1章 2節 9話
ガイアは無人となった中央部隊の陣地跡に着く。
よっぽど慌てて退却したのであろうか、テントや物資、通信機などが
乱雑に置かれている。
ウルスらは既に西の森の中へと移動しており、FGより高い身長を誇る
木々の森は、ガイアを億劫にさせた。
「上空からマシンガンをぶっ放しても、さほど効果はねぇな。
中に入るか?機動力がかなり削がれるが・・・・・・。」
ガイアの思案の為所である。
このまま森の中まで追いかければ、不利なのはガイアであった。
うっそうと生い茂る木々はによって全長7Mの巨体を持つFGは
行動が制限される。
ましてや木々を隠れ蓑に、対戦車砲を打ち込まれれば
回避するのはほぼ不可能に近かった。
だが同時に、森の中で対戦車砲をぶっ放すのであれば、
至近距離からでないと遮蔽物が邪魔して打てないはずである。
それは命がけの決死行と言えた。
軍の兵士ならいざ知らず、士官学校の学生風情にそんな度胸があるだろうか。
更に言えば、彼らは同学年のクラスメイトである。
上官の命令とはいえ、同じ歳の友人に
そのような指示を出せるとは思えなかった。
「だったら誘いに乗ってやるよ。」
ガイアが決断した瞬間、足元に閃光が走る。
ガーン!
爆発の衝撃がFGの機体を伝わってガイアの下まで届く。
「ちっ!地雷か。」
足元の爆発は直撃ではなかったが、爆風の衝撃で機体がよろめく。
爆発は1発ではなく、連鎖し陣地全体を包み込むように吹き飛ばした。
ガイアは咄嗟に上空へと逃げる。
あと半瞬でも遅れていたら、機体に損傷を受けていただろう。
「手馴れてやがる。
あいつら対FGの戦闘訓練でも受けているのか?」
ガイアの疑問はもっともだった。
FGは元々、兵器としては落第点を与えられた作業用ロボットである。
戦闘に使えない事はなかったが、機動力は戦闘機に負け、
火力は戦艦に負け、使い勝手は戦車に負ける。
FGが出来る事は、戦闘ヘリで代用できた。
図体がでかく地上を闊歩する分、FGのほうが不利である。
兵器としての認識がないからこそ、偽装して惑星ペンシルへと
持ち込む事ができた。
兵器として認識されていないFGだからこそペンシル演習場を強襲できたのである。
そんなFGとの戦闘を想定した訓練などあるはずがなかった。
だが、現実的にガイアは2度も反撃を食らっている。
カスタマイズされたFGで、パイロットがガイアでなければ、
2度の攻撃で撃破された可能性が高い。
つまりは、敵はFGとの戦闘に手馴れていると言えた。
「ありえねぇ!確かめてやる!!!」
ガイアはバーニャーを吹かし、一気に森に近付く。
反撃があるとしたら、森の中に入る前だろう。
彼は神経を集中させたが、森からの砲撃はなかった。
彼は森の入口に付くとミサイルを1発、森の中へ撃ち込む。
爆発が起きるが、木々が何本か折れただけだった。
森から鳥たちが一斉に上空に羽ばたく。
「反撃なし。
万策尽きたようだな。虱潰しだ。」
ガイアはそう独語し、操縦桿を前に倒した。
FGは木々をなぎ倒しながら、森の中へ入っていく。
凪ぎ倒せない巨木もあるが、細い枝などはFGのアームで払った。
「対FG戦の心得なんて、あるわけがねぇ。
今までのは苦肉の策だ。褒めてやるぜ。
ちょっと冷や汗かいたからよ。」
ガイアは勝ち誇ったように言う。
その様子をゲイリは音だけで判断していた。
「FGの軍事利用の可能性。」
彼は卒論として提出した論文のタイトルを読み上げる。
「作業用のロボットとして発達したFGであったが、
その軍事運用には否定的な意見が多い。
だが、限定的な場面においては、十分な戦果が期待できる。
第1にFGの性能がスーパーコンピュータ「バッカー」によって
格段に向上されたことが1点。
第2に同じく「バッカー」によって対戦闘機用のプログラムが
進化したことが2点。
バッカーの存在は、新型の高性能な戦闘機を無力化した。
どんなに高速で飛ぼうが捕捉されてしまうのである。
それに対し、ヘリ以上の旋回能力・小回りがきくFGは
自動プログラミングされた機銃での迎撃が主流の
現在の戦闘において、戦局を変える兵器として注目に値する。
だが・・・・・・。
その運用は宇宙空間が望ましく、地上戦闘においては
割引が必要である。」
「つまり、地形的にはこちらが有利ということだな。」
ゲイリの独語にウルスが反応する。
ウルスはゲイリの卒論の完成に協力した一人である。
従って、論文の内容はゲイリと同じぐらい熟知していた。
例えばビルが立ち並ぶ市街戦において、FGはただ図体がでかいだけの
大きな的である。
威嚇にはなるが、市街地を利用したゲリラ部隊に対して、戦果は期待できない。
ましてや木々が生い茂る森の中では、FGの能力は皆無に等しい。
「まぁこっちも、FGを撃墜するほどの武器がないんだが。」
ゲイリは苦笑した。
彼としては、森の中へ逃げ込めば相手は追ってこないと思ったのである。
だから、既に対戦車砲は全弾撃ち尽くしており、
FGの装甲を突き破るほどの火力は使い果たしていた。
だが、森の中ならば相手を撃破できないまでも、逃げおおすことは出来る。
森の木々が彼らの姿を隠す。
逆にFGの動きは視界に入らなくても、音や状況で丸わかりだった。
時間が経てば、軍が動き出すだろう。
それまで逃げまくればいいのである。
生きていれば、彼らの勝ちだった。
「ウルスだけでもな。」
ゲイリはそう小さく呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます