第2回配信 いつもの反省会(ヤンデレ会)
「今日の配信面白かったっていうコメント多いね、よかった。でも、アメリカンさんはもっとガミに話して欲しかったって言ってる」
蒼は、コメント欄を見ながら常連のリスナーの名前を挙げる。
「前はお兄ちゃんの声が聞きたいって書いてあったと思うよ。ほら、10月13日の呟きで」
すると、すかさず紫友は、リスナーの過去のSNSでの発言を拾う。
その時間、わずか数秒。いいねだってわずか一つしかされていないその発言、もはや本人ですら覚えていない可能性だってあるだろ。
いそんないちリスナーのコメントの日付まで覚えているなんて、慣れている僕でも鳥肌ものだ。
やめてください。
「本当だね。やっぱり平等に話すのって難しいけど、今日は確かに僕の方が話していたかもしれないね」
蒼はその紫友の行動に驚くこともなく、画面に見入っている。いや、だれか突っ込んでくれ。このおかしな状況に。
どう考えたっておかしいんだから。そんないちリスナーの過去の呟きを覚えているなんて。
っていうか、その1いいね、まさか君たちのやつ?
まぁ、でもここまでならなんとかリスナーのコメントをよく見ている2人として片付けることができるかもしれない。できる、、かな、うん。できると信じたい。
だけど、、
「やっぱりさ、僕たちの配信じゃ満足できないんじゃない?」
あ、始まった。なんだか雲行きが怪しくなってきたな。
「そりゃそうだよね。こんな暗い私たちの配信なんて誰が見たいの」
ばんっ。
机を叩きながら、怒る紫友。やめて、そんなくだらないことで怒らないでほしいし、机壊そうとしないでほしい。
「あ!ちょっと見てよ、お兄ちゃん!」
机を叩いたのも束の間、今度は大声を挙げると、蒼のもとにスマホを近づける。
「ほら見て!いぬちゃんもガミ大好きっ子もみんな、絶対他の人の配信見てるつぶやきしてるよ。ほら、見て!なんでなんでなんで?ありえない!私たちのこと好きなんじゃないの?」
紫友は怒り狂っているのか、髪をぐちゃぐちゃにし、鬼のような形相を見せる。こんな顔、とてもリスナーには見せられない。
いちリスナーのつぶやきを監視するな。そして、他のVtuberも見せてやれ。そりゃずっと2人だけを見てるわけにはいかないだろ。
蒼も紫友も頭を抱え、コメントやSNS漁りを続ける。
反省会という名のヤンデレ会が今日も始まった。
配信後は、数時間はずっとこんな感じ。
コメントやSNSチェックからの以前までのコメントとの比較、他の配信者へのメッセージの有無などなどを一人一人確認している。
配信当初は、リスナーも登録者も少なかったことから、コメントやSNSをチェックすることで数を伸ばすことができるのではないか、という目的で始めたこの時間。
人数が増えるにつれて、なくなるだろうと思っていた。が、僕の考えは甘かった。
1万人を超えようと、10万人を超えようと2人はいつも通り続け、反省会の時間がどれだけ延びようと、気にしなかった。
始めは1時間だったのが、3時間、10時間、とだんだん増えていこうとも、2人は気にもとめなかった。
皮肉なことに、2人にとってこの時間は全く苦にならないようで、辞める様子は見られなかった。
しかし、一度、僕は本気で止めようとしたことがある。2人とも、目に隈ができどう考えても無駄な時間によって、体調を崩しそうになっていたからだ。
しかし、その週の2人はひどかった。
何をするにもソワソワし、携帯やパソコンをいじろうとしては辞め、僕の顔を見る。
配信時には、コメントはうまく拾えないわ、ヤンデレ営業もうまくできないわで最悪だった。
その出来事があってから、この反省会もといヤンデレ会は、継続することになったのだった。
「ねぇ、龍はどう思う?この子、最近つぶやいてくれなくなったんだよね。もう興味ないのかな?」
「龍ちゃん!こっちも見てよ。この子、あややっていうVtuberが可愛いってばっかり言ってる。ありえないよね?私の方が可愛いでしょ?」
「え?あぁ、そうじゃない?」
急に話を振られると思わず、とっさに適当に答えてしまう僕。
「「ちょっと!ちゃんと聞いてる?」」
あ、はいすみません。
だって、2人の話に耳を傾けたってしょうがない。
「はぁ、そんなコメントなんていちいちチェックしてもしょうがないだろ」と僕が言ったところで、2人は全く聞く耳を持たないし、余計な攻撃を受けるのがオチだ。
僕は、無駄な体力を使いたくないんだ。
だって、僕にはこれからまだ役割が残っている。
2人は、一喜一憂を繰り返しながら、パソコンやスマホを見る。
そして、時刻は0時。
よし、言うか。僕は立ち上がり、
「よし、時間だし今日の分はおしまいな」
と言った。
これは3人で決めたルール。
見るのはいいが、0時には辞めること。
これを条件として、2人のヤンデレ行為を容認しているのだ。
2人は渋々といった様子でそれぞれの寝室へ向かう。
はぁ、これが一番疲れるんだよな。
まぁ、でもこの役割はしっかりと果たさなければいけないという思いは、流石の僕でもある。
なぜって?
それは、僕が2人をVtuberするきっかけを作った張本人だからだ。
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