2話

午前の授業が終わり、お昼の時間になるとお弁当を片手に碓氷唯がいるクラスへと駆け出す。


「碓氷唯!勝負よ!」


いつもと同じセリフを叫ぶと碓氷唯もお弁当を手にして、中庭よりちょっと外れた場所へと一緒に移動する。

ここはお昼の時間に碓氷唯と勝負する場所で。

あたしが何度も負けてお願いを聞いていた悔しい場所。

だけど、今日は違う。

今日こそはあたしが勝たせてもらうんだから!


さて、今日の勝負の内容。

それは、手作りのお弁当対決。

お弁当を交換して相手を満足させられた方が勝ちというルール。

正直、お弁当はいつもお母さんが作ってくれてるし、料理の腕もお手伝い程度でしかないけど。

だけど、あたしには秘策がある!

それは!

ネコの顔をした丸いおにぎり!

これはネコ好きの碓氷唯にはたまらないはず!


さっそくお弁当の蓋を開けて、中を見せるとピクっと反応をする碓氷唯。

その反応を見て(ふふふ!この反応は勝った!)と内心ガッツポーズをするあたし。

早起きして、かなり眠たかったけど頑張ってよかったぁ!と喜んでいたのだけど…。

今度は碓氷唯の手作りお弁当の蓋を開ける。

そこにはプロが作ったのかと疑いたくなるような綺麗なお弁当で。

ネコ型おにぎりは自信作だったけど、他のおかずは焦げてたりするあたしのお弁当とは比べ物にならないくらい美味しそうな出来だった。


「り、料理出来たんだ…。」と、思わず言葉にするあたし。


というのも、いつも碓氷唯はコンビニで買ったパンを食べていて。

てっきり料理は苦手なのかと思っていたんだけど。


「…うん。…いつもはめんどくさいから。」


「そ、そうだったんだ…。」


予想が外れて、食べる前から敗北を確信したあたし。


「お弁当戻そっか。」


色んな角度からお弁当を眺めている碓氷唯にそう提案する。


「…ん?…なんで?」


「だ、だっておかず焦げてるし…。こっちの方が絶対美味しいもん…。」


そう言うと、お弁当を交換しようとするのだけど。


「…だめ。」


と、あたしのお弁当を隠す碓氷唯。

結局、お弁当は交換せずお互いのお弁当を食べ始める。

さて、碓氷唯の手作りお弁当なんだけど。

見た目通りかなり美味しく。

特にふわふわで綺麗に巻かれた卵焼きが絶品で。

幸福感に満たされたあたしは元気を取り戻す。

先に食べ終えたあたしは碓氷唯の方を見てみると。

いつのまにか、おかずの方は食べ終えていて。

ネコ型おにぎりをまた眺めていた。


「それそんなに気に入ったの?」


「…うん。…かわいい。」


「そっか。でも早く食べて欲しいんだけど?」


と、褒められたことで嬉しい反面、恥ずかしくてそう口にする。

すると、しぶしぶネコ型おにぎりをかじり始める碓氷唯。

一口一口が小さく。

食べ方も綺麗なんだなぁと見惚れるあたし。

やがて食べ終えると勝負の判定が始まる。

といってもあたしは負けを認めているので、あとはお願いを聞くだけなのだけど。

碓氷唯がお願いを考えている間ぼーっと待つ。

今日はすごく良い天気で。

ぽかぽか陽気に加えて、早起きしたこともありなんだかウトウトしてくるあたし。

そんな時、お願いが決まった碓氷唯が口にする。


「…膝枕。」と。


「膝枕…?あたしがするの…?」と、もう少しで眠ってしまいそうなあたしはそう質問する。


「…ううん。…来て。」と、自分の太ももをポンポンとする碓氷唯。


「わかったぁ…。」と、意識が朦朧としているあたしは言われた通りにする。


横になり、碓氷唯の太ももへと頭を乗せる。

碓氷唯の良い匂いがしてきて。

頭を撫でられたあたしはすごくリラックスして、すぐにスースーと寝息を立てて夢の世界に旅立つのであった。


一方碓氷唯はというと。


「…お弁当おいしかった。…また作って欲しい。…ネコおにぎりもかわいかったな。…でもこっちが一番かわいい。」と自分の太ももに頭を乗せて丸くなっている、あたしを撫でながら幸せそうにするのであった。

尚、夢の中でも碓氷唯と勝負をしていたあたしは知るよしもなかった。


その後、目覚めたあたしは碓氷唯に膝枕をしてもらったことにしばらく悶絶し、顔を赤くするのであった。


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