二次創作

 幼少期のお気に入りの童話とその登場人物でおおよその人間像がわかるという、真偽は不明だが話の種には丁度いい話題がある。英雄に思いをはせていた子は正義感が強くなるとか、お姫様に憧れていた子は美意識が高くなるとか、コメディリリーフに属するキャラクターが好きだった子はムードメーカーになるとか、そう言った話らしい。


 我のお気に入りの童話は、随分とマイナーなそれであった。「七羽のカラス」という題で、あらすじは「いたずらっ子の兄七人と妹、そして母の家族がいた。いたずらっ子の兄たちに耐えかねた母はついうっかり『お前たちなんかカラスにでもなってどこへでも行けばいい』と言ってしまい、本当に兄たちはカラスになってしまった。カラスの兄たちを探すため、妹は厳しい旅に出る」というものだ。童話なのでラストも言ってしまうが、「ついにカラスの兄たちを見つけた妹はカラスの習性で集めた宝飾品を土産に家に帰り、兄たちも人間に戻れるようになってめでたしめでたし」というもの。メジャーどころに行かない辺りかわいくない子供であった。しかも小賢しいことに「人様の宝飾品を集めていた、つまり盗んだということは今後この家族は罰せられるかもしれない」と、実に現実的で破滅的な続きを考えていた。実にかわいくない子供であった。これが記憶にある最古の二次創作になる。余談になるが、父の蔵書に「本当は怖い昔話」系列の本があったことも人格形成に与えた影響が大きいかもしれない。つくづくかわいくない子供であった。


 いわゆるサブカルチャーの二次創作で最古のものは、小学校一年生くらいに思い至った。事情は省くが爆発寸前の機械を直せるのは自分だと思い出した仲間が、主人公らの制止を振り切って飛び込み、主人公らを逃がすというシチュエーションがある。この続きを作っていた。


 爆発寸前ということは、機械の複数箇所に不具合が生じている可能性が高い。仮に爆発しない状態に戻せても、エネルギーが漏れ出しているかもしれない。

 そこで幼少の小さな灰色の脳細胞は活性化した。「特殊な出生の彼自身をエネルギー源にしてしまえばいい」とばかりにうなじにコードをぶっ刺した。オタク文化に触れた今ならわかるが、これはいわゆる「生体ユニット」と呼ばれるジャンルに含まれる。どうして幼心に成人向けに片足突っ込んだような発想ができたのか、心底かわいくない子供であった。


 しかしこの話にはオチがある。今もそうなのかもしれないが、昔の攻略本はものによってはエンディングまで網羅している。流石に大ボスのデータまでは記載がなかったが、うなじにコードをぶっ刺す妄想を押しつけた彼の五体満足での生存はきっちりと明記されていた。これにより、この妄想は妄想のまま記憶の片隅に追いやって最近まで引きずり出されないままだった。


 オタク文化に片足どころかつむじまで沈み込んだあとに書いた最古の二次創作、は正直判断が難しい。落書きも含めると遡れなくなってしまう。一応は作品として完成した最古のものを例に挙げる。


 その頃は某雪の女王がブームになっていた。我自身の年齢は小学校高学年あたりであったはず。正直記憶が曖昧で困る。短期的な記憶はすぐ欠けるくせに嫌な思い出は長くさいなんでくる。困った脳みそめ。


 国語の課題で、物語を作るものがあった。とりあえず何でもいいからと、おそらくはカリキュラムの都合でねじ込まれたそれに、我は歓喜した。某雪の女王の映画は否が応でもコマーシャルで見るので、映画館のない街のかわいくない子供だった我でも認知はしていた。何やら氷の力を持った女王の物語であることは理解した。


 氷の力を持つ君主という骨子を軸に、物語を展開した。一年のほとんどを雪に覆われる村と、氷雪でできた城に暮らす恐ろしいまでに美しい氷の王。氷の王は村に興味がないが、村は氷の王を恐れて度々生け贄を捧げる。普段の生け贄は氷の王の機嫌を損ねて殺されるが、今回の生け贄は氷の王がいたく気に入り一緒に暮らすことになる。永遠に氷漬けにされることで。原型がどこにもないどころか空中できりもみ回転しながら爆発した。


 こんな調子なので、今回はあえてどのキャラクターかは特定しなかった。そんなことしたら版権元に殺されてしまう。しかし当時の我は自信満々にこれの完全版を提出した。おそらく先生はキャラクターの元ネタを知らないだろうとタカをくくっていたのだろう。末恐ろしいまでにかわいくない子供であった。


 思い出せる最古ですらこのザマなもので、成長とともに研ぎ澄まされた(と信じたい)創作活動において、その作品たちは血と死と悪趣味と不条理で彩られていく。意識しないと登場人物を全員殺してしまうほどに。

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