1章 2節 7話

時間は少し戻る。


ペンシル演習場に向かう3機のFGの姿があった。

最近のFGの進化は素晴らしいものがある。

元々改良に改良を重ねてきたのがFGであり、拡張性能は高い。

バックパックを搭載したFGは、重力下の空を飛ぶことも出来る。

もちろん、飛行性能は飛行機などには劣るが、

移動する分には十分な速度である。

パイロットの一人が感嘆するのも不思議ではなかった。


「作業用のFGの改良とは言え、快適ですね。

空を飛ぶというものは。」


若い男である。年齢は21ぐらいだろうか。

まるで遠足か旅行に行くような気楽さだった。


「ソーイ。初陣だからとはしゃぐなよ。

一応、相手も武器を持っている。」


通信機から声が聞こえる。

映像はなく声だけであったが、彼はそれが

誰なのか把握していた。


「わかってます。副長!

油断はしません。」


ソーイは答えた。

彼はFGを操縦するのは初めてでもないし、軍事用にカスタマイズされたFGを

駆るのも初めてではなかった。

肩のミサイルポッドに少し重量感を感じるが、操縦に支障はない。

2人の会話に割ってはいるのはもう一人の男である。


「ソーイ、予定通りお前は右翼部隊を攻めろ。

俺と副長が最初だけ援護してやる。

お前なら大丈夫だ。訓練どおりやればいい。」


「ありがとうございます。ガイアさん。」


ガイアと呼ばれた男はフフッと笑った。

彼は元軍人であり、宇宙海賊の討伐など実戦経験が豊富な男であった。

もちろん、FGを操っての交戦経験などないが、

戦場を知る男として貴重な人材である。

そんな彼からみると、ソーイの初々しさは懐かしい。

フォローしてやりたくもなるというものである。


「ガイア、ソーイ。相手は学生さんだが、

手を抜くなよ。士官学校に通っているんだ。

生死の覚悟はあるだろう。

ソーイの初陣がこんな任務で申し訳ないが、

作戦の重要度は高い。」


「はい!光栄ですっ」


ソーイは元気良く答えた。

どうにも憎めない男である。


「見えた!行くぞ!」


副長と呼ばれる男の合図に呼応して、2機が左右に散った。

回り込むように右翼の陣地に襲い掛かる。

副長の乗る機体からミサイルが発射されるのと同時に、左右の2機は加速して

一気に右翼の陣の上空を飛行する。

ガガガガガと対人用のマシンガンが火を噴く。

ソーイは司令部と思われるテントを集中攻撃し、ガイアが的確に

部隊の弾薬が積まれているトラックを銃撃した。

至るところで爆発が起きる。

何が起きたのか理解できぬまま、右翼の学生たちは散り散りになって逃げ出すが、

ソーイの射撃は正確に、学生たちを打ち抜いていった。

単独で逃げ出そうとする者には、対人用のマシンガンを浴びせ、

人が集まりかけている場所には、肩のポッドからミサイルを撃ち込む。

まるでゲームを楽しんでいるかのように、ソーイの攻撃は無慈悲に

士官学校の学生たちを蹂躙していった。


「なるほど!副長が目をかけるのもわかる!

銃撃の正確性、判断の速さ、人を殺すのに躊躇ないそのハート!

末恐ろしいガキだぜ。まったくよ!」


ガイアは想像以上のソーイの働きに目を丸くしていた。

彼はいまや歴戦の戦士であったが、自分が初陣のときを思い出し苦笑いする。

彼の初陣は、生き延びるだけで精一杯だった記憶しかない。

まぁ、戦っている相手が違うのはある。

彼の初陣は相手も生き延びるのに必死な抵抗をしてくる宇宙海賊であったし、

歩兵の突入で武装も互角だった。

むしろ、地の利は相手にあった。

今回ほど一方的な展開ではなかったのではあったが。


「隊長!中央部隊は俺がもらうぜ!」


そういうと彼は通信機の通信を切った。

当初の予定では彼の担当は左翼だった。

だが、ソーイに触発された彼は、恐らく本命がいると思われる

中央部隊の攻撃に志願する。

十分な活躍をするソーイに、先輩の威厳を見せたかったのかも知れない。

それは完全にガイアの独断専行であったが、副長はガイアを制止する素振りもない。


「いいんですか?副長?」


ソーイの声にも彼は冷静だった。


「ふふ。彼の事だ。万が一にも撃ち漏らしはあるまい。

俺も左翼へと向かう。ここは任せたぞ、ソーイ。」


「はい!お任せください!」


ソーイの返答を受け取った副長機はブースターを吹かし、

一気に右翼の陣の上空を突っ切った。

彼らの目標はスノートール王国王子ウルスの殺害である。

だが、右翼の混乱の中でも彼は、そこにウルスが居ないことを確信した。

逃げ惑う学生たちの中に、誰かを守ろうとする意思を感じなかったからである。

王子がその場所にいるのであれば、彼を守ろうとする動きがあるはずだった。

だが、右翼の学生たちは皆、自分の命を守ることだけを考えて逃げ出していた。

彼はそれを見逃さず、目標がここにいない事を確信したのである。


「左翼か、中央か。

8割は中央が本命だろうが・・・。」


乾いた唇を舌で舐める。

彼もまた、作戦を成功させるに足りる能力を持った男だと言えた。

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