第4話 ファミレスはコスパが良い

「ところでお嬢ちゃん、名前言える?」


キビトさんは暗い記憶を忘れるような笑顔を貼り付けて、一人で葬魂所にやってきた女の子にそう尋ねた。


「アオイ!」


「アオイかぁ、ええ名前やね」


キビトさんはそう言ってアオイちゃんの頭をワシワシと撫でると、目線を合わせたまま言った。


「アオイちゃん、お兄ちゃん達と一緒に美味しいもん食べ行こうか」


「ほんと?やったぁ!」


アオイちゃんの純粋な喜び様に、私も少しだけ心が晴れる。


「それが、この子の『願い』ですか?」


「餓死の子は大体そうや。最後まで食べもん探してもがいとったし、この喜び方見ても間違ってへんやろ」


キビトさんはそう言うと、アオイちゃんの手を握って葬魂所から出て行こうとする。


「あ、私も行きます」


「お腹すいたん?」


「違います。キビトさんだけに任せるとろくな事ないので」


「さすがうちの財布担当は違うわ!」


「会計です。人聞き悪い言い方やめて貰っていいですか」


「あんま変わらんやろ、なーアオイちゃん」


「おさいふ!」


「……」


ここはアオイちゃんに免じて許すとしよう。私もさすがにこの程度で怒るほど短気じゃない。





◇ ◇ ◇





「好きなもん食べてええで〜」


「うわぁ!」


三人で向かったのは、某有名チェーンのファミレス。子供連れなら間違いなく喜ばれるスポットだろう。


メニュー表に穴が空くほどそれを見つめているアオイちゃんの姿を見ると、嬉しさと同時に切なさが襲ってくる。


「どうにか、ならないんですかね」


「ん?」


「私みたいに、この世に残すってのは……」


「そら無理や。この子の未練は果たされてまう。千夏ちゃんを引き戻せたのは、何の未練も無い魂やったからや」


「でも……」


「僕達はまず、魂を救えたことを喜ばなあかん。たとえ彼女を現世に残しても、何が出来んねん」


「そんな言い方、無いじゃないですか」


「葬魂所に来ることも出来ん魂もぎょうさんある。僕達に出来ることなんか、最初から限られてんねん。それをあるべきルートからわざわざ外してこういう事をやってるのも、本来ならルール違反や」


「そう、ですけど」


「限られた魂を少しでも安らかに送ってあげる。その手伝いをするのが、僕達の仕事や。生半可な気持ちは、かえって毒になる。で学んだやろ?」


「はい」


「最後に喜びを与える人間であれ。僕の師匠から教わった言葉や。僕はそれ以上の事も、それ以下の事もせぇへんよ」


キビトさんの顔は、どこか私と同じことを感じているようなものだった。諦め、とは違う。そんな顔だった。

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