第49話 VSジャンヌ

「初めまして……。ハンドルネーム『巴』です」


 俺にとっては最終日の7日目。俺は運命の人と出会った。

 巴は7日目に加わった初心者である。自称、俺と同じ高校生。いじめが原因で不登校になっているらしい。

 このゲームがデスゲームであることは知らない初心者である。支配するエリアはジャンヌ・ダルクのエリアの奥。ジャンヌ・ダルクが攻略されない限り、彼女のエリアは安泰ではある。

 俺はこの巴がなんだか気の毒になった。境遇が俺に似ていることが親近感につながったのか、よく知らないにも関わらず、俺はこのゲームがやばいものであることを教えた。

 彼女は戸惑っているようであったが、こういうネットゲームはよくプレイしているようで、初期装備はそれなりに整えて防衛体制は整えたようだ。

 五郎丸によれば、今日やってくる冒険者はかなり強い。7日目にやってくるのは、国で最強を誇る『神聖騎士団』らしい。彼らは初日から生き残って来たダンジョンマスターを狩るためにやって来るのだ。


「神聖騎士団……ラスボスってわけか?」


 俺はぱずずに質問する。初日から参加してKPを稼いだダンジョンマスターはともかく、巴のような初心者が7日目から参加するのはものすごいハンディキャップがある。

 このような途中参加者には、最初に与えられるKPは多いとぱずずは言ったが、それでも厳しいように思える。経験者の五郎丸なら装備が整っているのでまだ生き乗れるが、初心者では辛い。


「それは心配ないでアリマス」


 ぱずずは説明した。神聖騎士団は情報が集まっている初日参加者のダンジョンを攻略するのが目的だ。時間が許せば次は2日目、3日目……と途中参加したダンジョンへ侵攻するが、7日目を迎えるダンジョンマスターは手強い。

 普通は無理をせず撤退するのだという。そして初日参加者が7日を迎えたダンジョンは、消えてしまい途中参加者が中心の新たなダンジョンとなる。

 そうなれば、初級レベルの冒険者が挑戦する未解明ダンジョンとして、2日目、3日目と過ごすこととなる。


「おとなしくしていれば、1日目は大抵生き残れるでアリマス」

(となると……巴は大丈夫。ジャンヌの奴が変なことをしない限り。五郎丸も余裕だろう。つまり、この7日目は俺とジャンヌが生きるか、死ぬかの1日となる)


 そして一番危険なのは俺である。ダンジョンの構造はほぼ丸裸になっている。昨日の攻防では大したKPは稼げなかった。ジル・ドレを葬るために冒険者を殺せなかったからだ。

 俺のトラップはほぼ把握されているだろう。その証拠に神聖騎士団はまっすぐ俺のダンジョンへと侵入してきている。

 神聖騎士団。11人からなる小隊である。槍をもった重装歩兵が3人。これが壁となる。その後ろには剣を装備した軽装の騎士。これが2人。その後ろにトラップを感知するためのスカウトが1人。

 攻撃魔法を唱える高レベルの魔法使いが2人に治療を担う僧侶が1人である。ちなみに騎士2人も回復魔法を使う

 完璧な布陣。これをかわさないと俺は今日、間違いなく死ぬ。


「巴さん……今日は見学に徹してこのゲームの事を知るといいよ」

「はい、そうします」


 巴はそう返事をした。何も知らない初心者ならではの無邪気さだ。俺が残酷に殺されるのを見たら彼女は一体どう反応するだろうか。


「今日、あなたは死ぬ。ジルの仇よ!」


 ジャンヌがそう憎らしそうに言う。俺は神聖騎士団の他にこの女の妨害とも戦わなければならないのだ。


「俺は簡単には死なないよ」


 強がりにしか聞こえないが、俺はそう言うしかない。ジャンヌはせせら笑う。巴は俺とジャンヌの仲が悪いことを察したのか沈黙している。そして五郎丸。

 彼は俺のことを加勢してくれるであろうか。ベテランゲーマーでこのデスゲームを熟知している五郎丸が助けてくれるのなら、それは地獄から天国へと延びる一筋の蜘蛛の糸となりうる。


(だが過信は禁物だ。よく考えろ……)


 五郎丸はそんな甘い人物ではない。このゲームの事を熟知しているということは、自分にとって有利かどうかをきちんと判断できることだ。

 昨日俺を助けてくれたのは、ジル・ドレとジャンヌが生き残れば、7日目の今日、2人が結託して自分に冒険者を押し付けてくると判断したからだ。

 それで俺を助けてジル・ドレを除外した。状況は五郎丸にはとても都合がよいことになっている。

(五郎丸が俺を助ける理由……)

 ぱずずによれば途中参加のダンジョンマスターは、初日から参加して来たダンジョンマスターが7日目を終えるとそのダンジョンを引き継ぐ。

 ただ内容はリセットされるという。攻略にやってくる冒険者は初心者レベルに落ち、ダンジョンの構造も変えられる。但し、トラップとガーディアンはそれまで購入したものが引き継がれる。

 五郎丸は今日を含めて6日間生き残ればよいし、巴は今日から7日間となる。

(そういう仕組みなら……彼は助けてくれるかもしれない)

 俺が簡単に倒されれば、厄介な神聖騎士団が彼のエリアへやってくる可能性が大きい。それは避けたいはずだ。


「六三四君、君のダンジョンへアーマーナイトを3体送ったよ」


 そう五郎丸は言った。やはり助けてくれるようだ。俺が生き残ろうが撃ち取られようが、ぎりぎりまで粘ることができれば、彼にとってはありがたいのだ。


「五郎丸、貴様、邪魔をするな」

「ジャンヌさん、ダンジョンマスターはお互い助け合うものでしょ?」

「どの口が言うか!」


 ジャンヌは五郎丸を口汚く罵ったが、彼女にそんなことを言う資格はない。五郎丸はそんなジャンヌを軽くあしらっている。五郎丸にとっては、仮に俺が早く死ねば、次はジャンヌを盾にしたいのだ。それはジャンヌも同じこと。両者は俺が死んだ後に熾烈なライバルになるのだ。

俺はジャンヌの妨害工作を警戒しながら、進んでくる神聖騎士団と戦う。


「まずは……」


 天井から落とす罠。ロックボール。低いレベルのトラップである。

低レベルのトラップはベテラン冒険者には通用しない。かすかな起動音を感知されて避けられる。

 当然ながら神聖騎士団には気付かれた。先頭の騎士はゆっくりと後退する。


「はん、そんなことは承知!」


 俺は次の罠を作動させる。


「クライムロード発動」


 クライムロード。ダンジョンの道に勾配をつける罠である。今までフラットだった道を坂道に変える。クライムロードはレベルによって勾配を変えられる。俺はまだレベルが低いからなだらかな坂道にしか変えられなかったが、天井から落ちて来た巨石が転がるには十分であった。


「そんなコンボはお見通しだわ!」


 ジャンヌはそう言ってせせら笑う。ジャンヌが指摘するとおり、さすがは神聖騎士団。トラップが作動した時につぎに何が起こるかを予想していた。

 石が転がってくるという状況も想定済みなようだ。後方の魔法使いが魔法の詠唱をすでに始めていたのだ。


「エアーインパクト」


 空気を圧縮しぶつける魔法である。前方の騎士たちが地面に臥せるとその魔法は直進し、転がる巨石を粉々に破壊した。


「はい、そんなレベルのトラップは通用しませ~ん」


 一部始終を見ていたジャンヌが憎らし気に茶化して言った。俺のコンボが簡単に打ち砕かれたと思ったようだ。


「それも作戦のうちだ!」


 破壊された石の後ろからゴブリンライダーが2匹現れた。巨石が転がる後ろを追走させていたのだ。ゴブリンライダーとはグレイウルフに乗ったゴブリンである。その機動力は騎兵に匹敵する。

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