第10話 処刑台

 門番に言われた通り門を通り壁の中に入る

 門の先には城は無くあるのは街、建物が並んでいるしかし人は見えない、界隈の向こう側に城壁の高さを越えない程の小さな城が見える


「此処は……城下町か?」

「建物はありますけど、閑散としてますね……」

「街の雰囲気はファンシーなんだがな、誰もいないから不気味だな」


 建物もまたクッキーで出来ていたりパンで出来ていたり野菜で出来ていたりする

 二人で街の大通りの様な場所を歩く、家に誰かいる様子も無い


「此処は何処なんだ? エルお前はこんな街の噂を聞いた事無いのか?」

「お菓子で出来た街の噂ですか? 聞いた事ありませんね、お菓子の家ならありますけど」

「これじゃあまるで不思議の国のなんちゃらだぜ、兎に角城に行ってみるぞ」


 城へ向かう二人その途中にてある張り紙を見つけるジョン


「おい、そこの張り紙見てみろ」

「なんです? 指名手配? これって……ネルヒム様?」

「みたいだな、似顔絵がネルヒムそっくりだ。書いてる特徴も名前も一致する」

「捕まえたらクッキー一年分貰えるみたいですよ」

「欲しくて堪らねぇな」

「どうなってるんですか? ネルヒム様が指名手配なんて」

「何処かの国に恨まれてるとか?」

「聞いた事ありません、罪状は王女の両親の殺害みたいですよ」

「そいつは恐ろしい、こんな世界で殺害なんて単語が出て来るとはな……」


 そこでジョンはある事に気が付いてハッとする


「いや、待てよ……ネルヒムはマリアお嬢様には恨まれてたよな……それに精神魔法……まさか……此処はマリアお嬢様の精神世界なんじゃないか?」


「え? せいしん……せかい?」


「キョトンとするな、確かに馬鹿らしい結論かもしれんが……だが実際有り得ると思わないか? マリアお嬢様が使うのはワープじゃない精神を司る魔法らしい、そしてあの黒い玉はマリアお嬢様の精神世界への入り口、何故そこら中食べ物で彩られているのかそれはマリアお嬢様が好きだから、お菓子の街や城壁、此処が現実世界だと言われるよりも精神世界だと言われた方がシックリ来ないか?」


「まぁ、確かによくよく考えてみるとおかしいですよねお菓子の城壁なんて現実にある訳無い、で、でもそんな事有り得るんですか? 精神世界なんて聞いた事有りませんよ!!」


 と異世界出身者であるジョンに問うエル


「知るか、俺は可能性の話をしたまでのだ。俺はそう納得させて貰う」


「じゃあ先生の言った通りだとするとこの指名手配書は?」


「マリアお嬢様の中じゃ両親の関心を全部かっ攫ったネルヒムは犯罪者同然だという事だろうよ」


「そこまで恨んでたなんて思って無かった……お嬢様……」


「しかし、お菓子やら果物やらが建ち並ぶ中指名手配書か、似合わないな」


「そうですねぇ、でも此処が精神世界だとして隊長達はどうしちゃったんでしょうか?」


「俺達が放り出された場所には草の様な物が地面から生えていたよなそれにあれを踏めばあの草が潰れて粉々になり足跡が付くだが俺達以外の足跡は無かった。という事は別々の場所に出されたかまた別の所に行ったか」


「ど、どうしましょう?」


「それは考えても仕方がない取り敢えずアイツらを探す手前ここら一片を探索だ。二人でな」


「それしかありませんよね」


「城だ、城に行くぞ」


「何かあれば良いんですけどねぇ」


 二人は城に向かい歩く、ブドウジュースの噴水を通り過ぎオレンジジュースの川に架かるお菓子の橋を渡り城に近付いて来た時だった。


「エル気を付けろ、何か聞こえるぞ」

「へ? あ、本当ですね、これは……人の声?」

「もっと厳密に言うと男の大声だな、行ってみるぞ」


 二人はリンゴの建物を通り過ぎ大広場に出る、そこには多くの人々が広場の中心を囲う様に集まっていた。


「何でしょうかこれ?」

「そこの人」


 ジョンが広場の端の方に居た人に話し掛ける、相手はスキンヘッドの大男、男は振り返り


「何だ? 俺?」

「そうそう、そこの素敵な身体をしてる兄さん」

「何だ気持ち悪い事言いやがって……」

「悪いね、別にそういうお誘いじゃないぞ何で此処に人が集まってるのか聞きたくてね」

「今から公開処刑が始まるのさ」

「処刑? 誰の?」

「ナサルって奴のさ」

「……え?」


 ナサルと言う名前に驚きを隠せない二人だが兎に角自分たちの眼で確かめる他ないと判断し自分たちの知るナサルかどうかを確認する為処刑台に近付き見る……そしてその結果を手土産に広場の隅っこで作戦会議を始めるジョンとエル


「先生! 不味いですよ!! 本当に先輩が処刑されそうでしたよ!」


 ナサルは拘束され高台に晒されており隣にはアメの大斧を持った大男が立っている、その前で罪状を読み上げる、男が居る


「この女は城に侵入し王女の暗殺を企てた極悪人なり、その上我が国の諸侯の名を偽り辱めた。許し難き罪人である」と男は読むそんな事は他所にジョンは話を進める


「分かってる、だがこんな中何の作も持たず奇襲するのはもっと不味い、情報を集めるぞ、この広場の全体の形、ナサルに付けられてる拘束具の取り方或いは壊し方、敵の人数に何を武器に持っているか脱出通路の確保それくらいは最低限欲しい」


「む、無理ですよ、もうすぐ処刑が始まっちゃう!」


「仕方がないから広場の全貌は見渡すだけで確認するぞ、この広場の出入りする為の入り口は俺達が入って来た場所も含め四ヶ所城側の入り口には兵士が立ちはだかってる脱出経路には使えないな、使えそうな経路は三個そして一番処刑台と近いのはあそこだな」


 とジョンはその経路を指差す。


「じゃああそこから脱出ですか?」


「処刑台と近いんだ、兵士にも簡単に回り込まれるだから脱出経路は今入って来た所を使うそして助けたら取り敢えずこの街から脱出する、門番も二人しか居なかったからななんとかなる、あの二人には恨みも有るしな」

「後は敵ですけど、あの二人を倒せば何とかなりますかね?」


「倒した後も重要だ。兵士がわらわらと集まってくるだろう、だから素速くナサルの拘束具を外し逃げなくては俺達は死ぬ、それに倒すならあの大男だけで十分だろう、あの小男は大男が倒されれば逃げる」


「言い切れませんよ」


「言い切れる見てみろあの男戦闘経験があるように見えるか? 戦闘経験も無い素人が武器持った敵に行き成り立ち向かえるとは思え無い、まぁ俺の常識がこっちの世界で通用すればの話だが……あと、恐らくあの男が拘束具の鍵を持っているだろうから、あの男も持って行く」


「じゃあ大男をまず最初に?」


「あぁ、それで小男は様子見だ。戦意喪失したらそのまま持って行けば良い、そして次は拘束具だが両手と両足にはめられた拘束具がナサルを縛っているだが幸運に拘束具が何処に固定されている訳でも無い、つまり持ち運びに便利と言う訳だ。俺がナサルを担ぐ、お前は脱出経路の確保、その後は俺達を守れ、いいな?」


「分かりました」


「じゃいくぜ? 弟子一号」


 作戦会議が終了した頃、既にナサルは処刑直後であった。後は大男が飴の斧を振り下ろせばナサルの首は飛ぶ


「何か言い残す事はあるか! 罪人よ」

 小男がナサルに言う

「余計な事を言ってないでさっさと始めたらどうだ?」

「ほぉ、強気だな」


 ナサルはそのまま黙る


「まぁいい、よしでは始めろ」


 大男が斧を振り上げる、その時、大男の腕にナイフが刺さる


「!?」


 痛みで斧を放してしまう大男

 ジョンはその隙に大男に飛び付き首を絞め気絶させ、エルは処刑台に居た兵士二人の内一人を剣が入っている状態の鞘で殴り気絶させる、それに気が付いたもう一人の兵士が剣を抜く、だがこれは一瞬の事多くの人間の思考は止まり騒ぎはまだ起きない


「ジョ……いや、ラスル来てくれたのか!?」


 公衆の面前で名を出すのは不味いと感じたナサルは咄嗟にジョンの偽名を考えた。


「話は後だ、取り敢えず逃げるぞ」


 とジョンが言っている時にようやく騒ぎが起きる

 逃げ惑う人々高い声低い声が入り乱れ、人間達の動きも乱れ兵士達も簡単には処刑台に近付けなくなっている、一番近い兵士は今エルと対等している兵士のみ

 処刑台に立っていた小男はジョンの予想通り逃げようと背を向けるが、間に合わずジョンに捕まり気絶させられる

 ジョンが小男とナサルを担ぐ頃にはエルももう一人の兵士の始末を付けてジョン達を先導出来るように準備をしていた。


「こっちですよ! 先生」


 ジョンはエルの元に向かい、合流し逃げる、ここまでは順調、作戦通りの脱出経路を使い広場から出る、さっきまで無人だった地域まで戻る、このまま門まで向い門番を倒し街から出られれば作戦成功……だがそんな簡単では無かった。

 門の手前まで来た所で門番とは違う男がジョン達の前に立ちはだかる。男はクシャクシャの深紅色の髪を掻きながら言う


「やぁ! 凶悪犯罪者諸君! 私の名はジーク・ガロンダ……王女の相談係をさせて貰ってる、だが私はただの相談役ではない! そう! 私には裏の顔がある! 王女公認の始末屋それが私の裏の顔、降参するのなら――」

「あれは本物のジークじゃない! 桃髪!」


 ナサルのその言葉を聞いてジークに斬りかかるエル、だがジークも素早くそれに反応し剣を抜き迎え撃つ


「おやおや、自己紹介中に攻撃してくるとは品が無いな」

「そんな事聞いている暇は無いよ」


 鍔迫り合いが続くが時間が無い、三十秒もすれば兵士が集まってしまうだろう

 時間が無い、そこでジョンが二人の男女を担ぎながら参戦する


「よぉ! 仲間に入れてくれよ」


 ジークの身体を蹴り飛ばす。しかしまだ門はジークの後ろ


「くッ! やっぱり剣は私に向かないな」


 と言いジークは杖を出す。


「気を付けろ、奴は風属性の魔法を使う」


 エルは迷いなく真正面からジークに向かう


「その度胸は褒めよう、だがそれは無謀と言うのだ!」


 ジークが魔法を発動しようとした瞬間腕にナイフが刺さる


「な!?」

「残念無念また来週」


 大きな隙を生んでしまったジークはエルに頭を剣の柄で殴られ気絶する


「顔見知りのよしみです。命だけは取らないよ」

「逃げるぞ! 兵士が来た」


 四人は門を潜り、草原に出る、そして隠れ蓑に出来そうな森に向かい一直線に逃げる

 途中飴の矢が飛んで来たが既に届かず当たらない

 そして無事四人は森に着く

 森の奥まで逃げた、追跡の様子も無いのでジョン達は足を止める


「はぁ、どうなってる? 何故捕まった?」


 とジョンは右肩のナサルに聞く


「……まず、この手錠を外してくれないか?」

「話が先だ」

「分かった、話そう、私はあの街でお嬢様を見たんだ」

「マリアお嬢様を?」

「あぁ、そうだ、しかし近づいた所お嬢様は私を暗殺者だと言いあの偽物のジークに私を捕まえさせたのだ。」

「待て何処での話だ? 何処にマリアお嬢様が居た?」

「城だ」

「お前は城に侵入したのか?」

「いや……黒い玉に飲み込まれた後黒い玉に吐き出されたんだ」

「その場所が城だった訳だな」

「あぁ、そうだ」

「ふーん、成程ね聞いてる限りお前もナサルの偽物って訳じゃなさそうだな」

「試してたのか?」

「そりゃな、用心は必要だろ?」


 と言い二人の人間を下ろし、小男の身体を探るジョン


「あったぞ、鍵だ」


 ナサルの手錠と足枷を解錠する


「ありがとう、助かった」

「偽物のジークにマリアお嬢様か、あの城、気になるな」

「その前に隊長とバーング先輩を見つけなくちゃですね」

「ナサル何か手掛かりに見当が無いか?」

「生憎、私はあの城に出て速攻で捕まってしまったのだ何も知らない」

「マジかよ、先輩捕まって足引っ張るは碌な情報は持って無いわ最悪だな」

「……すまない」

「先生、余り先輩を虐めないであげて下さい、こう見えて結構デリケートなんですから」

「う、五月蠅い! 余計な事は言わないでいい」

「はいは~い」

「まぁいい、情報源はまだここに居る」


 小男の前に立つジョン


「どうする?」

「爪を剝がしたり、焼き石抱かせたりしてこいつから情報を抉り出す」

「拷問ですか?」

「そんな所だ。取り敢えず使えそうな物を持って来い、こいつが目を覚ます前に準備を済ますぞ」




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