第2話 長く不思議な1年生#1

入学式から1日が経ちこれから学校生活が始まる。そんな中陽太は昨日感じた胸の苦しみを気にしていた。こんなに早く人の名前を覚えたのは初めてだった。2・3ヶ月かけてゆっくり覚える。人の名前はそんなものだと思ってた。

1人で教室に向かう。居た。あの子だ。昨日誰よりも輝いて見えた。真っ先に目に入ったあの子。

もう友達が出来てるみたいだ。陰気な陽太は今日も1人寂しく席につく。

太陽が真上に来て少し眩しい。そんな昼にはもう帰路に着いていた。川辺の桜もほとんど残っていない。桜は入学式を待たずに散ってしまうのが常だ。彩りのない道を寂しく歩く陽太。そんな時ふと彼を呼ぶ声がした。聞き覚えがあった。昔から馴染みのある声ではなかった。でも確かに分かる。あの子だ。思った通り、声のする方には加奈の姿があった。「安元君だよね。家同じ方だね」楽しげで優しい声。「そうだね。一緒に帰らない」緊張しながらも言葉を返す。正直ちゃんとした日本語になっていたかなんてわからなかった。

ただ返ってきた微笑みを見る限り、伝えたいことは伝わっていたようだ。その時はただ、黙って歩くだけだった。何も話すことはなかった。何を話したら良いのかなんてまだ知らなくて当然なのだから、仕方の無いことだ。その日は2人並んで帰った。最初にして最後になる一緒の下校。これっぽっちも最後だなんて思わず。隣で歩く幸せを噛み締めながら静かに歩いた。明日わどんな日になるんだろうか。幸せいっぱいに始まった学校生活、陽太の恋が動き出す音がした。まだ知らない恋と言うものがゆっくり動き始めた。


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