第45話 ジル・ドレの罠
5日目。ついにダービーのROOMに冒険者が侵入した。そこで俺ははっきりとこの『嘘と偽りのダンジョン』というゲームがデスゲームであることを知った。「ジルさん、ジャンヌさん、ダービーが殺されました!」
モニター越しに殺されたダービーのリアルを見て俺は半狂乱となった。ダービーは本当に殺されたのだ。おびただしい血がそれを物語っている。
「ゲームオーバーだね」
「さて、ここからが本番ね」
ジル・ドレとジャンヌ・ダルクは全く動じていない。こうなることは分かっていたようだ。
「どういうこと?」
「こういうことだよ。このゲームは現実とリンクしている。モニターで起こっていることは現実だよ。我々が異世界に運ばれてリアルダンジョンマスターをしているということだよ」
そうジルは説明した。そして7日間生き延びれば何でもかなう願いと莫大な報酬が得られることも。
「それで初心者のダービーを食い物にしたのか?」
俺は悟った。思えばこの2人は初日から俺たちを助ける振りをしていた。実際に助けてはいたが、それは後半につながる布石であったのだ。前半で噛ませ犬が死んだら困るのは彼らなのだ。
「それがソシャゲーってもんだろう。課金ベテランゲーマーが初心者を食う」
「このゲームは過酷なのよ。7日間4人とも生き残ることは不可能なの。ようやくわかったかな。ぼうや……」
ベテランゲーマーのこの2人は自ら正体を暴露した。この2人は初心者を犠牲にして今まで何度も生き残って来た奴らなのだ。
そしてこの俺も彼ら経験者には単なる食い物に過ぎない。
「さて、今日はきっと冒険者は帰るよ。ダービー君もよく頑張った。彼の最後の抵抗で冒険者側も消耗したからな。今日は続けて君のエリアは攻略しないだろうよ」
そうジル・ドレは言った。俺のダンジョンは8割方攻略されている。何もしなければ、明日の6日目で間違いなく攻略されてしまう。
「明日、ダービー君と会えるようね。うれしいでしょ?」
ジャンヌはそう無邪気に言ったが俺には悪魔の言葉にしか聞こえない。明日は間違いなく冒険者は俺を殺しに来る。
「それじゃ、明日よろしく」
「バイバイ~。そしてご愁傷様」
2人は笑いながらログアウトしていった。俺一人が茫然とパソコンの前で佇んでいる。
ゲームからログアウトした俺はチュートリアルをしてくれた『ぱずず』を呼んだ。頬に「666」の文字が書かれた幼女悪魔はいつものようにニコニコして出て来た。
「お前は、これがデスゲームって知っていたのだよな?」
「はい、当然でアリマス。我ら悪魔はダンジョンマスターと冒険者の魂を食事にしているのでアリマス」
「貴様~」
俺はパズズの首を絞める。パズズは俺に宙吊りにされて足をバタバタとさせて抵抗する。
「わたしをいじめてもお主は助からないでアリマス」
確かにそうだ。悪魔の首を絞めても殺せないし、殺したところで明日の自分の運命は変えられないだろう。俺はぱずずを床に降ろした。
「パズズ、明日俺が生き残るにはどうしたらいい?」
「無理でアリマス。生存確率は5%でアリマス」
「5%?」
俺は意外な数字を口にしたパズズに聞き返した。まずいといった表情でパズズは口を両手で抑える。
「ということは、俺にも生き残る方法があるんだよな?」
「……アリマス。けど教えられないでアリマス」
パズズはそう答えた。俺は思案する。この4日間、一緒に過ごしてきて分かったことがある。この悪魔はちょっと頭が悪い。
「なあパズズ。俺、考えたのだけど、冒険者はこの4日間。やたら俺とダービーのエリアに侵入してきた。地図を描くとおかしいことに気付いた」
俺はダンジョンの地図を紙に描く。確かに冒険者たちは入り口から入って必ず分かれ道の右側に行く。
右側に行くとダービーと俺のエリアへとつながる。途中で左に行く道はいくつもあるのに不思議と冒険者は右の道を選ぶ。
(これは何かある……)
「別におかしくはないでアリマス。冒険者は偶然右を選んだだけでアリマス」
「そんな偶然があるわけがない。あれを使たんだろう。誘導するトラップ。それを俺も買いたい」
俺はかまをかけた。バカな悪魔のパズズが口を滑らす。
「誘引の効果がある薬は400KPする特別なアイテムでアリマス。634には買えないであります」
「誘引する効果のある薬だと?」
「あ!」
俺はパズズの耳を引っ張る。
「痛たたたっ!」
「その薬の効果を教えろ」
パズズはあっけなく白状した。もともとチュートリアル悪魔である。
助言はしないが、トラップやアイテム、ガーディアンなどプレーヤーが知りえた情報については、具体的な質問には答える義務がある。
「その薬の名は『魅惑の香水』でアリマス。は冒険者を惹きつける効果がアリマス。その匂いで冒険者たちは自然とそっちへ行く効果があるでアリマス」
(なるほど……)
俺の感じていた疑問が解けた。初日から冒険者たちはダービーと俺のエリアばかりに侵入してきた。ジル・ドレとジャンヌ・ダルクはそのアイテムを使って俺たちに冒険者を押し付けていたのだ。
匂いはモニターに映らない。だからこそ、今までダービーも俺も気づかなかった。巧妙な初心者殺しである。
(だがどうやってそれを使った?)
ダンジョンマスターは他のプレーヤーの支配するエリアに干渉はできないはずだ。助け合いをするためにはせいぜいガーディアンを援軍として送るくらいである。
俺やダービーのエリアに細工をすることはできない。
その誘惑の香水なるアイテムをどのように使ったのであろうか。その謎が解けないと明日はすべての冒険者を引き受ける羽目になる。
俺は考えた。(匂い……思い出せ……あっ!)
俺の脳裏に映し出された記憶の映像。女魔法使いの頭にぴょこんと生えたアホ毛が揺らいでいた。
(風か!)
ダンジョン内には空気が抜ける気流がある。それはかすかな空気の流れではあるが、通り道としては一定だ。その通り道はジルやジャンヌのエリアから、ダービーや俺のエリアへ流れている。
(しかし、風の通り道とはいっても気流の流れはわずか……髪が揺らめくほどの風が発生するものだろうか?)
俺の頭にあるアイデアが浮かんだ。
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