第44話 ジル・ドレとジャンヌ・ダルク

『ジル・ドレ』と『ジャンヌ・ダルク』


 俺がこのデスゲームに初めて参加した時、同じダンジョンマスターとして参加したプレーヤーの名前だ。

 彼らは経験者らしく、初めは俺ともう一人の初心者『ダービー』にいろいろとアドバイスをしてくれた。その時の俺のハンドルネームは『634(むさし)』だった。

 1日目は戸惑う俺とダービーをかばい、侵入して来た冒険者を引き付けて行かせないようにしてくれた。それどころか追撃のチャンスまで与えてくれて、KPを稼がせてもくれた。

 2日目も2人の手厚いサポートを受けて、俺とダービーは難なく生き残ることに成功した。しかし、3日目となると侵入して来る冒険者も手強くなる。

 俺とダービーは持っている全ての力を出し切って何とか冒険者を撃退した。

 4日目も群がってくる冒険者を俺とダービーは何とかかわした。ジルとジャンヌの援軍やアドバイスもあって生き残ることができた。

 その時、大半の冒険者を討ち漏らした。追撃してとどめをさす余裕がなかったからだ。これが致命的であった。

 しかし、それはジル・ドレとジャンヌの作戦であった。そもそも、3日目からダービーと俺のエリアだけに冒険者が集中してくるのがなぜかを考える余裕がなかった。 

 そして最終的に俺は知ることになる。

 彼らは巧みに俺たちを守るふりをして、結果的には冒険者たちを俺とダービーに押し付けていたのだ。


「ギロチンのトラップが回避されました。あとはROOMを守るオークナイトとゴブリン弓兵隊しかいません」


 ダービーはそう報告した。俺はダービーの救援のために手持ちのファイア・リザードを派遣しているが、それで時間稼ぎになるか疑問である。


「ジルさん、ジャンヌさん、このままではダービーのダンジョンが攻略されてしまいます」


 俺はこのゲームの経験者である2人に指示を仰いだ。こういう時でもベテランである2人は何か策があると思ってのことだ。


「ああ~、想定どおり今日で1人脱落か~」

「そうだな……。ここで終わりだ」

「え?」


 ジャンヌとジルの言葉と変換された文字を見つめる俺。恐らくダービーも同じだろう。言葉がうまく出てこない。


「7日間、誰一人欠けることなくクリアすることは難しいわ。わたしたちはダービー君の尊い犠牲は忘れない」


 ジャンヌ・ダルクの言葉は淡々と聞こえる。まるで普段のたわいもない会話のような感じだ。

 たかがゲームで一人脱落するだけだ。これが特別おかしな態度というわけではないだろう。しかし、俺もダービーも何だか背筋に冷たいものが走る。


「どういうことですか!」


 慌てたダービーの声。かすかに震えている。


「どういうことって、君もゲーマーなら分かるだろう。無傷でクリアできるゲームなんてクソゲーだよ」

「そうそう。犠牲者が出るのはやむを得ないことよ」


 2人の信じられない言葉が続く。昨日まではピンチにガーディアンを派遣してくれたり、トラップの配置位置を教えてくれたりしたのに随分と薄情なものの言い方である。


「おいおい、先輩方、冗談ですよね。ジルさんのガーディアン『鉄血の騎士』をワープインさせてくれるだけで、今日は生き延びられるんですよ。助けてくださいよ~」


 ダービーは努めて明るく振舞っている。豹変したと思われる2人の様子をあえて無視した感じである。


「今日は5日目。あと2日もある。ここで1人失うのは痛いけどね」

「鉄血の騎士の太刀筋を5日目で見せるわけにはいかないからなあ」

「いや、そういうことじゃなくて助けてくださいよ」


 すがるような口調のダービー。

 ダービーが言うようにジル・ドレが持っているトラップと強力なガーディアンを派遣すれば、今日のところはダービーを救うことができる。

 だが戦略的に見れば、それをすることで今度はジル・ドレが困ることになるだろう。

 このゲームの敵である冒険者は優れたAIによって動かされているようで、すぐに対処法を考えてくる。

 切り札である鉄血の騎士の存在をこの5日目で晒すわけにはいかないことは、このゲームの初心者である俺にも分かる。


「もともと、君らは捨て駒だしね」

「そうそう、単なる肥やし」

「肥やしって、酷いですよ。冗談でしょ、ね、冗談……」


 ダービーは哀願するようにそう言った。


「まあ、君は今日でゲームオーバーだけど達者でね」

「そうそう単なるゲームオーバーだよ」


 単なるゲームオーバーだと2人は言った。きっとダービーもそれを信じたことだろう。

 しかし、このゲームはそんな甘いものでないことは彼も薄々分かっていたに違いない。


「ゲームオーバー……。単なるですか……。なら、どうして扉の外から人の声が聞こえるのですか!」


 それがダービーの最後の言葉になった。

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