第15話 迫害の街―白銀の騎士―

 

「おい!」

「何を勝手に通ろうとしている!」



 その不愉快極まりない出来事が起きたのは、トーナ殿を連れてファマスの街へ入ろうとした時だった。



「街に入るなら入市税を払え」

「卑しい魔女めっ!」

「きゃっ!?」



 俺と一緒に門を通ろうとしたトーナ殿を門衛達が見咎め、あろう事か彼女の肩を乱暴に掴んだのだ。


 手荒に扱われるトーナ殿の姿に、普段は冷静なつもりでいた俺の頭に血が一気に駆け上った。



「彼女からその手を離せ!」

「なっ!?」

「カルマン様?」



 すぐさま俺はトーナ殿の肩に置かれた不埒な門衛の手を払ったのだが、その行為に何故か門衛達が驚いている。



「貴様らこそ何を言っているのだ!」



 トーナ殿は芯の強い女性だが、身体的には華奢でか弱い女性である。


 そんな彼女に乱暴を働く門衛達に俺は激昂した。



「貴様らはいつもトーナ殿から不当に税を徴収しているのか?」

「ふ、不当とは聞き捨てなりません!」

「入市税は当然の義務です」



 この国では入市税として、その領に納税せず市民権を得ていない者から徴収できる領主の権限である。


 だが……



「彼女は納税の義務も果たしている領民だろう!」



 しかし、彼女は行商ではなく公然と領内で薬方店を営んでいるので義務として納税している。


 街から追い出されて庇護を受けていないとの話であったので、もしやと思い道すがらの会話でトーナ殿から確認を取ったので間違いない。


 彼女の店は伯爵も認知していたのだから、トーナ殿が嘘を述べていないのは確実である。



「それともこの街は、市民から入市税を徴収しているのか?」

「そ、それは……」

「ですが……」



 どう言い訳したものか門衛達は迷っているが、この国の税法では入市税はあくまで市民外から徴収可能な領主の権利であり、二重課税は認められていない。


 だから二重課税を徴収しているなら、そこの領主は国に隠れて殖財しているのと同義である。謀叛を企てていると思われても言い訳が出来ない。


 だが、このファマスはそうでないと俺は当然だが先刻承知である。


 他の領民から入市税は課されておらず、不公平にもトーナ殿だけが搾取されているのは承服しかねた。



「ならば俺からも入市税を取るか?」

「そ、それは……」

「あなた様から入市税を徴収するなど……」



 俺は国から派遣されてファマスに常駐している国家騎士だ。

 その任務には領主の監視も含まれる。


 それはあまり知られていない事実であり、門衛達がそれを知っているかは分からない。


 だが、彼らは知ってか知らずかさすがにまずいと思ったようで慌てだした。



「ほう、では国家騎士からは取らずとも市民からは徴収するのか?」

「そんなまさか!?」

「では何故トーナ殿からは入市税を取ろうとする?」



 俺の追求に二人の門衛は困惑顔を隠せないでいる。



「こ、この魔女に市民権なんて!」

「どうしてカルマン様はこんな奴を擁護なさるのです!?」



 門衛達は国家騎士の俺がトーナ殿を庇うとは夢にも思っていなかったらしい。


 つまり、普段からこの街でトーナ殿に味方する者はほぼ皆無である証左。


 デニクという猟師がトーナ殿を擁護する発言をしただけで大きな噂になったわけだ。



「馬鹿者!」

「「ひっ!」」



 一喝すると門衛達は震え上がった。



「税を強要しておいて庇護も市民権も与えないのは、相手に義務を強いておきながら己は義務を放棄していると同じ。しかも、更に入市税を徴収するなど恥知らずにもほどがある!」



 しかし、そんな哀れな門衛の姿を見ても、俺のはらわたは煮え繰り返っているのだ。

 口撃を緩めるつもりなど毛頭ない。



「お前達は何も疑問に思わな――」

「ハル様……」



 だが、澄んだ綺麗な女性の声が俺の叱咤を遮った。



「……もうよいのです」



 不条理な扱いの被害者本人であるトーナ殿が俺の腕にそっと手を添えて止めに入ったのだ。


 何故と驚いたのだが、そのトーナ殿を見て俺は言葉を失った。


 彼女の目に浮かんでいたのは、この現状に対する諦め。



 そんな彼女の姿に俺はやるせなくなってしまった……

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