第5話 ファミレスでパフェは頼みがち
「はむ、はむ!」
アオイちゃんは店員から届けられたお子様ランチを口いっぱいに頬張っていた。ほっぺたに米粒がつくのなんか気にしないくらいに。
「ええ食いっぷりやな」
そんなことを言いながら、このファミレスで一番高い国産ヒレステーキセットを頼んだ外道は笑っていた。
「誰が外道やねん」
「そうやって頭の中を覗く人にはお似合いですよ」
私は特にお腹も空いていなかったのだが、メニュー表の後ろに整然と並んでいたパフェを頼んだ。誘惑に負けたと言っても良いだろう。
「千夏ちゃんもそういうの食べるんやなぁ」
「悪いですか?」
「普段は和菓子とかばっかり食べてるイメージやからなぁ。小洒落たもんに興味あったんやって……女子みたいやな」
「今まで何だと思ってたんですか」
私の睨みが効いたのか、キビトさんは借りてきた猫のように大人しくなった。
◇
「ごちそうさまでした!」
目の前にあったお子様ランチをペロリと平らげ、物足りなそうにしていたアオイちゃんは、食後のデザートで頼んだ小さめのアイスも完食してしまった。
その顔は何とも言えない幸福感に包まれていて、見ているこっちも嬉しくなってしまう。
「どうや、お腹いっぱいなったか?」
「うん!こんなにおいしいの、はじめてたべた!」
「そうか」
そう言ってキビトさんは優しく笑った。『はじめて』という言葉が、私の心を少しだけ抉ったような気がした。
「あのね」
アオイちゃんはそう言うと、急にもじもじし始める。
「どないしたん?」
「えっと、その……ありがとう!」
「ん?」
「おにいちゃんとおねえちゃんのおかげで、アオイとってもしあわせなの!」
「そうか。それは、ええ事や」
キビトさんは席から立ち上がると、アオイちゃんの手を握って店外へと出て行こうとした。
「キビトさん……」
「千夏ちゃんは、見んほうがええやろ。こっから先は、『葬魂屋』の仕事や」
「っ……!」
分かってる。私にらはきっと、こんなに小さい子が魂を失う瞬間なんて耐えられない。何度も見てきたけど、こればっかりはどうしても慣れないから。
「アオイちゃん……バイバイ!」
「おねえちゃん、なんで泣いてるの?」
「悲しいことがあったんや。ほら、手振り返してあげてや」
キビトさんに言われるがまま、アオイちゃんは私に手を振ってくれた。この先に待っていることなんて何も知らない、無垢な笑顔で。
「バイバイ、おねえちゃん!」
「うん、またね!」
私には、ここで見送ることしか出来ない。私は葬魂所には勤めていても、葬魂屋じゃない。この先を見届ける権利も覚悟も、足りてない。
「行こか」
キビトさんのその声が、私がアオイちゃんを見た最後の光景に残った唯一の音声になった。
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