フゥジェン

 私を助けてくれたのは、青年をはじめとする何人かが乗った小さな船だった。漁のための船なのか、魚臭い。船員たちはみな、青年と同じく肌が浅黒く、よく日に焼けていた。

 青年は私に何事かを話しかけてきたが、やはり私には聞き取ることができなかった。戸惑う私に、青年は少し首を傾げてから自分を指差し、「フゥジェン」と繰り返した。それは、彼の名だった。

 フゥジェンら船員たちはみな、目鼻立ちがはっきりしているものの、日本人と大きく変わらない顔立ちのように見えた。私が小型船舶から投げ出された位置を考えても、そう日本から離れているはずもない。どういうわけか、たまたま外国人の(そしておそらくはアジア圏の)船に助けられただけなのだろう。

 私がそんなことを考えている間にも、船はどんどん進んでいるようだった。甲板にぐったりと横たわっている私には、どこへ向かっているのかなど分かりはしなかったが、その状況を既に楽観視していた。

 フゥジェンは私に袋を寄越した。生き物の皮でできた袋、ということだけは分かった。ブヨブヨとしたそれには、水が入っていた。

 反射的に、私はそれをぐいっと口に入れた。ぬるい水がやけに美味く感じた。二、三度と大きく咳き込んだが、あっという間に皮袋の中身は空になった。

 「ありがとう」と、私は掠れた声でフゥジェンに言った。ようやく声が出たのだ。フゥジェンは空になった袋に嫌な顔もせず、にこにこと気の良い笑顔で頷いてみせた。

 船はどんどん、進んでいった。

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