープニングがかかると、2人はプロの顔になる。そうそう、この顔でいてほしい。
[はい、今日も始まりました!カガです]
【ガミです!今日はゲームしてくよー】
[いや、早いよガミ]
軽快な会話でスタートした配信には視聴者が7000人ほど。
コメント欄はすぐに埋まる。
が、ここで問題あり。以前よりもコメントの速度が遅い。
前回より3000人ぐらい少ないな。まぁ、そんなこともあるし、みんながみんなリアルタイムで見ることができるわけじゃない。
だが、そんなことを理解し納得できる二人でないことはわかっている。このまま視聴者数が少ないままなら、2人のヤンデレ度は高くなってしまい、結果的に僕の負担になる。
そうなる前にと、出来るだけ視聴者が増えるようもう一度、SNSで宣伝を送る。
みんな見てくれ、、
[ゲームの前に、少し今週の話ね]
【たしかにね、お兄ちゃん。そういえば、私この間ね、、】
ゲーム配信の前には少しの雑談。いわゆるつかみのようなもの。あと、時間に間に合わない人のためでもある。
徐々に視聴者数も増え始める。よかった、持って伸びていってくれ。
[じゃあ、ゲーム始めよっか]
【了解!】
少し雑談をした後には、今日のメインのゲームへと突入する。
今日のゲームは、バトルゲーム。
2人は対戦ゲームを中心にやっている。
のんびり育成系のゲームは、2人配信では同時に映せず、向かないという点はあるがもう一つ。
育成の過程で私生活のヤンデレが出てしまいそうで恐ろしいのだ。
まだ、私生活は謎のままでいいと思う。っていうか、永遠にそうであれ。
ゲームを嬉々として準備する2人。
2人はゲーム好きなのもあり、ゲーム配信の時は比較的前向きに配信に取り組んでいる気もする。
どことなく、ヤンデレ発言も少ない気もするし。
いや、ダメなのか?ヤンデレ営業はしていかないといけないし。
ゲームを開始すると、2人のプレイが光る。
現実なタイプの蒼と、一か八かタイプの紫友。タイプが異なるからこその戦いの見どころがあり、それは見応えがある。
それに、伊達に引きこもっているわけではない、というように2人はゲームがうまい。
Vtuberにとってゲームが上手いのは一つのアピールポイント。
大事にしたいものではある。
だが、ゲーム配信には一つ、問題があるのだ。
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