第16話 魔女の諦念と白銀の後悔―白銀の騎士―
「もうよいのです」
それは彼女の優しさや慈愛の
それはただの諦め。
トーナ殿は芯の強い女性である。
それでもなお彼女は打ちのめされてしまったのだ。
今まで彼女が受けてきた仕打ちを思うと、怒りよりも何にも希望と期待を持てない彼女の姿にやるせなくなった。
「よくはありません」
だから、俺は……俺だけでも彼女の隣に立ちたい。
傍に寄り添い、彼女を支えてあげたいと思うのだ。
「領主は税を徴収する権利を持ちます。ですがそれは同時に民を庇護する義務を負うことを意味するのです」
貴族は民を守るからこそ様々な特権が与えられているのだ。
「その義務を放棄するなど……あまつさえ入市税まで払えとは、どこまでも道義に反する蛮行です」
「カルマン様、相手は魔女ですぞ!」
「そうです。それを他の領民と同じに扱うなど……」
この門衛達はまだ
ファマスの街はこんなにも異常だったとは!
トーナ殿に冷水を浴びせられ沈静しかかっていた俺の怒りが再び燃焼した。
「そ、それに税に関しては領主の裁量権が……」
「馬鹿者!」
尚も言い訳を口にしようとした門衛を叱り飛ばした。
「確かに各地の税には領主に裁量権がある」
だが、それとて限度がある。誰からでも好きに徴収してよいわけではない。
「税を徴収しながら領民を庇護する義務を放棄し入市税まで搾取するのは、外国人に納税を強要しているのと同じだ。明らかに国法を犯しているぞ」
バロッソ伯爵は苛政もなく手堅く領地を治め、お膝元のファマスは良い街だとの評判にここへ派遣された時は幸運と思っていたのだ。
だが、とんだ名君がいたものだ。
しかも、道々トーナ殿から聞いた話で、バロッソ伯爵が配下を使わず国家騎士である俺にわざわざ依頼してきたのか不思議に思っていたが、その謎が解けた。
その
彼女がエリーナ様の治療を渋った理由も頷ける。
エリーナ様の治療の正否を問わず、トーナ殿には厄介な目に遭う未来しか想像できない。
できれば関わりたくないと思ったのも当然だ。
これでは領主ぐるみで迫害を受けているようなものではないか。
心配になってきた。
この街にトーナ殿をお連れするべきではなかったかもしれない。
「そ、それでは今回はもういいです」
こいつらは!!
「今回は、だと!!」
「「ひぃぃぃい!」」
顔面蒼白の門衛達。
こいつらだけが悪いのではないとは分かっている。
だが、もう許せん。
「もし他国から黒髪、赤目の要人が来訪したらどうするつもりなのだ。髪と瞳の色だけで差別する我が国の心象は最悪だぞ!」
「え?」
目を点にする門衛達に俺は頭を抱えたくなった。
こんな簡単な事も分からないとは……
他国には黒い髪も赤い瞳も珍しくはない。
そんな特徴の要人が訪れる可能性は決して皆無ではないのだ。
こんな理不尽を許していたら、いつか取り返しのつかない事態を招くとも限らない。
「そ、それは……」
「わ、我らはただ言われた通りに……」
「成る程、言われた通りなのか……つまり、領主が主導になって行なっているのだな?」
圧を掛けた脅迫まがいの
その状況にトーナ殿も困惑を隠せないでいる。
本当なら彼女に嫌な思いはさせたくないが、ここはしっかり釘を刺さなければならない。
「この件は国に報告させてもらうが、いいか?」
二人の門衛は震え上がって抱き合っているが……まさかそこまで大事になるとは思っていなかったのだろう。
「それが嫌なら今まで搾取した市民税か入市税どちらかを返還せよ。上にはそのように通達しておけ」
「「は、はい!」」
本当にこの領地は大丈夫なのか?
それとも、この国の魔女に対する忌避感ではこれが普通なのか?
心配になってきた。
このまま彼女を連れていって大丈夫だろうか?
今からでも彼女を帰すべきではないだろうか?
しかし、門衛達に彼女が街へ来たのは見られている。ここで帰しても後々トーナ殿が難癖をつけられるのではないかと思うと引き返すのも
「後で必ず確認させてもらうからな!」
迷ったが、けっきょく俺はそう捨て台詞を残してトーナ殿を守るように肩を抱き寄せ門を抜けた。
せめて俺だけは彼女を全力で守ろう、そんな決意を抱いて……
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