幼馴染の兄妹VtuberはガチのヤンデレVtuber〜僕らの配信だけみててね〜

ナガレカワ

初回配信 初見?よろしくね

[はーい、木曜日9時、今週もみんなお疲れ様!カガです]


【ガミでーす!】


木曜日の夜9時。この決まり文句から配信は始まる。

画面に映るのは、銀髪に碧眼の西洋風のイケメンと緑色のドレスを着た美少女。

その2人は、配信が始まるや否や、笑顔で話し始める。まぁ、もちろん実際に顔が写っているわけではなく、映像が動いているわけだが。

待機画面の時から1万人ほどいた視聴者は、配信が始まるや否や、コメントの勢いを増し、どんどん流れ、スクロールは追いつかないほどだ。


今日も始まったか。

僕は毎週、この時間に2人の配信を見守る。

今日も平和に終わりますように、と祈りながら。


2人は、双子の兄と妹で組んで活動しているVtuber。カガとガミの2人でミラーツインズと名乗り、活動をしている。本名は、鏡 蒼(兄)と紫友(妹)。鏡の苗字をもじってミラーツインズと名乗り、グループ名としているのだ。

銀髪と碧眼といった見た目の映像から少し想像がつくかもしれないが、2人はヨーロッパ辺りの貴族(という設定)で配信を行っている、今話題のVtuberなのだ。


大体が雑談配信だが、ゲーム配信やドッキリなど幅広く配信している。

兄と妹でVtuberをやっているのが珍しいのか、活動を始めてから数ヶ月で徐々に頭角を見せ、今や登録者数は50万人を超え、勢いに乗っているコンビとしてちまたでは有名だ。


[今日は、題名にもある通り、雑談配信で行こうと思います!みんな今週はどうだった?]


今日は、雑談配信。流れるコメントから、適当に2人が拾い上げ、明るく楽しく配信は進行していく。

2人のトークは、兄妹ならではの遠慮のない会話はもちろんのこと、兄(カガ)の天然ボケと妹(ガミ)のキレのあるツッコミとで人気を博している。

トーク力に定評のある2人だが、それだけが人気の秘密ではない。

というか、この2人に人気があるのは他に理由がある。


【あ、ねぇこの子初めて見てくれたんだって!】


ガミが『初見です』と打たれたコメントを拾う。

こういうコメントは、配信をしていればよくあるものだ。普通は、【ありがとう】とか【登録よろしくね】っていうところだ。だけど、この2人は違う。

ここで言うだろ、多分。


[え?それは嬉しいね。もう、僕たち一連托生だね。僕たちだけを見てくるってことでいい?]


【そうだね、お兄ちゃん。いい?他の人の配信見ちゃダメだから。私たち許さないよ】


『きゃー!』

『きたー!ヤンデレ発言!』

『兄妹でヤンデレとか最高!』

『ヤンデレ助かる』


コメントはより速度を増し、ヤンデレというキーワードを含んだコメントで配信画面は埋まる。

そう、彼らが人気なのは、兄妹Vtuberが珍しいからだけではない。このヤンデレ営業が人気なのだ。

初見の人のコメントはもちろん、他者を匂わせるような発言をするとこのヤンデレ具合がみられるとあって、匂わせるコメントをする人も多い。

また、好きを匂わせるコメントをしても反応が見られるとあって、ヤンデレ反応を見ようとそういったコメントも溢れることがある。

このコメントに対するヤンデレ営業が、視聴者を大事にしている、と話題を呼び、見にきている人も多いのだ。

世の中に意外とヤンデレの需要はあるらしい。


あ、こんなに解説してるからって僕は2人の痛いファンってわけじゃない。僕はただの2人の幼馴染だ。


[じゃあ、今日はここまででー]


【じゃあまた来週!ばいばーい】


チャラチャラチャッとエンディングがかかり、今日の配信は終了。

約1時間ほどの雑談配信は、同時視聴者数1万人ちょっととまあまあの視聴者数を誇りながら終了した。

終了後も、コメント欄は感想とヤンデレに対する反応で溢れ、SNSも感想と来週への期待で溢れている。


はぁ、今回も無事終わったか。

僕は安堵のため息をつく。毎週見守っているだけでも、緊張がなくなることはない。

だけど、安心できるのも束の間だ。僕には次の試練が待っている。

問題はここからだ。


「よし、紫友はSNSな。僕はコメント見るから」


「おけ、お兄ちゃん」


2人は配信が終わるや否や、一斉にすごい勢いでパソコンを見始めた。

はぁ、また始まったよ。僕は呆れてため息が出る。


人気のあり、勢いもある2人がなぜ週1でしか配信をしないのか。普通、人気があれば週に2、3回は配信したいところだし、登録者を増やすためにも重要なポイントだとも言える。

しかし、この2人はそれをしない。

それは別に忙しいからでも、やる気が出ないからでもない。むしろその方がいい。


理由は簡単。自分たちのファンがどのようなコメントをしているのか、他に誰を見ているのか、何が好きなのか、、などを調べ上げるのに時間をとられているからだ。

え?何言ってんのかって?そんなの僕が言いたいよ。


「え?なんでこの子私たちの配信生で見てないの?いつも生で見てくれてるのに!」


「あ!新しく増えた登録者の子、いいコメントしてくれてる!よかったぁ」


2人は、視聴者一人一人の反応に一喜一憂している。


そう、ヤンデレ営業と言われている2人は、実は営業ではない。日常的にヤンデレなのだ。


はぁ、もうやだこいつら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る