第53話 海中水泳

  ジャックは捜索メンバーを発表する

 メンバーはジャック、ジョン、キザシ、マリア、ネルヒムの五人

 ラライクは酸素を操作して遠くにいるウェークを呼び、再び扉を出現させ、五人を再びワープさせる

 転移先は海の中、五人は海の中に放り込まれてしまったのだ。

 キザシに早く魔法を使う様に頭を叩いて煽るジョンとジャック、そしてその後二秒後に魔法は発動される

 その魔法は水中で酸素を作り出す。魔法


「もっと早くできなかったのかな?」


 若干怒りを帯びた口調でキザシを責める水浸しのジャック

 勿論、五人共海水を浴びてビショビショ


「ゲホッ……! ゲホッ……!」


 海水を飲み込んでしまったマリア


「目に……目に……」


 目に海水が入ってしまったネルヒムは両目を押さえている


「大丈夫ですか?」


 ジョンがマリア達にそう声を掛ける


「ゲホッだいゲホッじょうぶよ」

「ジョン君、目が痛いよぉ」

「明らかにマリアお嬢様は大丈夫じゃなさそうですし、ネルヒムに関しては面倒臭そうですね」


 先にネルヒムの眼を視るジョン


「君が子供の面倒を見るなんてね、驚きだよ」

「俺も生きている内にこんな事をする事になるとは思っても居なかった」

「私もこんな光景を見る事になるとは思っても見なかったよ、だよね? キザシ」

「知らねぇよ……」


 キザシは何故か動きが鈍い

 何故なら理由があり、キザシは普段、目が見えないので風魔法を周りの状況を知る為のソナーとして使っていた。そしてその魔法に多くのリソースを割かなければその魔法は使えなかったのだ。そして今使っている魔法はキザシの全魔力、集中力全てを集中させなければ扱えない魔法なので普段の様にソナーの魔法を使えなかった。なので海中に居る間は魔法無しで完璧なる暗闇の中を生きなければならない

 キザシは立ち上がろうとするがバランスを崩し倒れてしまう


「グッ!」

「おやおや、大丈夫かい?」

「大丈夫だ……心配は要らない」

「まぁ、もう駄目だ! と言っても無視したけどね」

「なら最初から聞くなよ……」


 倒れながらジャックに呆れるキザシ


「大丈夫かな……? 目が見えなくなっちゃったりしないよね?」


 目が見えなくなってもおかしく無い程の痛みを感じているネルヒム


「さぁ? どうでしょうね? もしかしたら目が見えなくなっちゃうかもしれませんよ?」

「え!? 本当……? どうしよう……」

「ゲホッ嘘に決まってるでしょう! ゲホゲホッジョン! てきとうな事を言わないで! ゲホッ!」

「あ~あ残念、バレちまいましたね」

「嘘だったの? 良かったぁ」


 と目の痛みも忘れて安堵するネルヒム


「まるで子をあやす親だね、ジョンは良いパパになるね」

「パパねぇ、勘弁して欲しいぜ」


 ネルヒムの目の痛みとマリアの喉の砂が取れた後、五人は海中を少し歩き水中都市を発見する

 都市には地上の都市と同じ様に建物が建っているが違う部分も多い、まずその都市の住人たちは都市を縦横無尽に泳ぎ回っている


「わぁ、綺麗……」


 都市は海面を通して都市を照らす太陽の光が都市を綺麗に演出している、それを見てマリアは綺麗だと呟いた。ネルヒムも同様

 しかし他の三人はそんな事を一切考えず感じず、淡々と都市に向かったのだった。

 ジョン達が歩く度にビチョ……ビチョと湿った床が鳴る、そして辺りには海藻が生えている

 目の前には海の都が見えている、その都に目を取られているマリアとネルヒム

 その都に近付いて行くジョン達だったが、ジョンが何かに気が付く


「誰かが俺達を見てるぞ」

「何人だい?」


 顔色も変えずそう聞き返すジャック


「百を超える、この国の奴らが俺達を警戒しているのか?」

「ん~警戒しているのは間違いないだろうね……」


 ジョンはそのジャックの言葉に引っ掛かるモノを感じる


「何だ? その言い方は? 何か引っ掛かるな、お前何を知っている?」

「聞きたいかい?」

「クククッ教えないよ、自分で考えるんだね、さ、気にせず先に行こう」


 ジャックとキザシは百を超える視線を無視して先に向かう

 ジョンはマリア、ネルヒムを後ろにして何があっても二人を護れるようにしながら用心してジャックの後を追う

 都まであと数メートルの所でその都の警備兵であろう鎧を着た人魚一人に呼び止められる


「待て! 貴様達をこれ以上先に行かせる訳には行かない!」

「何故、私が君の言う事を聞く必要があるんだい? その必要性を教えてよ」


 警備兵の静止も聞かず先に進もうとするジャックだったが次に槍を突き付けられる


「脅しでは無いぞ!」

「はぁ……愚か者だよ、君はもしかして私の事を知らないのかい? いや、その様子からすると私を知っているよね? だから君の仲間も私達を百人体制で監視している、そうだろう?」


 何も答えない兵


「なら知ってるよね? その槍が私に決して届かないって事はさ、他のみんなも知っているだろう? 私は余計な交渉は望まないよ、意味が無いからね」


 ジャックは過去にこの都に来た事があるのだ。


「だから単刀直入に言うよ、君たちの姫様を私達に引き渡して欲しい、勿論、無償でね、さぁ君は今私が言った事を王様に伝えて来てよ」

「そんな要求が通ると思っているのか!」


 そう兵が言った時、ジャックは兵の顔面に向かって蹴りを入れる、その蹴りの威力は兵を地に叩きつけるには十分な威力


「ぐあっ……」


 兵はジャック達の居る酸素エリアに引きずり込まれる


「君、もしかして自分に何かあっても周りの誰かが助けてくれるだろうとか考えているのかい? だから強気で私に向かって来たのかい?」


 しゃがんだジャックが鼻から血が流れている兵士の鼻をグイッと自分の方へ引っ張り顔を寄せる


「やっぱり、君は愚かで驚く程間抜けだ」


 ジャックはそう言うと兵士の鼻を捩る

 悲痛の悲鳴を上げる兵士


「君が悲鳴を上げても周りの奴等は何もして来ないでしょ? これ、どういう事か分かるかい?」


 涙を浮かべた瞳でジャックを見詰める若い兵士


「君は捨て駒って事さ……彼らが動くのは君の首元か頭から血が溢れ散乱して君の命の鼓動が止まってから、クククッキザシ、この身の程知らずの首元に刀を当ててくれよ」


 キザシは面倒くさそうにジャック達に近付きながら刀を抜き兵士の首元に刀を当てる、震える兵士


「自分の愚かしさが分かったかい? 捨て駒君、君は私に意見を言える様な立場では無い、分かったかい?」


 兵士は黙って何度も頷く


「分かったなら良し、勤務ご苦労様、もうゆっくり休んでいいよ、キザシ親も見るかもしれない、綺麗に斬ってあげてね」


 そう言うとジャックは立ち上がり、楽しそうにクククと笑う

 ジャックのその笑い声を聞いた頃ようやく兵士はさっきジャックが言った意味を理解する、ゆっくり視線をジャックからキザシへ移す。するとキザシと呼ばれた男が無表情でこちらを見ている


「残念だ。お前嫌われたみたいだな」


 そう言ってキザシは兵士の首元へ当てていた刀の向きを変えて振り上げる……



 唐突だが此処で彼の半生を語ろう、兵士の名をメルホルと呼ぶ、彼は結婚をしておらず父と母と弟と住んでいる、家族の仲は良好で近所でもあそこは仲の良い家族だと言われている

 そして明日は彼の誕生日だ。家族は彼の為に誕生パーティの準備をしているのだ。

 しかし彼は今死に掛けている

 彼の首元に盲目の剣士の刀が向かって来る刹那、メルホルは家族の顔を思い出す。

 しかし刀はメルホルの首には到達しなかった。

 何故か?

 ジョンが片手で振り上げられた刀を止めたからだ。


「止めて置けよ」

「何をしてるんだい? ジョン何故邪魔をしたんだ?」

「何をしてるかだと? それを聞きたいのはこっちだ。お前此処で何をしたんだ? 何をしたら百人以上の兵に狙われる事になる?」

「簡単だよ、この国の姫様を誘拐したのさ」

「マジで?」

「あぁ、大マジさ、君も会っただろう? あの水色の髪の毛をした女性が居ただろう?」

「エフィーとか呼んでいた奴か?」

「そうさ」


 ジョンは頭を抱える


「姫を誘拐したのか? だからこの国中の兵に睨まれているって訳か」

「その通り、そして姫を誘拐する時に此処の兵と戦ったんだ。勿論彼らの攻撃は私には届かなかった。で簡単に姫様は誘拐されましたとさ、ククク」


 ジャックの身体を覆っている防御魔法、拒絶の効果で兵士の攻撃は全て無効化されてしまったのだ。


「そんな事があったから彼等も何か策を講じたんだろうね、彼一人に私へ近づかせて何かをするつもりだったんだろうね……或いは今から何かするつもりなのかもしれない」

「おい、キザシ近くに魔力を感じるか?」

「いや、感じないが……」

「ならいい」


 ジョンがジャックに耳打ちをする、誰にも声が届かない程小さな声で


「こいつ等はお前の魔法の弱点は知ってるのか?」


 弱点とは敵意なきものには全くの無力だということ


「知らない筈だよ、まぁ何処からかその情報を仕入れた可能性は否定出来ないけどね」

「もし、そうだとしたらアウトだぜ……」

「クククッそれはそれで楽しそうじゃないか」


 そう楽しそうに語るジャックにジョンは呆れる


「楽しそうだと? 苦労するのはこっちだろ」

「私だって苦労するよ、君達を盾にして逃げるのにね」


 ジョンはそれを聞き終えると片手で止めていたキザシの刀をキザシから無理矢理取り上げる

 そしてジャックの首元に刀を当てる


「最悪の場合、そこの子供二人は連れて行けよ、邪魔だからな」

「クククッいいよ、それでさ、話が終わった所で良い?」

「何だ?」

「この人殺していい?」

「殺す理由は?」

「周りの人等に対する見せしめ、ビビらせるのさ」

「姿も見せず攻撃してことない所を見れば分かるだろ? 敵は既にお前にビビってる、これ以上の脅しは必要ない」

「……私に指図するのかい?」

「指図以外の何かに聞こえたのか?」


 ジョンとジャックの二人は対等する

 が


「此処で争うのは馬鹿らしいや、私達が本気でぶつかり合うのはそれぞれ救出を終わらせた後にしよう」

「じゃあ、結論はどう決める、殺すか生かすか」

「そこのお嬢さんたちに決めて貰おう」


 ジャックはマリアとネルヒムの二人に視線を移す。


「え?」


 行き成りの指名に驚く二人


「君達が決めるんだ。この好青年の首を落とすかそれとも逃がすか、二人で相談して選んでよ、それに私達は従う」


 マリアとネルヒムは顔を合わせる、ジャックに言われた言葉、この人を殺すか生かすか君達が決めてよ、そう言われてしまったのだ。

 勿論二人の答えは決まってる


「やっぱり、そうなっちゃうよね」


 兵士は殺さず、そういう決断となった。

 その決断に些か不満を含むジャックだがそれを受け入れる


「良かったな、命拾いしたみたいだぜ?」


 ジョンはそう汗だくのメルホルに言う


「おい、聞いているのか? いや、心此処に有らずか」


 メルホルは放心状態でジョンの言葉は届いていない

 そこでジョンはメルホルの頬を数回叩く、三回目でようやく意識を取り戻す。


「俺の声が聞こえるか?」


 本当に意識が戻ったのか? その確認の為ジョンはそう問う

 コクリッと一回頷くメルホル


「じゃあ、とっととお姫様の所に案内してくれよ」

「そ、それは……」

「口答えするって事は死にたいって事か?」


 そう、メルホルには選択肢など元より一切ない

 渋々とジョンの言う事を聞き姫の居る城までジョン達を案内する

 そしてその光景を黙ってみているだけの百人以上の兵に疑問を感じるジョン、助けよう等という意思は一切感じられず、何かを待って居る、そんな雰囲気を感じた。宛ら獲物が己の巣に掛かるのを待つ蜘蛛のよう


「彼らは待ってるのさ、私が何かをするのをね、彼はその為の撒き餌」

「何を待って居るのか予想はつくのか?」

「……正直言うとそれが分からないんだよ、私に盾を突くつもりなんだから何かしらの確信を持っているんだろうけど」

「おい、お前」


 ジョンが城に案内途中のメルホルに声を掛ける


「何を企んでいる? 答えなきゃ……どうなるか分かるな?」


 ジョンのその冷たい言葉に背を凍らすが生憎メルホルは今回の作戦の詳細を知らない、ただ彼等の目の前に立て、と言われただけ

 メルホルの反応を見てジョンもそれを察する、この男は何も知らない、と


「何を企んでやがるんだ?」

「さぁね、恐らく私達を殺せる或いは無効化出来るような事だろうね」

「さて、何処で仕掛けて来る?」


 ジョンとジャックは百の視線に細心の注意を払う、一人でもこちらに何か仕掛けてくればすぐに対応が出来る

 しかし、城の正門まで来ても何もして来ない

 とうとう不気味になる

 彼らが何を考えているのか? それがさっぱり分からないのだ。


「もし、お前の魔法が突破されるとしたら何がある?」

「これは君も知っているだろうけど君には私の魔法は一切反応しない、何故なら君の身体に魔力が流れていないから次に神の攻撃は防げない、だからラライクの糸等の神が作り出した魔具等を利用した攻撃は防げない……そしてもう一つは知っているよね?」


 三つ目は殺意無き攻撃の事

 ジャックは断腸の思いだった。

 自分の弱点を三つも教えてしまったのだそれも一流の殺し屋に……自分の首に鎌が近づくのが分かる、しかしそれ以上にジャックの心は踊っていた。このスリルを楽しんでいるのだ。腸は張り裂けそうだが脳は天国の彼方へ飛んでいる


「その二つだけか? それ以外の可能性は?」

「ないね、絶対に」

「じゃあ可能性は二つだ。神の魔具か殺意無き攻撃か」

「あと一つ良い事を教えて置くよ」

「何だ?」

「奴らはとある事を勘違いしている、それは私の魔法が君達にも適応されている、そう奴等は勘違いをしている」


 しかし実際は違うのだ。ジャックの拒絶という名の魔法はジャック一人しか守れない、他は対象外なのだ。


「だから君達を人質に取ったりして来ないのさ……クククッつまり此処で私がその事を口走れば、間違いなく君達は捕まる、私を止める為の人質としてね」

「だがお前には人質なんて関係ない」

「その通り、しかし奴等はそうは思わないだろうね、私が君達の為に仕方なく白旗を上げるような人間だと思っている」

「なんだそりゃ、脅しか? 次また余計な事をすると余計な事を口走るぞって言う」

「なんだ、良く分かっているじゃないか、流石私の元師匠」









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