第4回配信 2人が配信を始めたのはね②
家に帰った2人は、ドアを開けるや否や、両親に固く抱きしめられた。
そこで初めて、2人は泣いた。僕は2人が泣く姿を初めて見たのだった。
よかった、これで元通りだ。
自宅に戻った2人だったが、学校には戻らなかった。
今後を心配した2人の両親は、2人に中学校へ戻れとは言わず、2人が安心して過ごせる環境を用意するため、マンションの一室を用意した。
無事に戻ってきたと聞き、安心したのも束の間、学校に戻らないと知った生徒たちの阿鼻叫喚といったらなかった。
そして、全校生徒が今度は、暮らしてるマンションを探すというカオスな学校生活を迎え、その後僕は卒業した。
秘密のマンションでは、僕たち3人でのゲーム生活が続いた。秘密基地にいた頃とは異なり、会話や対戦もしながらの楽しいゲーム時間となった。
そして、僕は高校生になった。
2人は高校へ進学せず、早々に高卒認定を取ると、家に引きこもる生活を始めた。
僕が高校に進学しても、2人とともにゲームをする日々は続いた。
7時に家を出て学校に向かう、16時に学校が終わり放課後はマンションに向かう、そんな生活になった。
僕が高校に入ったことでこの関係性が変わってしまうのではないかと思っていた僕は、安心した。
よかった、2人は元に戻った。たとえ高校に行かないと決めたからといって、また笑顔で過ごせるんだって。
だが、考えが甘かったことを僕はすぐに痛感する。
高校に入学してすぐは毎日通えていたマンションも、課題や予習に阻まれいけない日々が続いた。
すると、僕たちの関係性は変化していった。
最初の変化はメッセージが増えたことだった。これまでは、いけない日があったって『明日は来る?』程度のメッセージだった。
しかし、だんだん
『ねぇ、なんで来ないの?』
『待ってるんだけど』
『見捨てて楽しい?』
といったメッセージが2人分届き、僕のスマホの通知を埋めるようになっていった。
そして、事あるごとに他人と比べる言動が増え、ネガティブな発言ばかりになっていった。
元から対して高くもなかった自己肯定感は、あの出来事を境に消え失せてしまったのか、と思わせるほどの変容だった。
さらに、遊んでいても、浮き沈みが激しく、以前とは違う。
楽しく遊んでいる中でも、何がトリガーとなっているのかわからないが、急に機嫌が悪くなる。
僕の何気ない一言に引っかかり、その行為を少し時間がかかってから後悔する。
僕が高校の話をすると、ネガティブな発言ばかりが出てしまい、全く会話をすることができない。
そんな毎日(×2倍)だった。
あの出来事から、2人は変わってしまった。
2人をなんとかしたいと僕は考えるようになっていった。
別に、部屋から出ずとも働ける方法はあるし、2人の家は結構お金持ちな方。
ある程度は、養ってもらえるだろう。だから、僕としてはお金を稼ぐとか社会との繋がりとかじゃなくて、2人らしさを取り戻してほしい。
ただ、笑って過ごせる日常を取り戻してほしい、と思った。
そんな思いから、2人が部屋から出なくても何か少しでも元に戻ることができる手立てはないかと模索する毎日が続いた。
まず、何が大事か、というところだ。
社会と繋がることが重要ではないと言ったが、できれば繋げたい。これはこれからの2人の生活を考えてもそう。だが、家から出ることは難しい。だから、在宅系であることは必須だ。
だが、在宅系は技術を求める仕事が多く、かつ未成年の2人では仕事を得ることは難しいだろう。
あと、重要な点がもう一つ。
定期的にでる感情の波があってもできるもの。そうすると、一般的な仕事は難しいと考えられる。
僕は悩みに悩んだ。毎日悩んだ。
そんな時、僕の目に飛び込んできたのは、アニメのような映像で動く人の姿。
ん?これはなんだ?
それはVtuberという人たちだった。
僕は、夢中で調べた。これは、まさに2人のためにあるようなものじゃないか!
顔を出さずに活動することができ、かつヤンデレを出してしまっても、それがむしろ好意的に取り入れられるもの。
なんだこれは!これしかない!
それで、辿り着いたのが、Vtuberだったというわけだ。
ヤンデレ営業という言葉もあり、好意的に受け取られやすいこの世界なら、2人でもなんとか生きていくことができるんじゃないかと考えた。
2人が嫌な記憶でできてしまった個性をどうにか好意的に取り入れることができるように、と僕が見つけた唯一の道だった。
僕の提案に2人は全く乗り気では無かった。
だが、僕が毎日熱弁し、動画を見せたり、やってくれたらこれからも毎日ゲームするから!と半ば脅したりすることで、しぶしぶ納得してくれた。
そんなこんなで今に繋がっている。
回想が長くなってしまった。
気がつけば、もう夜中の2時。はぁ、どうせ明日も大学から帰れば2人のヤンデレ監視。疲れること必至だな。
早く寝よ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます