1章 2節 8話
中央部隊の攻撃に向かうガイアは
FGを駆りながら、少し違和感を感じていた。
これは簡単なミッションである。
彼の乗るFGは、原型は作業用のFGだったが、
チューニングされ、戦闘に耐えれるほどには
改良してあった。
武装も7mmマシンガン・ミサイルポッド・グレネード弾。
レーダーも完備し、最新鋭の戦闘機以外となら
互角に戦える性能を持っていた。
対して想定される敵は、士官学校の学生であり、
はっきり言ってしまえば素人である。
武装化しているとは言え、迫撃砲や対戦車砲などの
旧式な重火器しか所持しておらず、
誘導ミサイルなどの高性能な武器は持ち合わせていない。
つまり、ガイアのFGを撃墜することなど不可能であった。
そう、これは簡単なミッションなのである。
しかし・・・・・・。
先ほど通りすがった偵察用のドローンの存在が気になっていた。
すれ違い様に2機ほど撃墜はしたが、
6機もの偵察用ドローンが、右翼に向かっていた。
偵察用のドローンが投入されたその事自体は問題ない。
だが、その早さと量が問題なのである。
彼らが右翼の陣地を攻撃し始めてまだ10分ほどしか経っていない。
そんな短時間に偵察用のドローンを飛ばし、状況を把握しようという決断、
それに6機もの数のドローンを一気に投入する判断。
学生の模擬戦で支給されるドローンの数はそんなには多くはないはずである。
6機の投入ということは、全てを投入した可能性が高い。
後先考えず、全てのドローンを投入する決断力。
「ククッ。全くの馬鹿か。この状況を読みきっての判断か。」
ガイアは少し楽しくなった。
このミッションは、素人同然の若い学生を虐殺するという任務である。
彼は殺人鬼ではなかったので、この任務を好んでやっているのではない。
ただ仕事としてやっているだけだった。
しかし、もし敵が敵として対等に振舞うのであれば、
それは彼の望むところである。
「見えた!」
ガイアはコックピットに備えられた画面の映像を拡大させる。
ちょっと開けた平野に、陣が見える。
ズームしていくと、彼らもこちらを見ていた。
まるで、ガイアを迎え入れるように、待ち構えていた。
「なんだよ!?臨戦態勢バッチリかよっ!」
彼は一気に奇襲するつもりで、地表スレスレを飛んでいたのだが、
画面に映る学生らを見て、アクセルを踏んだ。
彼らが対戦車砲を持って、待ち構えていたからである。
FGのエンジンが火を噴き、一気に上昇する。
それと同時に、真正面から対戦車砲の弾が飛来してくるのが見えた。
それも1発や2発ではない。
文字通り雨あられの如く、ガイアの乗るFGに向け火線が伸びてきた。
彼はFGを上昇させることで、それを避けた。
誘導弾があれば、一緒に上昇してくるはずであったが、
対戦車砲の弾は、真っ直ぐガイアが元居た位置を通過する。
「やはり、誘導弾の類はないな!
だが、この攻撃の数。先ほどのドローンといい・・・・・・。」
まるで敵は、ここが勝負所だと決め付けているかのように、
火力をぶつけてくる。
そして、その判断は正しい。正しいが、それは敵対するガイアだからこそ
わかっている事であって、学生どもに判るはずもない事実だった。
百戦錬磨のベテランならいず知らず、学生だぞ?
ガイアの脳裏に、疑問符が沸く。
しかし、状況はガイアに考える時間を与えなかった。
上昇したFGに向け、第2派の対戦車砲の攻撃が向かってきた。
先ほどと同じく、20発以上の弾が飛んでくる。
これが作業用のFGなら回避は難しかったであろう。
更に一般人の操縦であるなら確実に撃墜されたであろう攻撃だった。
ガイアは巧みに操縦桿とペダルを操作し、
対戦車砲の砲弾をかわす。
「思い切りのいい司令官だ。」
ガイアはそう言うと、バランスを無理に崩したFGを立て直した。
余裕があるように見えるが、案外ギリギリであった。
「今度はこっちの番だな!学生!
って・・・・・・・は!?」
拍子の抜けたガイアの声がコックピットに響く。
ガイアはモニター越しに中央部隊の陣を覗き込んだのであるが、
対戦車砲を2派打ち込んだ後、彼らは一目散に逃げ出していたのである。
「逃げ・・・・・・!?
敵前逃亡だぞ?何を考えている?」
彼らは陣地を放り出し、後方にある森に向かっていた。
それも、ほぼ全員である。
トラックやジープに一斉に乗り込み、車両を急発進させていた。
迎撃すると思えば、一気に逃げ出す学生の行動に
ガイアは正直に混乱した。
彼の思考ではありえない行動である。
しかも通信機材など持ち運べないものは捨てての、
ただの遁走である。
「素人の考える事は訳がわからねぇ。」
ガイアは呟いた。
その声が聞こえたわけではないが、ウルス陣営でも
同じ事を考えているものがいる。
司令部の参謀に配置されたミネルである。
「ちょっと!ゲイリ。
あんたはまたこんな指示を出してっ!」
同じ車両に乗り込んできたゲイリに向かって威勢よく文句を言った。
怒鳴られたゲイリであったが、いつもの事のように
淡々と答える。
「森で迎撃できれば良かったんだけど、仕方ないだろ?
敵は3機、別にこの地を征圧されるわけでもない。
あの場所を死守するメリットもない。
FGに搭載できる武装も限られている。
あっちの目的が何かわからないけど、今は生き延びて
時間を稼ぐのが一番さ。
軍が応援を出してくれてるはずだしね。」
ゲイリの回答を聞き、ミネルは片手で額を覆った。
彼はいつもこんな感じである。
戦略シミュレーションでも、彼には戦場での美学がない。
しかし彼女は彼に戦略シミュレーションで勝った事がない。
ミネルは歯軋りをしつつも、ゲイリの判断に身を委ねるのであった。
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