や獄地がここ、そこうよ 話7第
キビトさんに言われるがまま、私はその背中を追っていた。
普段は、『縁起が悪いから』と言って着ることの無い喪服を羽織っているのも、少しだけ気味が悪い。本当に別の仕事をしに行くのだと、そう思った。
「千夏ちゃん、さっきから黙りっぱなしやね」
「あんな話聞かされて、いつも通り居ろって方が無理ですよ」
「あははっ。それもそうやな」
キビトさんはそう言って私に小袋に入った飴をいくつか渡してきた。
「はい、飴ちゃん」
「要りません」
「まあまあ、そんなこと言わんと。食べてたら落ち着くで」
「はぁ」
この感じは多分何回断っても無駄な雰囲気だと、今までの記憶がそう言っていた。
パクッ
飴玉を口に入れた瞬間に、違和感がした。舌が痺れるような、そんな気配。
「これ……!」
その言葉を言い切る前に、私の意識は遠くの方に無くなっていく感覚がした。まるで死んだあの時のような、喪失感だけを残して。
「千夏ちゃんには、まだ早いんよ。いつかちゃんと、面と向かって話したるからな」
キビトはそう言って、優しく笑った。
◇ ◇ ◇
ピンポーン
軽いチャイムの音が部屋に響く。
夜が更け、外の明かりも随分と少なくなってきた頃の事だった。
「宅配便です」
ドアの外から、若い青年の声がした。
「おいミユキ、なんか頼んだのか?」
「私、何も頼んでないけど」
「まあ、とりあえず出るか」
男がドアに手を伸ばし、ガチャリと鍵を開けた。
ブシュウッ!
その瞬間に、部屋の中に急に白い煙が立ち込める。人生で見たことも無い光景に、二人の男女は驚く。
「はっ!?なんだよ、これ!」
「きゃあああっ!」
白い煙は段々と部屋に充満していき、やがて二人の口元に触れる。背の低い女の方が、煙を吸った瞬間にその場に倒れ込む。
「おい、ミユキ!」
それを受け止めようと男が姿勢を屈めた瞬間、煙を吸い込んで同じように倒れて意識を失ってしまった。
二人が眠るように意識を失った後、部屋に入ってくる一人の人物は、静かに笑った。
「待っててな、アオイちゃん」
◇ ◇ ◇
暗い部屋に、ポタポタと液体が垂れる音だけが響いている。電灯はチカチカと切れかけており、薄気味悪さが支配している。
「っ……ここ、は?」
男は目を覚ます。それと同時に、自分の身に起きている違和感に気が付いた。
「なんだこれ!?縛られてる……」
椅子に括り付けられた手足、布によって自由を失った目。その全てが、非日常としか言いようが無い状態だった。
「ようこそ、ここが地獄や」
その時男は、死神の声を聞いたのだ。
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