第2話 最も狡猾なる賢者

始まりの村は「最も狡猾なる賢者」がいる村です。

わたくし、聖女アリアも賢者様の知恵を借りに来たわけです……。

そう、ニート生活を続けるために……。


「聖女さま、お待ちください」

「あの塔に向かうということは……賢者さまに御用がおありなのですね」

目を輝かせながら、小柄な金髪な少年が、わたくしの前に立ちました。

なかなかに整った顔をしている。無垢な瞳には邪心の欠片すら感じられない……。


「はい、そうです」

「では、私がお伴いさせていただきます」

「あなたは?」

「私は、この村の村長の息子、アルフレッド・ハーディングです」

「アルフと呼んでください」

「はい、アルフさん」


アルフは、わたくしの手を取って、村のハズレにある塔の方へと連れて行ってくれました。

「いやー聖女のお姉さんと手をつなげるなんて、ゲヘヘ光栄ですわ」

どうでもいいが、この少年、急に言葉遣いが下品だぞ?!

「どうです、この際、僕と結婚しませんか?アリア=セインなんて辞めて、アリア=ハーディングになりませんか?」

「……」

「あ、あの、聖女さま、どうですか?」

「……考えておきます」

「え?嫌わないの? じゃなくて……断らないんですか?」

「あなたと結婚したら、あなたの家の仕事をしなくてはいけなくなりますから聖女つづけられなくなりますわ」

「はい!ですから!無理ですよね!!」

「最高!じゃないですか!アリア=ハーディング!いいんですよね!?」

「……あの、まさか聖女よりも、ニートしたいとか思ってないですよね?」

「え?そんなことないですよ!アリア=ハーディングになって、聖女の仕事をして、ニート生活を続けたいですよ!」

「やっぱり、思ってるじゃないですかっ」

くそ……、この子、わたくしのニート生活を嫌がっているのか!?しかし、これならどうだ?

「アルフくん、かわいい……。お姉さんとそこの草むらで、イイコトしませんか?キミの立ちションに付き合ってあげよっか」

「おい、聖女がイタイケな少年誘惑してどうするよ!」

「自分でイタイケいうな、クソガキっ」

「じゃ、ついたから、ココが賢者の塔。んでさ、もう、ぶっちゃけるんだけどぉ。オレがその賢者なんだけど?」

「え?!?」

私はまじまじと、アルフの顔を見つめていた。まだ14才にもなってないように見えるが……。

「あなたは、賢者様ですか?」

「狡猾の賢者アルフさま、とお呼びください」

「クソガキと呼ばせていただきます」

「うるせーヤリモク聖女」

「ちが、あれは単に、あわよくば手籠めにしてニート生活を続けたいという願望から来た純粋な行動で……」

「やっぱりヤリモクじゃねーか」

「賢者と結婚した場合はどうなるのでしょ……」

「しねーから」

「……」

「くそ、めんどくせーな。おれもおまえも立場おんなじなんだよ!?くそ、オレの読書生活どうしてくれんだよ!泣きてーよオレは!」

「一緒に魔王倒しにいきましょ?」

アルフは、頭をかきむしると。

「わーーーった。けど寝るときは、絶対に、おまえの部屋には入らんからな、ヤリモク」

「は?なんで?ま、童貞に興味ないけど?」

「はーん、童貞なんかじゃねーから!魔王ぶち殺したい気持ちマックスなのは同じだから一緒に旅するだけなんです!」

「……」

「ね?やっぱ、別の賢者にしない?僕をやめて?」

「イヤ、アルフ君、かわいいから、アルフ君にする!」

クソガキにもニート生活を奪われる苦しみ、味合わせてやるとしよう。

「あっそ」

こうして私は頼もしい「狡猾の賢者アルフ」を仲間に引き入れることに成功したのだった。





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