3話 後編

碓氷唯のお家に泊まることになったあたし。

お母さんに電話する為に少し移動して。

戻ってくると、ソファーに腰掛けネコのぬいぐるみと遊んでいる碓氷唯の隣に座る。

なにか話さないとと思いつつも、泊まることを考えるとまた緊張してきて。

言葉が出てこず、沈黙の時間が続く。

手持ち無沙汰となったあたしは雨すごいなぁ。と窓の外を見ていた時だった。

突然ピカッと空が光り、少ししてドカーンと大きな音が鳴る。


「わわっ!雷!?近くに落ちたのかな!?」と碓氷唯に話しかけるも返事はなく。


どうしたのかな?と碓氷唯の方を向くと膝を抱えて疼くまり、身体が震えていた。

(もしかして、雷苦手なのかな。)なんて考えているとまた大きな音が鳴り、ビクッとする。

そんな様子を見て、あたしは咄嗟に碓氷唯の頭を自分の胸元へとやり。

両腕で耳元を覆い隠すと抱き抱え、出来るだけ音が聞こえない様にした。

すると碓氷唯はあたしの腰に腕を回して。

まるで抱き合っているような格好になり。

思わずドキッとしてしまうあたし。


(っていうかこんなことしなくても、耳に手を当ててあげるだけでよかったんじゃ!?そ、それに汗臭かったりしないかな!?だ、大丈夫だよね!?)


なんて今更気づいたところで手遅れで。

碓氷唯にしっかりと抱きしめられてるから体勢も変えられず、諦めることにしたあたし。

さっきから心臓がすごくドキドキして、顔も赤くなり。

それを碓氷唯に気づかれないことを祈ると、その状況をジッと見ているネコのぬいぐるみに(な、何見てるのよっ!)なんて八つ当たりしながら雷が収まるのを待つことにしたのだった。


それからしばらくして雷の音が聞こえてこなくなると、お互いに離れる。

そして、気持ちを落ち着かせる為に深呼吸をしていると、スッと立ち上がる碓氷唯。


「…お風呂。」


「お風呂?」


「…うん。…入って」と言うと手を引きあたしを立ち上がらせる。


「も、もしかしてあたし汗臭かった!?」と、焦るあたしだったのだけど。


「…ううん。…良い匂いだった。」と、どうやら違ったみたいで。


「そ、そっか。」と、自分で聞いておいて碓氷唯の返答に恥ずかしがるあたし。


というわけでお風呂を借りることになり、そういえば着替えどうしようと思っていると碓氷唯のパジャマを貸してくれることになり、準備万端となったのだけど…。

なぜか隣で服を脱ぎ始める碓氷唯。

下着姿の碓氷唯をなるべく見ないように手で自分の顔を隠すと慌てて。


「な、なんであんたが脱ぐの!?」と、質問するのだけど。


「…私も一緒に入るから。」と、特に恥ずかしがる様子もなくどんどん脱ぎ始める碓氷唯。


「あ、あたしは後でいいから!」と、脱衣所から出ようとするのだけど。


「…だめ。」と、あたしの腕を掴む碓氷唯の圧はすごくて。


これは逃げられないと悟ったあたしはしぶしぶ服を脱ぎ始める。

ただその間、あたしが逃げないよう監視する碓氷唯の裸が視界に入っていて。


(碓氷さん身体細い!)(ってあたしはなに見てるんだ!)(わわ!くびれもすごい!)(だ、だから見たらダメだって!)(まるでモデルさんみたい!)


なんて、意識しないようにすればするほど碓氷唯のスタイルの良さへの感想が出てきてしまうあたしなのであった。


さて、碓氷唯と一緒にお風呂に入ることとなったあたし。

「碓氷唯!勝負よ!」と、恥ずかしさから碓氷唯に勝負を申し込む。

今回の勝負はお互いの身体を洗いっこして、笑わせた方が勝ちというルール。

先行はあたしから。

碓氷唯からネコの手スポンジを受け取ると右手を入れて装着する。

こんなのあるんだ!?なんて思ったけど碓氷唯のお家だから気にしない。

しっかりと泡立てまずは背中から。

反応なし。

それならと右腕へ。

やっぱり反応なし。

左腕も反応なし。

その後、足も洗うけどやっぱり反応なし。

あとは前側なんだけど…。

なんか恥ずかしいというか。

自分で勝負を仕掛けたのに不甲斐ないけど。

あとは自分で洗ってもらうことにして、ここでギブアップするあたし。


次は碓氷唯の番に。

笑わせることが出来なかったあたしはせめて引き分けにしようとするのだけど…。

なぜか片方だけだと思っていたスポンジは両手にそれぞれ装着されていて。

最初は我慢出来ていたけど、両脇からお腹をネコの手スポンジで撫でられると思わず笑ってしまい。

止めようとするも笑っていて止められず。

あたしが恥ずかしがって洗えなかった前側も容赦なく洗われ。

あたしにはサイズが合っていなかったのか上手く動かせなかったネコの手スポンジを、指先まで自在に動かす碓氷唯に全身隈なく洗われたあたしは、くすぐったさと気持ち良さで悶えることとなり。

その後、碓氷唯のお願いである、浴槽に一緒に浸かるを聞き入れ。

初めは向かい合わせで浸かるも、碓氷唯の裸を見るのが恥ずかしくなり反対を向くと。

「…肩まで浸からないとダメ。」と後ろから抱かれる形となったあたし。

「…100秒数えるまで上がっちゃダメ。」と言われ、さらに悶えることとなったのでした…。


それからお風呂を終えたあたし達。

髪を乾かし終えると碓氷唯のパジャマを着たのだけど…。

それがまさかの全身ネコの姿になるパジャマで。

まぁ正直そんな気はしていたので、特に気にするつもりはなかったのだけど。


「…これ。」と、なぜかネコじゃらしを手に持つ碓氷唯。


「あたしはネコか!」と、プンプンするあたし。


「…冗談。」と言いながらもネコじゃらしをフリフリする碓氷唯。


「にゃぁー!」と飛びつくと、なんだか楽しくなってきて。


気づくと就寝時間となる。


さて、碓氷唯の部屋に初めて入ったあたし。

小さいネコのぬいぐるみがたくさん飾られていて。

(ほんとネコ好きなんだなぁ。)と眺めていると。


「…それじゃあ寝よ。」と言うと自分のベッドに入り込む碓氷唯。


「あ、あれ?そういえばあたしはどうすれば…?」と寝る場所が決まっておらず、そう尋ねる。


「…ここ。」と碓氷唯の隣をポンポンされ。


「え…?と、隣!?」と驚いていると。


「…うん。…嫌?」となんだか悲しそうな雰囲気で。


どうにも断れなかったあたしは碓氷唯の隣に入り込む。

だけど、一応遠慮というか。

恥ずかしくて、背中を向けなるべく端のほうに行くのだけど…。


「…落ちちゃう。…もっとこっち。」と言うとあたしをくるりと半回転させる碓氷唯。


目の前には碓氷唯の綺麗な顔があって。

緊張してしまうあたしは戻ろうとするけど、いつのまにかぎゅっと抱きしめられていて。

戻ることが出来ないあたし。


「…おやすみ。」と言うと碓氷唯が電気を消して、強制的にこの状態で眠ることとなったあたし。


(ま、まって!?あたしこのまま寝るの!?)(碓氷さん隣で!?すっごく良い匂いしてる隣で!?)(無理無理無理!絶対寝れない!)と考えていると。


「…今日ありがとう。」


「ん?なにが?」


なんでお礼を言われたかわからないあたし。

料理を習って、泊めてもらって。

お礼を言うのはあたしの方なのに。

なんで碓氷唯がお礼?といまいちピンとこないあたしだったのだけど。


「…雷。」と言う碓氷唯。


そういえばと思い出し「いいよそれくらい。それにあたしもありがと。」と返事をする。


「…うん。」と碓氷唯が言うとお互い無言になり、碓氷唯はあたしを抱く力を少し強める。


さらに密着する身体。

な、なんで!?と戸惑ったのだけど、碓氷唯の身体が少し震えていることに気づき。

あの時の怖さを思い出したのかな。と気づいたあたし。

もしかしてお風呂一緒に入ったり、一緒に寝ようとしたのは怖さから?なんて考えたあたしはそっと抱き返す。

すると安心したのか碓氷唯の震えは収まり。

やがて、スースーと寝息が聞こえ。

それがわかると、いつのまにか緊張が解けていたあたしも眠るのであった。










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