第二章 精神世界・マイン
第9話 マリアの憂鬱
昼食後、屋敷である事件が起こる
それはジョン達が客間で食事をしている時、ジョン、エル、ナサル、廻りを終えたファングの四人で食事を取っている
「それにしたってアンタ酷いぜ? 巫女様もそりゃ気負っちまうぜ」
「そうか?」
「「そうか?」 だと? 自覚は無いのか!」
「言ったら傷付くだろうという事は分かるさあんな可笑しくなっちまうとは思わなかったけどな」
「本当、可哀想ですよねぇーねぇ~先生?」
とエルがジョンに責める様な視線を送る
「俺の味方はいなさそうだな」
「当然だ、馬鹿者」
そんな会話をしている時だった。行き成り高い悲鳴が上がる
「!? 奥様だ!! 行くぞ、皆!」
ナサルがそう言って悲鳴の元に向かうその後を追う三人
悲鳴の元は三階の談話室だった。扉を開けるとワルクルス夫婦に涙目のネルヒム、しゃがみ込み何かを見ているローラにジークそれに顔に髭を蓄えた老人がそこに居た。
「どうしたんですか!?」
「お嬢様が倒れたんだ。意識を失ってる」
「何!? 息は?」
「してる、そこは問題無い」
「何で倒れたんだ? 持病でも持ってるのか?」
「分からない、持病なんて持っていなかったハズだ」
「マリアお嬢様が倒れた時の状況を教えてくれませんか?」
「あなた……」
リリがこの屋敷の当主であるアーロック・ワルクルスに不安げな視線を送る
「私が説明する、お前はそこに座ってなさい」
アーロックがマリアが倒れるまでの経由を説明する
「お父様! お疲れ様でした」
都市から帰って来たアーロックに労いの言葉を掛けるマリア
「変わりはなかったか?」
「えぇ、お父様、あ! でも使用人が一人増えたんですよ」
「あぁ、聞いている、ジョンと言っていたか」
「ホッホッホッ会うのが楽しみですな」
髭を蓄えた老人、ライオネット・ガルスが顎髭を撫でながら言う、そんな光景を笑顔で眺めるリリ・ワルクルス
「それより、巫女様も無事か?」
とリリに尋ねる、アーロック、顔が曇るマリア
「えぇ、巫女様昨日は様子がおかしかったけれど今日はとても元気だったわ」
「そうか、なら良い、じゃあ顔でも見て来よう」
「あ、あの、お父様」
「なんだ?」
「あの、約束の事を覚えてますか?」
「約束?」
「今度の私の誕生日に一緒にプレゼントを選んでくれると言う約束です」
「あ、あぁ、悪いがその日は……忙しくて付き合えなくなった。だから」
と言いアーロックはポケットから青い箱を取り出す。
「え、これは?」
「プレゼントだ」
「……やっぱり、そうなんだ」
「? どうした? マリア」
「やっぱり、私の事なんてどうでも良くなっちゃったんですね!? 昔は違ったのに!!」
「マリア、お父様は忙しいの、分かりなさい」
「分かりません!! 分かりたくありません!!」
泣き叫ぶマリア
「マリア! ワガママを言うじゃない」
「お館様」
とライオネットがマリアのフォローをしようとした時だった
マリアの意識が無くなったのはその時リリが悲鳴を上げナサル達が駆け付けた。
それが事の顛末
説明が終わった後ジョンが口を開く
「マリアお嬢様は倒れる前に怒っていたらしい、それが原因か?」
「十分に有り得るだろう、お嬢様の精神魔法が精神の一時的混乱によって暴走しお嬢様自身に自身の魔法が掛かってしまった可能性がある」
「精神が不安定になると魔法が暴走したりする事があるのか? 恐ろしいな」
「属性に寄るがな、お嬢様の精神魔法は暴走し易い枠組みに入る」
「もしその魔法の暴走だとしたらどうすれば意識は戻る?」
「……バーングの意見を仰ごう」
「分からないって訳か、よしなら俺達二人はバーングを呼んでくる、アンタらはここで別の可能性について考えてみてくれ」
とジョンが意見を言う
「……ジョン君に先を越されるとはね、少し私も混乱していたよ」
「悪いね、新人が生意気な口出して」
「いや、助かったよ、御免ねこちらこそ、さてじゃあナサルとエルが行ってくれる? ジョン君は私と来て」
「美人のお誘いとは嬉しいね、と言いたい所だがアンタに誘われると怖いな」
ナサル、エルは二階に降りて行き、ジョンとローラは部屋の外に向い誰も居ない食堂に行く
「で? 何の用です?」
「ジョン君これ持ってみてくれない?」
と言い懐から小さな透明な水晶を取り出す。
「これを? 爆発したりしないよな」
「しないよ」
ジョンは水晶を受け取る、しかし何か起きる訳でも無く時が過ぎる、そんな様子を見て微量だが動揺を見せるローラ
「有難う、ジョン君もういいよ、庭の雑草でも抜いておいて」
「その水晶なんだか知らんがどうやら不具合が起こったらしいな、まぁそれは何だ? と聞いた所でちゃんと返ってくると思わないから聞かんがね」
「ふーん、よく分かってるね、じゃあ、頑張ってね」
「雑草抜きをか?」
「大事な仕事だよ」
「はいはい、雑魚は雑用をしますよ」
ジョンは言い付け通り庭で雑草を抜く
「あ~あ、全く何でこんな事を」
「先生ハブられちゃいましたね」
「お前はマリアお嬢様の元に戻らなきゃ不味いんじゃないか?」
「別にボクは要らないみたいなんで抜け出して来ちゃいました」
「で? 捜査はどこまで進んだ?」
「今、バーング先輩が解魔を試みてます」
「解魔?」
「魔法を解くという事です。お嬢様に掛かっているであろう、精神魔法を解いているんです」
「で? 意識は戻りそうなのか?」
「さぁ? それはバーング先輩に聞いてみないと多分、今聞いても何も答えないでしょうけど」
「じゃあ聞きに行ってみようか?」
「え? でも扉前にはナサル先輩が居ますよ」
「駄目元だが暇つぶしに行くんだよ、草刈りには飽々なんだ」
ジョンは草刈りを止め屋敷に戻る
三階に上がったジョンはマリアが居ると聞いたマリアの部屋まで行く部屋の前にはナサルが立っていた。
「よぉ、見張りご苦労さん」
「何の用だ?」
「マリアお嬢様の様子が気になってね」
「……私も知りたい所だが生憎バーングが口を開かない」
「エルと同じ様な事を言うんだな」
「仕方がないだろう」
と肩を落とすナサル
「心配で心配で仕方がないといった様子だな、流石母親替わり」
キッとジョンを睨みつけるナサル
「母親替わりと思うほど自惚れてないと言いたいのか? それとも母親替わりでは無く母親だと言って欲しかったのか?」
「私を挑発する為にここに来たのか?」
「大体そんな感じだ。暇だったもんでね」
「先生、止めて下さいよ! ナサル先輩怒るとすっごい怖いんですから」
「子供の前じゃ怒らんさ、そうだろ?」
「……」
ナサルは何も答えず無視をする
「おっと、拗ねちまったみたいだな」
「あ~あ、知りませんよ」
とエルが言い終わった時マリアの部屋の扉が開く、開いた主は青毛の女性
「おい、お前ら煩いぞ」
「おっと失敬、アンタがバーングさん?」
「そうだ、それよりお前ら手を貸せ、ローラだけじゃ抑えきれない」
そして三人は部屋に入る
部屋の中にはベットの上で暴れまわっているマリアの姿があった。それを手足で必死に抑えようとしているローラ
「どうなってんだ?」
「魔法がさらに暴走したんだ。マリアの意識は無いが身体は動いてしまっている」
「解魔をしくじったのか?」
「しくじった、と言われればそうだろう私が解魔をするのが遅すぎた。早く気が付くべきだったマリアは今よりずっと前から自分の魔法に苦しまされて来たはずだ、倒れたのは今まで積もり積もった魔障(魔法による人体への障害)が爆発した結果だ」
「な……に? 私はずっとお嬢様を見てきたのに気が付かなかった。と言うのか?」
「その通りだ。お前にも責任の一端はあるぞ」
「そんな……ばかな」
ナサルの声が震え始める
「そこで話してないで手伝ってくれないかな?」
ローラがマリアを抑えながら言う
ジョン、エル、ナサル、ローラの四人でマリアの四肢を抑えバーングが解魔を再開する
「何!?」
少し時間が経った時だった。バーングが何かに驚く
「どうした!?」
「不味いまたマリアは何かしらの魔法を発動した! 全員離れろ!!」
バーングがそう言った瞬間だった。マリアの真上に黒い玉が生成されたのはそしてその玉はバーング達を吸い込む
「何かに掴まれ!!」
「お嬢様!!」
ナサルはマリアを吸い込まれない様に庇う、しかし玉はマリアを吸い込まない、がナサルは別、玉に吸い込まれる、ナサルが握っていたベットの一部が壊れ遂に玉へ飲み込まれ掛ける
「ナサル!」
間一髪ナサルの手を掴むローラ、だが無理な体制でナサルの手を掴んだローラ、長くは持たない
「おい! 何か手は無いのか!!」
「糞! これじゃ解魔も出来ない」
黒い玉はドンドン大きくなる、ナサルの下半身は飲み込まれている
「バーング!! あの玉は何なんだ!」
「マリアが作り出した何かの魔法だ! だが精神魔法とどう関係がある? あんな魔法初めて見るぞ!」
何故かバーングの目は輝いている
そして次の瞬間、ローラが掴んでいたベットの一部が取れ、黒い玉に飲み込まれる
「何!? 不味い!!」
「先輩! 隊長!!」
そして黒い玉はドンドン大きく成長し始める
「デカくなってないか!?」
「そうか、もしそうなら……」
バーングは何かを理解しワザと手を離し玉に吸い込まれる
「お、おいおい、アイツ自分から手を離してなかったか!?」
マリアの部屋の扉が開く
「何があった!? 無事か? うお!? 何だこれは!?」
開いた主はジーク
「ジーク! エルを掴まえて外に逃げろ!!」
「先生!? 何言ってるんですか!!」
「どの道俺達は手遅れだ! 分かるだろ」
ジークがエルに手を伸ばす。
「さぁ! こっちへ来るんだ!」
「い、いやです!」
「はぁ!? 何言ってるんだこの阿呆!!」
「先生も一緒に!」
ジョンに手を伸ばすエルだが遠すぎて届かない
「泣ける、お前がそんな師匠思いだとは知らなかった! 早く行け!」
ジョンの足が飲み込まれる、下半身が飲み込まれる、肩そして頭を飲み込まれ残るは手のみ
「せ、先生!」
「エル君! こっちに手を伸ばすんだ!」
「で、出来ない!」
そしてジョンは飲み込まれる
ジョンは飲み込まれそして放り出される、黒い玉に飲み込まれたはずのジョンだが次は黒い玉に放り出されたのだ。何処に? 草原の上だが草は柔らかく無く寧ろ硬い
「痛! 何だこれ!? 草じゃ無いのか?」
草は光沢を持ち厚い、それは曲がる程の柔軟性を持つハズが無い、草の様な物は踏むとザクザクと音を出す。
草を舐めるジョン
「味が全くしないな、何だこれ?」
草原の向こうには何かの城壁の様な物が見える、周りには誰も居ない
「たく……どうなってる? 何だ此処は」
黒い玉からまた何か放り出される
「痛い! 何これ!」
正体はエル
「げぇ、お前も来たのか」
「あ! 先生、無事だったんですね! ……ていうか此処は何処ですか?」
「知らねぇ、俺達は死んでてあの世とかじゃねぇだろうな」
「ま、まさかそんな不吉な事言わないで下さいよ」
「さて、どうだかな」
兎に角状況を知る為に城壁まで向かう二人
そして城壁まで辿り着く
「何だコリャ、クッキー?」
「本当ですね、この壁クッキーで出来てる」
城壁は匂いも味も確かめずにそれはクッキーだと分かる見た目をしている上にはチョコのコーティングが施されている
ジョンがその城壁を叩く
「柔らかいな、見た目をそういう見た目にしているだけ、という訳では無いみたいだな、本当にクッキーだ」
「え、えぇ……クッキーで何を守るんですか?」
「俺に聞くな、中には入れるのか?」
「さぁ? でもこれハンマーか何かで叩けば崩れるんじゃないんですか?」
「一部だけ上手く崩れれば良いが全体が崩れたらこのクッキーの下敷きになってお終いだ。そんな間抜けな死に方御免だろう?」
「それもそうですね、じゃあ大人しく入り口を探しましょ~」
城壁を伝い入り口を探す二人、そんな最中
「そういえばお前、俺が黒い玉に飲み込まれそうになった時俺が逃げろと言っても逃げなかったよな、確か俺の言う事は聞くんじゃなかったのか?」
「そ、それは……ごめんなさい」
「お前の評判を聞くと生意気な奴だと聞くが案外、真面目で素直な奴なのかもしれないな、生意気なのは演技か照れ隠しか」
「先生、勘違いしないで下さいよ、ボクが先生に素直なのも助けようとしたのも先生が稽古をつけてくれるからです。でなきゃボクだって先生なんかに付き合いません」
「ふーんなら良いが」
「もう、本当勘違いしないで下さいよね」
「はいはい、そんな事より門が見えて来たぞ」
ジョンの言った通り門が見える、門は甘い菓子パンで出来ている
その門には門番が門の両側におり、門番の鎧と剣はアメで出来ている、門番に声を掛けるジョン
「どうも、入っていいかな?」
「名前は?」
「ジョン」
「私はエルで~す」
「怪しい奴らだな、そうだな、何か此処でやって私達を笑わせてみろそうしたら入れてやる」
「笑わせる?」
「そうだ」
「それがこの国に入る為に必要な事なのか……?」
「あぁそうだ! 私を笑わせてくれ!」
と息を巻く兵士、ジョンとエルはそんな兵士を見て引き気味になる
「甘そうな国の兵士共はどうやら考えも甘いみたいだな……」
「みたいですね……」
そう言われてジョンとエルをキッと睨む兵士
「何だ。私に文句が有るのか?」
「いや、全く……」
「一発ギャグでも漫談でも何でもよい、しかしくすぐったりとかそういうのは無しだぞ」
「少し、作戦会議して来ても良いか?」
「あぁ、好きなだけやれ」
ジョンはそう言うとエルと共に兵士から離れ話し合う
「どういう事でしょうか……? 入国する為に自分を笑わせろなんていうなんて……」
「知るかそういう事だと理解するしかない深く考えない事だ俺はそうする、兎に角笑わせればいいらしいからな」
「まぁそういう事ならこの天才美少女に任せて下さい、私の口に掛かればナサル先輩だって一瞬の内にたちまち笑顔になるんですから!」
「じゃあ、任せたぜ」
兵士の元に戻る二人
「良し、来い!」
身構える兵士
「じゃあ、ボクが行きます!」
そう言って自信満々に兵士の前に出るエル
「ちょっと名も知らぬ兵士さん耳を貸して下さい」
兵士の耳に口を近づけなにやら耳打ちをするエル
すると兵士はたちまち笑顔になる所か目が淀み口はへの字に曲がる
最終的にエルに哀れみの眼差しを向ける結果となった。
「な、何ですか!? その目は!! 文句でも有るんですか!!?」
「……もし君が女王陛下だったとしても愛想笑いも出来ない程詰まらないギャグだったぞ、どういった環境で育ったらそう言った発想が生まれるんだ?」
「何を言ったんだお前……?」
自信満々の彼女は消え去りエルは目に涙を浮かべ始める
「う、うるさい!! な、何なんですか!!? 貴方!! 笑わせろと言ったのは貴方なのに!」
「笑えなかったぞ」
「もう知らない!!」
そう言ってソッポを向くエル
「じゃあ次は君か?」
そう言ってジョンの方を向く兵士
「仕方がねぇな……こういうのはあまり得意じゃないんだが……」
ジョンはそう言い兵士にとっておきの耳打ちをする
そして……
「君の言葉の節々から死相が見える」
と言った評価を受けるジョン
「し、死相……?」
「な、なんなんだ君達は……何故そうもセンスが無いのだ……?」
「う、うるせぇ!!」
「まぁ仕方が無い……今回だけだぞ? 特別に入国を許可する、後ギャグのセンスを磨くように」
「……」
「……」
兵士が道を開けてジョン達は進む
「この事は二人だけの秘密って事にしておこう」
「はい、そうですね、此処だけの話です此処だけの……僕は面白い、僕は面白い……」
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