第55話 王対殺し屋
この国の王ヤーコクはその傲慢な瞳でジョン達を見詰める
「今、君達は圧倒的に不利だ。降伏したまえ」
ヤーコクはそう言いジョン達を威圧するがそんな事では表情も崩さないジョンとジャック
ジャックは呆れ顔で王に言う
「あなた一人で私達に敵うとでも? クククッ侮られたモノだね」
「フフフ、お前達二人程度、私一人で十分だ」
ヤーコクはそう言うと槍の先端をジョンの方へ向ける
「おぉっと、恐ろしいな」
ジョンもナイフを取り出す。左手にはアーリンに貰ったナイフをもう片方には透明のナイフを持つ
「叩き潰してやるよ、その巨大な身体もその無謀な自信もな」
「やってみろ」
「王様! ここは私にお任せを……」
と一人の兵が申し出る
「オーラク、お前はこの私が信用できないと言うのか?」
ヤーコクは自らの兵にも威圧の眼差しを向ける、その眼の前に立ち怯えるオーラク
「い、いえ、そう言う訳では……」
「ふふふ、ならば下がって居ろ、私を信用するんだ」
一転し優しい眼差しをオーラクに向けるヤーコク
「は、はい! 失礼しました!」
と笑顔でオーラクは後ろへ下がる
「では、始めようか? 準備は良いな?」
「何時でも良いぜ、ジャック手を出すなよ」
「え? 正気かい? ジョン?」
「当たり前だ。何だ? 俺が負けるとでも思っているのか?」
「さぁねそんな事知らないよ、私が言いたいのは態々勝率を下げるような真似をする必要は無いという事だよ」
「勝率は一人でも二人でも百なんだ。問題無いだろ? それにあの自信を叩き崩すには一対一で戦って潰すのが一番効くしな」
「……あっそ、勝手にしなよ」
ジャックは捻くれソッポを向く
「何だ? 一人で戦う気なのか? 一人で私に敵うとでも?」
「そう思わなきゃこんな事はしない」
「ほぉその眼、口だけではなさそうだな……」
武器を既に構えている二人、間合いも十分射程距離内、今は槍が有利な間合い、短刀ナイフは不利
今の状況ではジョンの不利
ジョンは酸素の中、ヤーコクは海水の中
(この戦い普通の戦いじゃない、これは斬り合いの戦いではなくどうやって奴をこちらへ誘い込むかが鍵、そして恐らく奴も同じ事を考えている、俺が奴の居る海水の中へ引きずり込まれたら十中八九こちらが負ける)
そうジョンの思考の通りこの戦いは特殊
お互い自由に立ち回れず、立ち回りにかなりの制限を受ける
そしてジョンは不利、何故なら相手はこちらへ槍を突けばこちらは酸素の中抵抗は少なく、槍もよく通る、しかしジョンは違うジョンはナイフを抵抗の強い海水の中へ入れてヤーコクへと届けなくてはならないのだ。そしてこの差はでかい
勝利の女神は今の所ヤーコクへと傾いている
お互い睨んだまま五分が経った頃暇なジャックが茶々を入れ始める
「ねぇ、まだ睨み合っているつもりなのかい? 勘弁してよ」
「黙って居ろジャック、ジョンが集中できない」
とキザシが隣で座りながら言う
「そうは言われてもねぇ……飽きるよ、これは」
「子供みたいな事を言うな」
「子供みたいな事とはどういう事だい? 詳しく説明してみてよ」
「は?」
キザシはジャックの訳の分からない問に呆気にとられる
「なに素っ頓狂な顔してるんだい? そんなおかしな事は言ってないよ、子供みたいな事と言われてもピンと来ないから具体的に教えてと言っているだけだよ」
「……そういう所だ」
「どういう所?」
そうやってジャックはキザシをおちょくり暇潰しを始める
そんな大人たちの傍らで静かに座っている子供二人
「ネルヒム大丈夫? 顔色が悪いわ」
「そう……かな? だいじょうぶだよ、私はげんきだよ」
呂律が回っていないネルヒムを見て益々心配になるマリア
「どう見ても大丈夫に見えないわ! 嘘を言わないで!」
「う、うそなんかじゃないよ、ほんとうになんでもないから、しんぱいしないで」
「何が心配しないで、よ! そんな顔色して!」
「だいじょうぶったらだいじょうぶなの!!」
ネルヒムも強情
そんな強情なネルヒムの頬を引っ叩くマリア
「黙りなさい! この嘘吐き!」
ネルヒムより強情なマリア
泣き出すネルヒム
「あ~あ、泣かしちゃった。可哀そうにねぇ」
キザシをおちょくってたジャックが次はマリアを煽る、彼は暇なのだ。
そんな暇なジャックを他所にジョン達は未だに睨み合っている
睨み合っているが決して周りが見えていない訳では無い
(何やってんだあいつら……)
顔は恐ろしいが内心は呆れている
(しかし、こいつどうやって倒すか……まぁ簡単な方法はこいつをこちら側へ引き込む事)
ヤーコクを酸素の玉に入れればジョンの勝利は確実になる
逆にジョンが海水の中へ入れられたら負けは確実
(あの槍は厄介だぜ……この戦いには有利に働くだろう、それに変わって俺は短刀二丁……不利なのは間違いない……だが、勝てる)
「王様よ、一ついいか?」
「何だ?」
「もし俺がこの戦いに勝ったら、お前の娘さんを俺達にくれるって事で良いんだよな?」
「……私は負けぬ」
「勝てる負けるなんて聞いてねぇんだがな……まぁお前が負けたら兵士共も戦意喪失して勝手に道を開けるだろうから、お前が負けたらお嬢様は俺達のモノって事で良いな」
「ふん、勝手に言っているんだな」
「私を求めて二人の男性が争うなんて素敵ねぇ……ウットリとするわ」
とジョンとヤーコクを見てウットリと見つめる
(この女も大抵だな……この国は大丈夫なのかよ)
二人が動いたのはそんな悠長な思考の後だった。同時に迅速に動く。二人共同じ時間に動いたのだ。ヤーコクは武器を最短で相手に届くように動かす。
ヤーコクは突き、ジョンは振るのだ。ヤーコクの照準はジョンに定められている、しかしジョンは違う
ジョンの照準はヤーコクが突いてくる槍の先端に定められる
槍は海水から酸素へ入って来る、すると槍の進行を妨げるモノは減り槍の勢いは増す。
しかしジョンは槍を見失う事はない、しっかりと先端を見据える……
(この速度ならいける……!)
ジョンの狙いは槍の先端に集中している、ヤーコクはジョンの身体を目掛けて槍を突いているがジョンはヤーコクの身体に向けてナイフを振っていない
槍の先端に向かってナイフを振る
そして見事ジョンはナイフを槍に当てる事を成功させる、ジョンが槍に当たった事によって槍の到着地点がズレ、ジョンには当たらなかった。
しかしヤーコクの攻撃はこの程度では止まらない、ヤーコクはその槍を横へ薙ぎ払う、それを透明のナイフで受け止めるジョン、神の魔具同士のぶつかり合い、透明のナイフはありとあらゆるモノを斬れるナイフだが神の魔具は斬れない、それは槍も同様、あらゆるモノを突き破るハズの槍だがこのナイフは貫けない……
なのでナイフと槍が当たりそこで止まる、鍔迫り合いのような状況、そして不利なのはまたしてもジョン、何故ならヤーコクは体格がジョンよりも良く筋肉も蓄えているなのでドンドンとジョンを追い込む
このままではその内槍がジョンに届く、なのでジョンはなんとかナイフを滑らしその槍を受け流し槍を避ける
「ヒゥーアブねぇな、随分と力があるじゃねぇか、爺の癖に」
「伊達に王はやっていない」
ヤーコクの猛攻はまだ止まない
ジョンが槍を受け流した後も何度も突く突く突く……それらを全て避けるジョン
「おいおい、疲れて来たのか? 最初の突き程のキレが無くなって来たぞ? 幾ら鍛えても老化には敵わないって訳だな」
そして挑発をする
その挑発の通りヤーコクの攻撃は槍を一振りする度にスピードを失っている、スタミナ切れである
その内攻撃も止まる、攻撃を止めた後間合いを離すヤーコク、海水の中なら安心だと彼は思っていた。攻撃をされる事は決してないと
「そこに居れば安心だと思ってるな? 青ざめさせてやる」
「何?」
「よくお前の手元を見てみるんだな」
ジョンにそう言われ、ジョンに警戒したまま槍を見るヤーコク
槍には赤い糸が絡みついていた。
「なんだ!? これは!?」
その赤い糸はジョンの元へと続いている
「俺とお前を繋ぐ『運命(ホット)の赤い糸(ライン)』だ。さっきお前の槍を受け止めた時に引っ掛けさせて貰った。覚悟しなこの糸は決して切れない」
ジョンは『運命(ホット)の赤い糸(ライン)』を一気に引き寄せる
槍はヤーコクの手から奪われジョンの方へと引き寄せられる
「俺の運命の相手はこの槍らしいな、クククッ」
ジョンの持っているこの『ホットライン』はラライクの糸である、どさくさに紛れラライクから糸を盗んだのだ。
そして糸の名前を勝手に改名し『運命(ホット)の赤い糸(ライン)』と名付けたのだ。
槍を奪われてしまったヤーコク
「形勢逆転だな、どうする? 降参するか?」
「この程度で引いて堪るかよ」
ヤーコクは裸一貫でジョンに近寄る
「諦め悪いな、お前、まだやるのか……?」
ヤーコクは槍を奪われ、絶対不利の状況、だが彼は諦めず、腰に着けていた剣を取り出し、ジョンに向かって来るのだ。
この状況ジョンにとって非常に都合が悪い
(やべぇ、このまま奴に攻撃されれば俺達が『拒絶』の魔法が掛かっていない事がバレる……!)
拒絶という魔法は相手の敵意に反応しその攻撃を完全無効化してしまう魔法である、魔法、物理攻撃しようとも攻撃する前に戻され攻撃していない事にされる、それが防御魔法『拒絶』そして攻撃を戻されてしまうその光景を既にヤーコクは嫌という程見せられている、その事をジャックから聞いて知っていたジョン
もしこのままヤーコクが攻撃してしまえば普通にその攻撃は通ってしまうのでジョンの嘘がバレてしまう
なのでジョンは焦る
(不味いぜ……本来なら奴が剣を振り上げたりした瞬間に戻されなきゃならない、そうはならずに俺に攻撃が通ってしまえば奴等の勘違いも解かれちまう)
王の後ろで立っている無数の兵士達はジョン達もジャックの様な魔法を使えると勘違いしているのだ。だから攻撃して来ない
だがそれが勘違いだと知られてしまったら、襲われる無数の兵士達に
今の状況でマリア達を護りながら戦うのは至難、それは出来るだけ避けたい
「ヤーコク様! お止め下さい!」
と数人の兵士がヤーコクに抱きつき止める
「放さぬか! 敵を目前にして逃げろと言うのか!?」
(よし! いいぞ! そのまま止めろ!)
と内心で兵士達を応援するジョン
「しかし! 貴方が死んでしまったら!」
「私があの男にやられると思っているのか!?」
と王と兵士数名でごちゃごちゃとやり始める
この間にジョンは考える、突破法を……
(あの男、最初はもうちょっと冷静な男だと思っていたが違うな、すぐに熱くなるそれが今俺を追い詰めている……それとも直感で俺に攻撃は通ると感じたのか? まぁそれはどっちでもいい、熱い男に何をすれば熱を冷ます事が出来る? あの兵士達だけじゃ恐らく無理だろうひと時は期待したが時間稼ぎにしかならないだろう)
ジョンが『ホットライン』に絡まっている槍を見下ろす。
そして楽しそうに見物しているエフィーを見据える……
(娘が目の前で槍に串刺しにされたら冷めるか? いや、余計に逆上させるだけだ。ああいうは脅しが効きづらいからな、ちとイジッてみるか)
「おい、王様俺をどうやって倒すつもりなんだ? 槍も剣も奪われた状態でよ、第三の魔具でも持っているのか?」
「ふん、そんな物無い!」
(だろうな)
「なら止しとけよ、無駄なのは分かってるだろ?」
「無駄かどうかは実際にやってからでは無いと分からないだろう!」
「本気で言ってるのか? それとも何か裏がある? 熱くなって周りが何も見えていない男を演じているだけで本当はちゃんと策があるとか?」
「フフフ、お父様にそんな能は有りませんよ、ジョン」
とエフィーに否定されてしまう
(やっぱり、直感タイプか……なら問題は無いか、奴等が喧嘩している間を利用してやろう)
「貴重な情報をありがとよ、お姫様」
「どういたしまして」
「ジャック、こっちに来い」
「ようやく私の出番かい?」
「あぁ、その通りだ。此処で奴の相手をしろ、俺の出番は終わりだ」
と言い何事も無いかの様にジャックと場所を変わる
(これで何とかなったか?)
「逃げる気か!」
「その通り、俺は逃げさせて貰うぜ、疲れたしな」
と言いジョンは槍と『ホットライン』を回収し後ろへ下がる
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