第58話 親愛なる隣人
睨み合う成人男性と褐色の少女
「お前は俺に嘘をついている、それは何だ?」
「……嘘なんかついてないよ、お前はジャックを追っかけてくれれば良いんだ。いいね?」
「良いね? だと? ふざけるなよ」
ジョンはナイフを取り出す。
カランダーンはナイフを見ても同様はせずドンと構えている、慌てたのは周りの騎士達、腰の剣を抜いた者も居る
「ジョン! 何を考えているんだ! そのナイフをしまえ!」
「そう言われてはい、そうですねと素直に聞けるかよ、邪魔をしたらお前等を斬る」
「正気かい? ジョン?」
「俺は何時でも何処でも正気だ」
「とてもそうは見えないよ」
「そうか? クククッ、なぁカランダーン? 此処で全て滅茶苦茶にされるより全てを正直に話した方が良いんじゃないか?」
そのジョンの問いかけを聞きカランダーンは仕方がなく考える
(こいつやっぱ面倒臭いなぁ……確かにこいつがこの場で暴れたら非常に厄介……仕方ないか)
「正直に話しても暴れない? 約束できる?」
「なんだ。その不穏な質問はつまりそれを言ったら俺が怒り狂う可能性が高いという事だよな?」
「さぁ……多分怒らないと思うけど」
「どっちだよ……なら余計な事を言うんじゃねぇ」
「ごめんごめん悪かったよ」
「じゃあ聞かせて貰おうか? 正直な話をよ」
「確かに君の推測通り、君を呼んだ理由はジャックの事では無いんだよ、ジャックの事だけなら君の言った通り私達だけでどうにか出来るからね」
「魔法も何も使えない人間を態々外の世界から呼んだんだ。きっと面白い理由なんだろ?」
「どうかな? 面白いかどうかは分からないよ、君の本当の任務(ミッション)は囮だったんだ。ジャックを追わせる事で君に大暴れさせて君に敵の意識を集中させる事それが目的」
「……何故俺が選ばれたんだ? 囮役なら誰でも出来るだろ? この世界の人間でもよ」
「君がその手の達人だから、何かを滅茶苦茶にするのは得意なんでしょ? 元の世界ではそれで相当活躍してたよね? こちらの世界では君程上手く暴れられる人が居なかったんだ。だから呼んだ」
「良く俺の事を知ってるな、どうやって知ったんだ?」
「君の世界をちょっと覗いた時知ったんだよ」
「すげぇな、そんな事出来るのかよ、驚きだな」
「良かった。怒って無いね」
「囮だとか捨て駒なんて事は言われ慣れてるんだ。こんな事で一々起こってられねぇよ」
「へー流石暴れん坊」
「その呼び方は止めろ、誉め言葉になってないぞ」
「ジョン、じゃあ改めて頼むけどさっき話した囮役の件受けてくれるかい?」
「断る権利も無さそうだからな、致し方が無い」
「じゃあ決定ね」
「で? その囮役はどう動けば良いんだ?」
「それはまた必要な時に言うよ、今は自由にしてていいよ」
「この村中の女という女を全て孕ませても良いのか?」
それを聞いて顔を顰める女性陣
「節度は守ってね」
「へいへい」
「ジョンこれで納得してくれたのかな?」
「いいぜ、今の所はな」
ジョンはナイフを仕舞い元の場所の壁で凭れ掛かる
次にジョンはジェイクに視線を移し問う
「そこのジェイクとやらは何故此処に来たんだ?」
「ん? 俺はローラ達が消えたとアーロック様から聞いて、責任者の俺が都市から大急ぎが駆け付けた訳さ」
「行き成り持ち場を離れる身勝手な部下を持つと上司は大変だな」
「ははは、まぁね」
「別にサボる為に居なくなった訳じゃないんだけどなぁ」
「分かってるよ、カランダーン様こんな事はもう二度と起きませんよね?」
「う~ん、あんな事がもう無いようには努めるけど……どうかなぁ? また起こるかもしれないね」
「もう二度と起きて欲しくないですね……ローラが消えたと言われた時俺がどれだけ肝を冷やしたか……」
「部下の為に肝を冷やすのが上に立つ者の勤めさ」
「勘弁して欲しいですね」
「何か予防など出来ないのですか?」
「神相手に人間じゃ何の手の施しようもないよ、予防とか其処等は私がやるから余り気にしないでよ」
「お前が当てになるのかどうかも分からんのに任せられないってよ、こいつ等の眼がそう言っている」
ジョンの言った通り、カランダーンを囲む騎士達は不安の眼差しをカランダーンに向けている
「……信用無いなぁ、確かに君達相手に私の力を見せた事はないけどこれでも私は神様なんだからもう少しくらい信用してよ」
「す、すいません……そんなつもりは無かったんですが……ジョン、余計な事を言うんじゃない!」
「別に言い訳しなくても良いよ、君達の眼を視れば分かるしさ、なんだよなんだよ……」
拗ね始めるカランダーン
「御免なさい、カランダーン様」
「別に気にして無いよ、別にね、全く」
「明らか気にしてるが気にせず先の事を話そう、キャロやライラの勤め先の話なんてどうだ?」
「あの二人は取り敢えずこの屋敷で使用人として働いて貰う事になったよ、部屋はジョン君の隣ね」
「え? 俺の部屋の隣? なんて事しやがる!」
「今はキャロはマリアお嬢様の部屋に居て、ライラは私の部屋に居るけど、この後すぐ君の隣の部屋に引っ越して貰うからその時は君も手伝ってね」
「絶対に嫌だ。その引っ越しを何が何でも阻止してやるからな」
しかしジョンはその引っ越しを阻止する事が出来なかった。ローラとナサルの手でライラとキャロの引っ越しが無事完了してしまった。
「もう諦めなよジョン、これはもう決定した事なんだから」
とローラがジョンをなだめる
「この部屋に有るモノ全て燃やしてやる! 死ね!!」
「まるで駄々っ子だな……情けが無いぞ、ジョン」
呆れるナサル
「お前等、俺に何の恨みが有るんだ? 空き部屋は他にも有っただろ!」
食い下がるジョン
「二人で住めるような広さの部屋は此処しか無かったんだ」
「それならキャロとライラ別れて住めばいいだろ?」
「キャロはまだ子供だ。一人では心配じゃないか」
「この屋敷に居れば安心だろ?」
「それは違うぞ、この屋敷に居たってこの前の様に何処かへ飛ばされてしまう事も有るんだ。二人で住んでいれば片方が飛ばされてもすぐに分かる」
「ぐああああああ! そんな理屈はどうでもいいから、ここは止めろ! 横暴だ!!」
「横暴だと? お前には言われたく無いぞ」
「全く、これを聞いてたらキャロちゃんやライラが傷付くよ」
「勝手に傷付いてろ!」
「……本当に子供の様だね……ジョン君」
「子供で結構、此処にある家具という家具全て叩き壊してやる……」
「それしたら、二人共君の部屋に引っ越して貰う事にするからね」
「燃やしてやる……燃やしてやる……」
一人ブツブツと恨み言を言うジョン
それを呆れ顔で見ているローラとナサル
自分の部屋の隣に隣人が来るという事でとてつもなく不機嫌になる、ジョン・ラム
「俺はこの屋敷から出て行く」
「そんなに嫌なのか……」
「出て行ってもいいけど当ては有るの?」
「無いさ、無いがこうなっては仕方がない、野宿する事にする、野宿だ」
「隣に人が居ても別にいいじゃないか、厚い壁が有るんだから音も聞こえないだろう?」
「音が聞こえないだと? こんな薄い壁一つで何をふさげるって言うんだ? こんな薄い壁一つで音が聞こえなくなるのはお前の耳が悪いからだ。耳を削げ」
「……」
ナサルは不満顔
「でもやっぱ出てかれたら面倒だから出て行かないでね、君何するか分からないし」
「別に村中の女を襲ったりしねぇよ、あれはジョークだ。ジョーク、この村のブス共に興味なんてねぇよ」
「それはそれで問題発言だね」
「何だ? ブスと呼ばれた事を気にしてるのか? 気にすんなよ、騎士だろ?」
「騎士だからと言ってそんな事言われたら傷付くよ」
「面倒臭い奴だな」
「私だって人間だよ、気にだってするよ」
「ふーん……そう」
「何その眼は……何が言いたげだね」
「人間という単語を聞いて思い出したがお前等本当にライラと同じ人造人間(クローン)なのか? まぁこれは俺の個人的な疑問だ。答えたく無きゃ答えなくて良い」
ジョンのその個人的な疑問にローラとナサルは少し動揺し黙ってしまう
「まさか君にその事を知られてしまうとはね……思ってもみなかったよ」
「お前の言った通り私達は人造人間だ」
「ほぉ、なるほどねぇ~しかし凄い技術だな、何処からどう見ても”普通”の人間だぜ? 造られた者とは思えない」
「……そう造られたからな」
そう後ろめたそうに言うナサルの目の前に立ちジョンはその頬に触れようとするが避けられる
「な、何をするつもりだ! ジョン!!」
顔を赤くするナサル
「いや、別にお前の容姿に惹かれたりした訳じゃないぞ、ちょっとした好奇心さ、どんな感触なのかと思ってな」
「普通の人間と変わらん! そんな事気にするんじゃない!」
「初々しい反応だな……お前見た目から察するにもう二十代だろ? 男に近付かれたぐらいでそんな動揺するなよ……」
「う、うるさい! 馬鹿者!!」
「ナサルを余り虐めないでね、ジョン君……」
「こっちが虐められたもんでなやり返さないと気が済まなかったんだ。ソーリーソーリー」
「全く……もう知らん!」
そう言いナサルは出来立てのライラとキャロの部屋を出て行く
「ジョン、ナサルは私の義理とは言え妹なんだからね? 変な事をしたら……怒るよ?」
顔は笑っているが眼が笑っていないローラ
「だから言っただろ? ジョークだ。あんな面倒臭さそうな女頼まれたって御免だぜ」
「……悪口も慎んでね、私はこれからこの部屋にキャロとライラを連れて来るよ」
そう言ってローラも部屋を出て行く
一人残されるジョン
「全く……本当にこの部屋燃やそうかね?」
キャロとライラが新たな自分の部屋に到着した頃にはジョンの姿は無かった……
そして不思議な事にジョンの部屋にもジョンの影は存在しなかった。
「ジョンさん、何処行ったんだろう?」
そう疑問に思うキャロ
「さぁ? 知らないわ、いいじゃない、あんな男が隣に居たんじゃ寝れないわ」
「ライラさん、ジョンさんの事なんでそんなひどく言うの? ひどいよ」
ジョンの正体を知らないキャロはそう言ってライラに反発する
そんなキャロに健気さと哀れさを感じるライラ
あの男は間違いなく獣だ。ジョンのあの時のあの眼を視たライラは分かる、あの男は化け物、底抜けの欲望の化け物だと……
「貴方にもいずれ分かるわ、あの男の正体がね」
「?」
首を傾げるキャロ
「それにしても本当に何処に行ったのかしら? もしかして私達の部屋に隠れていないでしょうね?」
そうライラは推理し自分たちの部屋を探り始める
しかしジョンの姿は見当たらなかった。
「本当に何処に行ったのよ……散歩にでも出かけたのかしら?」
ジョンは散歩には出掛けていなかった。ライラの推理は外れる、ジョンはちゃんと屋敷の中に居た。しかし場所は地下しかも牢獄の中である
そうこの牢獄はクァイケット一行が捕まっていた時に使用した牢獄である、中に入っている間は魔法を使えないという制限があるが元々魔法が使えないジョンにとってそれは全く意味を成さない制限
そしてこの牢獄のある部屋、一つジョンにとって大きなメリットがある、それは……
この部屋には鍵付きの扉が二つあるという事、一つは部屋の扉、もう一つは牢獄の扉である、このダブルセキュリティ、ジョンにとって非常に魅力的
しかし鍵が無ければ中に入れない、鍵は何処に有るか? それはこの屋敷の警備長、ローラの懐の中である、彼女は常にこの屋敷中の鍵を己の中で管理し手放さない、彼女のこの習性を知っていたジョンは彼女が最も油断する時を狙って掏ったのだ。鍵をそれも二本
その最も油断する時というのは引っ越しの時である、彼女が物を持ち上げ部屋から部屋へ移動している時を狙い掏った。疑われない様に隣でワーギャーと叫びながら
そして手に入れた『牢獄(マイスイートホーム)』
折角なので牢屋の中で寝っ転がるジョン、一切住む者に配慮の無い床の冷たい感触が堪らない
本来は罪人の脱獄を防ぐ為に造られた目の前の鉄格子も今のジョンには非常に頼り甲斐ある盾に映る
この部屋の扉だけだが鍵付き、さっきも言った通りだがその上鉄製なのだ。非常に頑丈、これも素晴らしいと拍手するジョン
何故此処が自分にとって最良の場所だと気が付かなかったのか? 自問自答するジョンなのであった……
ジョンが冷たい牢獄の中で寛いでいる時
キャロとライラは二人で談話していた。
「へぇ、貴方の住んでいた村は雪で覆われていたのね? 面白そうね、是非一度拝見させて貰いたいわ」
「私はそれが当たり前の事だと思ってたけど違うんだね、このやかた? を見た時ビックリしたもん、こんなもの見た事がなかったから」
「そう……貴方も私と一緒なのね、私も自分の狭い世界から飛び出すのは初めてなの……だから驚きの連続よ」
「えへへ、本当だね、一緒だ私と」
「良いルームメイトになれそうね、これから宜しくね、キャロ」
と右手を差し出すライラ
それに答えるキャロ
(短い間だけれどね)
ライラは心の中でそう付け加える
死亡平均年齢三十歳 彼女は今年でもう二十九になる
人造人間は強く儚い
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