第54話 剣と魔法と奴

 敵の目的は不明

 だが何か確実に狙っている、人魚達の眼はただ指をくわえて見ているだけの負け犬の目では決して無かった。

 こちらの一挙手一投足を見逃さず何かを待って居る、ジャックを倒せる何かを……


「お姫様の所にはまだ着かないのか? 随分と遠いじゃねぇか」

「もう少し先だ」


 相変わらず視線は後ろを追って来る、それに気が付いているのはジョンとジャックの二人だけ、マリアとネルヒムは勿論気が付いていないキザシは”本来”なら彼らの気配に気が付く事が出来ただろうが今は違う、今発動している魔法の所為で目の見えないキザシは周りの状況が良く分かっていない

 そして目の前でジョン達の道案内をしている青年は何も知らないので脅しは無駄

 戦力外は三人、マリア、ネルヒム、キザシの三人

 戦力になるのはジョンとジャックの二人

 ジョンは殺しのプロフェッショナル勿論、戦力にカウントされる

 しかしジャックは片手を失っている、戦力になるのか? と疑問を感じても不思議ではない、しかし彼もジョンの弟子だった男、成人男性五人に囲まれても足のみで無効化出来る


 ジョン達が狭い廊下に差し当たった時だった。彼らがアクションを起こしたのは

 後ろから光り輝く一本の光線がジャック目掛けて飛んでくる、それを急ぎ躱すジャック、しかし光線はまだ死なずジャックの後ろに居たジョンとメルホルを襲う


「ゲェ!?」


 と言いながらもメルホルを押し倒し光線を何とか二人で避けきるジョン


「す、すまない、助かった」

「礼を言っている暇があるなら急いで何処かに隠れてろ」

「分かった」

「へぇ~凄いね、私目掛けて攻撃して無効化されないという事は恐らくあれは神の魔具を使って放たれたモノ……」

「神そのものの攻撃というのは有り得ないのか?」


 キザシが疑問を投げかける


「無いね、それなら闇討ちをする意味が無い、神なら目の前に現れて堂々と私を殺せばいいだけ……それをしないという事は」

「神の力を借りた人間の仕業という訳だ」


 後ろを見るが後ろには誰も居ない


「さて、次はどう来るかな?」

「あの光線に当たってたらどうなってたんだろうな?」

「さぁね、風穴でも開いたんじゃないかい? どうでも良い事だよ、当たったらタダでは無いという事は確かという事だけ分かってれば問題無いさ」


 ジョンとジャックはマリア達三人の非戦闘員を二人で挟み囲む様な形で敵を待つ


「ジョン……」


 マリアが不安げな声でジョンに声を掛ける


「そんな顔をしなさんな死ぬ時は一瞬です」


 マリアの不安に更に不安と恐怖を与えるジョン、それを聞いてマリアではなくネルヒムが泣きだす。


「子供を泣かして楽しいのかい?」

「最低だな……」


 ジャックとキザシにそう言われるジョン


「なんだよ、折角の戦闘だぜ? BGMの一つも欲しいじゃねぇか」


 泣き声を背景にジョンとジャック、二人の戦いは幕を上げる

 相手は百こちらは二

 勝ち目はあるのか? それとも無いのか? そんな事は二人共考えていなかった。二人の頭の中には

『勝つ』それしか存在しない

 二人で百に勝つ

 当然だろ? その傲慢さが二人の最大の武器

 その武器はナイフや魔法すらも上回る


 廊下で立ち往生をくらっているジョン達、敵から攻撃を受けているが敵は姿を現さないその上ジョン達の周りは海水で埋まっていて自由な立ち回りが出来ない


「見ているだけか? 臆病者!」


 と少し挑発してみるが無駄


「駄目みたいだな」

「そりゃそうさ、そんな挑発に引っ掛かる奴なんて居ないよ、それに彼等は一応プロさ、そう挑発なんかに引っ掛かる訳がない」

「それよりこちらの言葉はちゃんと奴らに届いているのか?」

「多分届いているハズだよ、多分ね」

「心強い言葉だな、全く」


 そうジョンが言い終えた頃、次の光線が発射されジャックの元へと届けられる、次はさっきの様に一直線に飛んではこず壁に跳ね返りながらジグザグに向かって来る

 ジグザグにやって来るのでさっきより避けにくくなっているその光線


(へー、あの光線あんな器用な事が出来るのか……なるほどね、射手が見当たらない訳が分かったよ、相手は私達からは見えない所でこの光線を発射し入り組んだこの廊下の壁に反射させこの光線を曲げ私達の元へ届かせているって訳か)


 ジャックは向かって来る光線を目の前にその光線について冷静に分析を始めるジャック

 ジョンも同上

 分析をする余裕があるだけあって二人は難なく光線を避ける


「こんなので私をどうにか出来ると思っているのかな?」

「神の魔具なんだろ? ならこんなもんじゃないハズだぜ、ラライクの糸があんなに強力だったんだ。こいつも必ず何かある」

「ただのろい光線を出すだけのガラクタは有り得ないか……」

「それは間違いないな」

「……ならその何かをされる前に奴らを叩くのが利口かな」

「全くその通りだな」

「おい待て」


 キザシがジョンとジャックを制止する


「お前たちの話じゃ相手は百を超すんだろ? それに二人で挑むのか?」

「そうなるな」

「正気か?」

「勿論、何時でも何処でも俺は正気さ」

「非戦闘員を三人抱えての戦闘は”若干”不利だろうけどね」

「大丈夫なの……?」


 マリアが不安そうにジョンに問う


「そんなに不安なら遺書でも書きますか? 紙とペンはありますよ、ビチャビチャですけど」

「遠慮しておくわ……」

「話はまとまったね、私達は今から奴らに攻撃を仕掛ける、何があっても良い様に君達にも武器を配って置こう、ジョン頼んだよ」

「お前が出せよ」

「君の子供だろう? 君が面倒見てよ」

「ケッ俺の子供じゃねぇが仕方ねぇな、ホレッ二人共」


 ジョンはマリアと泣き止んだが目が赤いネルヒムにナイフを配る


「マリアお嬢様は剣術を習っていましたよね?」

「え、えぇ、でも練習だけで実践なんてした事が無いわ!」

「なら今回の事をいい勉強だと思って下さい」

「そんな事言われたって……」

「おやおや、いつもの強気なマリアお嬢様はどこ行ったんですか? いつもなら「任せなさい! あの身の程知らずの人魚共を皆残らず焼き魚にしてやるわ!」ぐらいの事は言いそうですのに」

「言わないわよ! そんな事! 私を何だと思ってるのよ!」

「二人共、いい雰囲気の所悪いけど、そろそろ作戦を始めるよ」

「作戦? そんな大層なモノか?」


 とキザシ


「百の敵にほぼ無策で敵に突っ込む、素晴らしいぐらい良い作戦じゃないか、何か不満が?」

「……いや、別に」

「なら良し、じゃあ早速みんな行こう、子供二人とキザシはジョンがおぶってよ、これからは走る、今のキザシじゃ走れないでしょ」

「へいへい」


 とジョンがキザシをおぶる


「なんだか恥ずかしいな」

「恥ずかしがるなよ、今日はお姫様気分になっておけ」


 ジョンはキザシの後マリアとネルヒムを抱きかかえ、ジャックと一緒に敵の元へと向かうのであった。


 百を超える人魚の兵達は城の一階廊下の入口にて魔具『渦巻く光』と呼ばれる剣を片手に持っている男がその百の兵士の先頭に立ち、剣を掲げている、剣には光が集まっている


「お前達下がってろ!」


 渦巻く光を掲げている人魚の男が後ろに居る人魚たちにそう命令している、どうやら彼がこの部隊の隊長の様だ。


「しかし、隊長、本当にメルホルは大丈夫なのでしょうか? もしあの光線に当たったら……」


 と隊長の傍らに居た男が問う


「その事は心配するな、考えてある」

「はい……」

「さぁ、分かったなら、下がっているんだ、次行くぞ!」


 隊長の傍らに居た男が後ろに下がったのを確認すると渦巻く光を振り下ろし刀身に溜まった光を発射させる、これがジョン達を襲った光線の正体である

 光は狭い廊下に放たれ廊下の角に当たると反射し廊下の奥へと姿を消す。


「隊長、これくらい浴びせれば奴らも無効化されたでしょう」


 と後ろの兵隊の一人が言う


「そうだな……」

「いえ、隊長奴は多くの仲間を引き連れてました。油断は出来ません、何か防御出来る術を持っているかも知れません」


 別の兵が異を唱える


「神の魔具だぞ? 防ぐなんてあり得ない!」


 それにまた異が重なる


「しかし……!」

「それまでだ! それは私が決める、アラオク、キラル、サガルの三人は私と共に来い、残りは此処で待機だ。もし私達が十分以内に戻らなかったら、私達はやられたと思えそしてここで奴らを迎え撃つんだいいな? 決してこの廊下に突入するな、指揮はオーラクお前に任せる」

「了解!」


 隊長がそう命令しオーラクと呼んだ兵に渦巻く光を渡す。そして名を呼ばれた兵達が前に出る

 そして廊下に突入する四人

 四人共顔が緊張に包まれている

 それを見守る後ろの兵達


「本当に大丈夫なのかよ?」


 突入しない兵の一人が親しい隣の兵にそう愚痴をこぼす。


「大丈夫だろ、なんせこの国の国宝の神様の魔具なんだぜ?」

「そうは言ったてよ姫様を城の真正面から堂々と入って来て攫った男なんだぜ? それが仲間を増やしてやって来たんだ。何かあるに決まってるぜ」

「心配し過ぎだろ? 何をどうやったって神様には敵わないさ」

「だと良いんだがな……」


 彼等にはあの光線を避けて対処するという発想は無かった。

 それもそのハズ光線を避けるのは彼等にとっては至難の業だからその発想が無いのだ。

 そして突入した四人は廊下の奥へと消えて行くのであった。


 そして十分後、隊長たちは戻らなかった。

 オーラクと呼ばれた兵が声を張り上げる


「全員! 隊長はやられた。犯人がやって来るぞ! 気を緩めるなよ!」


 隊に動揺が走る


「マジかよ……隊長がやられたのか……?」

「あの三人だって先鋭のハズだぜ」

「そこ! 私語を慎め! 防御を固めるんだ!」

「あいつ等が奥へ逃げ込んだらどうするんですか?」

「馬鹿者! ブリーフィングを聞いてなかったのか!? この廊下は別チームによってもう囲まれている、あちらから逃げても問題無い!」

「す、すいません……」

「隊長! 前方から何か来ます!」

「全員! 注意せよ!」


 部隊に緊張が走る

 オーラクは渦巻く光を隊長と同じように構え光を溜める、額には汗

 相手は自分達より圧倒的に少ないハズ……なのに圧倒されているような錯覚に陥る部隊の兵達

 前方の廊下からは何か来る、正体は隊長か……? それとも……


 最悪の予感が当たる廊下から現れたのは両手を挙げている侵入した四人とその四人を後ろからナイフで脅している二人そのまた後ろに三人


「少しでもおかしな事をしたら首が吹き飛ぶよ、覚悟してね」


 兵士四人の首には入る時には無かった首輪が付けられている

 そして隊長が廊下の外で待機していた兵士と目を合わせると言う


「私達の事は気にするな! 攻撃しろ!」


 隊長はそう言うが兵士達は攻撃出来ない

 そしてジャックの忠告を無視し大声を出した代償として片耳を斬られる


「グッ!?」

「私の言った事は無視かい? クククッ寂しいねぇ」


 しかしそれだけでは代償が足らない

 ジョンが隊長の頭を鷲掴み廊下の壁に叩きつける、それを五回

 隊長は気絶する


「ジャック……あんな甘ったるい方法で制裁とか言ってたら殺す気が無いのがバレちまうぜ? 脅し方は教えたハズなんだがな」

「……それは悪かったね」

「おい! お前等、そうだ。お前等に提案がある」


 ジョンが廊下の外に居る兵士達を指差す。


「こいつ等の解放を条件にその剣をこちらによこす事それに今此処に姫を連れて来い、時間は十分くれてやる、それを越えれば……分かるな?」

「ふざけるな! そんな要求――」

「聞けないか? ならこの四人は死ぬ、こうやってな」


 ジョンは兵士の一人腕をへし折る、悲鳴を上げる兵士、その悲鳴を聞き怖気づいてしまう廊下の兵士


「おっと、間違えたこうかな?」


 次は足、更に高くなる悲鳴、それは足と腕を折られた兵だけの悲鳴ではない、後ろに居たマリアとネルヒムの悲鳴も混ざっている


「わ、分かった……! 姫様を連れて来る、だからもっと時間をくれ!」

「駄目だあと九分でやれ」


 ジョンがそう言うと兵士の一人が何処かへと走って行く


「さぁさぁ、急げ急げ、でなければ仲間が死ぬぞ、クククッ」

「……完璧に役を取られたよ、全く……」


 ジャックがガックシと肩を落とす。


「さ、その剣をよこせ、こちらに投げるんだ」

「分かった」


 仕方なく剣をジョン達の元へ投げる

 ジョンの足元で痛みに悶える腕、足を折られた兵士


「さてさてさて、あと七分だ。お前等も一応覚悟をしておけ、死後の世界に思いを巡らせるんだ。悪い所とも限らねぇぜ?」


 そして残り時間が一分に迫った時だった。

 姫を呼びに行った兵士が姫を連れて来たのはしかしその後ろには更に多くの兵士達を連れて来た。


「あら、ジャック迎えに来てくれたの? 嬉しいわ」

「私も会えて嬉しいよ、エフィー」

「姫は良いがその後ろの奴等は何だ? そんな奴等呼んだ覚えは無いぜ?」

「す、すまない……」


 ジョンの足元で悶えている兵士の顔を踏みつけるジョン


「余計な事をするな、今までの話聞いてたのか?」


 兵士達の固まりから王冠を被った男が現れる


「私の兵をこれ以上傷つけるのは止めてくれないか?」


 と髭を蓄えた王冠の男がジョンの眼を真っ直ぐに見て言う


「その王冠から察するにアンタは此処の王様って事で良いのか? それとも影武者?」

「もし私が影武者だったとして君にそれを正直に言うと思うのかね?」


 その王はジョンより二回り大きい、その為自然とジョンを見下す。

 ジョンは王を見上げる、そしてその傲慢さが滲み出る眼や表情を視てジョンはこの男は本物の王に違いないと確信する


「まぁ、影武者だろうが本物だろうがどうでもいい、何故此処へ来たんだ? その理由を聞かせてくれよ、娘の危機を見物しに来た訳じゃないんだろ? 要件を言え」

「君達に娘をやる訳には行かない、そう言いに来たのだ」

「それはつまりこの四人を見捨てる、そう言うのか? さっきこれ以上傷付けるのを止めろとか言ってなかったか?」

「無論、彼等も救うさ」


 王はジョンに接近する、王は海水の中、ジョンは酸素の中、それぞれがそれぞれ有利な環境に身を置いている

 ジョンは自分に有利な間合いを取る為後ろへ後退する


「俺に攻撃したらこの四人は死ぬぜ、分かってるのか?」

「死なぬと言っている」


(こいつ……随分と自信満々だが何か策が有るのか? それともタダの阿呆なのか? いや、タダの阿呆ならば信頼を得る事は出来ないだろう、後ろの兵士共がこいつを見る時の表情を見れば分かる、兵士は間違いなくこの男を”信頼”している、信頼を得るにはそれ相応の実力があるって事だ……つまり何か有る)


 ジャックはそんなジョンを暇そうに眺めている


「おい、ジャックあいつに任せて大丈夫なのか……?」

「さぁね、大丈夫じゃない?」


 と口で言っているがジャックもまたジョンの腕を信頼している、この男に任せれば間違いないと内心は思っているがそんな事言うのは悔しいので絶対に言わない

 それにこうとも思っている、”ジョンで駄目なら私がやっても無駄”だと勿論これも口には絶対に出さない


「私はこの国の王 ヤーコク・セルフィン! 兵を死なせはしない!」


 海中の都の王 ヤーコクはそう言うとジョンを囲う酸素の玉の壁に亀裂を入れそこからヤーコクが操作する海水を入れる

 海水は細い縄の様になり素早く酸素玉に居た四人の兵を絡め取る、ジョンとジャックは瞬時にその縄を斬ろうとしたが無駄

 素早い動きに完璧にやられてしまった二人、人質を四人取られてしまう……


「これで形勢逆転だ」


 しかしジョンは怪しい笑みを崩さない


「なるほどな、水を使ってあんな素早い動きを出来るとは予想外だった。だがお前は一つ見落としがある、そいつらの首元をよく見るんだな」

「その首輪の事を言っているのか? これは何だ?」

「あぁ、そうだった。君達にはまだ説明して無かったね、忘れていたよ、それは爆弾、私が死ねば起爆するようになっている、勿論手動でも起動出来るよ、防水にも優れてるから海水の中でもへっちゃらさ」

「こいつの言った通りだ。形勢逆転だと言ったな、残念ながらそうじゃない、おたくは上手く俺達の意表をついたつもりなんだろうが残念だったな、何も変わらない、そいつらが人質なのは変わらない、そいつ等の居場所が変わっただけさ」

「首輪を外せばいいだろう?」

「無理に外そうとしてもバンッ! さ」

「お前たちの言う事も信用できない、これが爆弾だとは私は到底思えん」


 と言った瞬間兵の一人の首輪が起爆する


「これで信用は得れたかな? 王様いや無能とでも呼ぼうか?」


 その爆弾は即死はさせず、苦しめて殺すがコンセプト

 兵は苦しむ

 その苦しみは他の兵にも移るのだ。戦意を削ぐ


「クククッ調子に乗るからこうなる、全く馬鹿な王様だね君は部下を殺した気持ちはどうだい?」


 兵の首を吹き飛ばしたジャック、ジョンの命令では無い


(ゲッやりやがったジャックの奴……あれじゃあの男はもう助からない、やっぱりこいつをコントロールするのは無理だったか……クソ)


 これはジョンにとって想定外、ジャックの暴走

 騒然とする兵士達、兵士の一人が喉から血を流して海水の中を浮いている、死んだ魚の様に

 しかし残酷な事にまだ息はある


「あの兵士は残念だったな、分かっただろ? 俺に逆らうとこうなるんだ」


 こうなってしまってはもう後戻りは出来ない、ジョンはジャックの暴走を利用する事に決めたのだ。


「分かったならとっととお姫様を渡して貰おうか?」

「そうか……ならば仕方ない」


 ヤーコクは何かを諦めたかのようにそう言う


(何だ? 何が仕方ないんだ? 素直に姫を渡すとは思えない)


 ヤーコクは右手に持っていた槍を喉を吹き飛ばされた兵に突き刺す!

 その光景に思わず絶句するジョン

 ジャックもマリアもネルヒムも同じ


(……苦しむ姿を見るのが耐え切れ無かったから止めを刺したのか? いや、違う!)


 ジョンは目撃する刺された兵士の身体が緑色に輝くのを……


「これは我が国の国宝の一つでな、君が持っているその剣もその一つだ」


 ジョンの右手に握られている剣を指差すヤーコク


「それはそれは、奪って悪かったな」

「構わんよ、すぐに取り返す」

「やってみな、やれるモノならな」


 ジョンは表情を崩さないが内心は冷や汗をかいている


(あの緑色の光は何だ? 何をしてやがる……)


 緑色の発光は止み、兵士は元の色に戻る

 元の色に戻ったその兵士の首には痛々しく存在していた傷が消えていた。兵士もさっきまで死んだ魚だったが今ではピンピンとしている


「この槍は刺したモノを治す。どうかね? 素晴らしいだろう?」

「つまりはその首に着けている首輪は意味が無くなった……という事か」

「残念ながらそうなるな」

「へー驚いたな、そんな素晴らしい国宝があるんだったら私が此処に最初に来た時に使えばよかったのに」

「この二つの魔具は普段はなかなか取り出せないような所に閉まってあるものでな君が行き成り此処へ来た時には間に合わなかった」

「私の迅速な対応が功を成したという訳だね」


 ヤーコクはジョン達に槍の先端を向け言う


「もう分かっていると思うがこれは神の魔具、これなら君達を刺せるのだよ」

「だから?」


 とジョンが尋ねる


「君達の負けだ」

「それはどうかなぁ? 視て見ろよ、俺達を殺せる槍を持ってるのはお前一人こっちは五人だぜ? 一対五劣勢なのはどっちだ?」

「一対五だと? まさか後ろの子供も含めているのか? 馬鹿を言うな、実質一対二だろう? もう一人のその男は役には立たない、魔法に多くのリソースを割き過ぎているからだ。戦える状況じゃない」


 ジョンの嘘や虚栄をすぐに見破るヤーコクその眼は確か



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