スコーピオンに左手を添えて

月見 夕

新緑の死地より

 深い森の中で私は、腐葉土に頬を付けて伏せっていた。黴臭さとじとりとした湿気がネックウォーマー越しに肌に吸い付く。自室のベッドより柔らかく沈み込むそれに、しかし今は安堵することはできない。傍の雑木に撃ち込まれる弾丸の軌跡に、背筋がひやりとする。

 新緑の季節を迎えた森は、生え揃ったばかりの枝葉を散らして襲撃者たちを匿っている。

 辺りは慌ただしく雑木を駆け抜ける足音と、止めどない銃声、再装填リロードの音が支配する。グレネードの弾ける音が、遠くの木々の影でこだました。

 もう、頼れるのは自分しかいない。そっと腕に抱いたサブマシンガンの残弾を確認する。

 私は生きている。まだ、生き長らえている。

 ――生きているなら、走れ。

 そう教えてくれた貴方に、忘れ物鉛玉を届ける為に。

 ゴーグルに被った土埃を拭い、私は重い身体を起こした。

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