第2話 仕事は寝て待て

「葬魂所」の一日は仕事の量によって大きく左右される。


そもそも、葬魂所に死んだ人間の魂がやってくるのは、生きていた間にどうしても叶えられなかった未練、つまりは強い「願い」を持っている時だけなのだ。


キビトさん曰く、葬魂所には、そういった強い願いを持った魂だけが導かれるようなシステム、があるらしい。本人は面倒くさがって説明してくれないが、ここに来る魂達は皆、確かに深刻な「願い」を抱えていることがほとんどだ。






◇ ◇ ◇






「あのぉ」


昼の中で1番暑い時間が過ぎ、雲によって太陽の光が遮られ始めたと感じる午後三時頃。葬魂所の扉を開けて入ってくる人の声がした。


「はーい、今行きます」


私は裏でやっていた掃除を一旦切り上げ、声の主か居る葬魂所の受付へと急ぐ。

そこには、幼稚園児と小学生のどちらにも見えそうな、可愛い女の子が立っていた。何やら困り顔で、助けを求めている。


「どうしたの?」


「えっと、その……なんか、ここに来ないとって思って!……ごめんなさい」


あー、この子は多分、そういうことだな。葬魂所の、願いを叶えたい人間の魂を呼び寄せるシステムに引っかかって、ここに流れ着いたパターン。小さい子は特に、その状況が説明出来なくてこうなる。


「キビトさーん、お客さん来てます」


「……」


「無視しないでよ、店主でしょ」


私は今にも泣き出しそうな女の子に、「ちょっと待っててね」と飴を一つ渡してから、自分の部屋にいるであろう彼を呼びに行く。







ここの葬魂所の二階は、そのままキビトさんの生活スペースになっている。だから大抵彼はここで惰眠だみんむさぼっている。繰り返す、彼が店主だ。


二階に階段で上がってすぐ右にある部屋の扉を開けると、いつもの調子でキビトさんが大の字になって寝ていた。

ご丁寧に昼の光を遮断するために、不細工な猫の顔がインプットされたアイマスクまでつけている。


「起きろぉっ!」


こちらとしても容赦なく耳元でそう叫び、キビトさんを叩き起す。


「ふぁっ!?」


「お客さん、来てますよ」


「あー、今行くわ……」


二度寝の合図。さすがに見逃さない。




「冗談やって!ほら、目パッチリ開いてるやん!」


「どうでしょう、私にはまだ寝てるように見えますけど」


私が構えたホウキの圧力を感じたのか、キビトさんは寝癖をこれでもかとつけた状態で飛び起きた。


「私が出来る限り説明してくるので、キビトさんは最低限、人前に出れる身なりになってから降りてきてください」


「僕は出れるで、今のままでも」


私がホウキを再び強く握り込むと、キビトさんは渋々クローゼットの扉を開けたので、それを確認して私は一階に戻った。

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