第43話 迷える子羊の正体
「終わったの?」
ここまで黙って見ていたSATOさんが話した。
「4日目は終わりました。あと3日です」
「オーガヘッド君……はどうなったの?」
「奴は死にました。正確には魂が死んだだけですが。明日、学校で会えますよ。腑抜けな感じでゾンビみたいですが」
俺はオーガヘッドが鬼頭康治であるという前提で話している。そして学校で会えるとは、俺にはSATOさんの正体が分かっているからの発言である。
「会えるって……」
「SATOさん。明日学校で会いましょう。これまでのことを話してもらいますね。そして今日から加わった(迷える子羊)さん」
俺は今までずっと静観していた今日から加わった新しいメンバーに話しかける。
こいつの正体も分かっている。
そしてこの女がオーガヘッドに続く俺の新たな敵であることも。
「ふふふ……さすがね。オーガヘッド君もクズ中のクズだったけど、あなたの方が1枚上手だったようね」
「その話し方。やはり経験者ですか……」
「御名答。そして今日はごめんなさいね。期待しちゃったかな?」
「……」
俺は沈黙した。正直、本当のSATOさんには聞かれたくない話だ。
「期待なんかしていないよ。あなたは俺の正体を確認するために接触した。おおよそ、知った上での行動でしょ」
俺は言葉を選ぶ。SATOさんの正体を知っている俺としては、迷える子羊とホテルに行ってキワドイ体験をしそうになったことは伏せたい。
「ふふふ……。そこまで分かっているならいいわ。私はあなたを許さない」
俺の予想したとおり、迷える羊は素人ではなくこのゲームの経験者(サバイバー)である。それは数字持ちということだ。
「どうやら本性を表したようですね、西村さん」
「西村さん……どうして西村さんが!」
どうやらSATOさんも迷える子羊と接触していたらしい。名前を聞いて驚いている。
「ゲーム内では本名で呼ぶのは厳禁だわTR君。彼女が驚いているじゃない」
「……失礼しました。でも西村も偽名でしょ。かつてのゲーム名ではジャンヌ・ダルク。正体は救国の聖女を語る悪女」
「悪女とは失礼ね。でも思い出したようね。だったら私の目的も分かるわね」
この女は俺のことを激しく憎んでいる。それこそ殺したいほどにだ。
「今日はこれで御終いにするわ。だけど、明日はあなたが地獄に落ちる日。必ず落としてあげるわ。そこであなたがしてきたことを後悔しなさい。ついでに彼女も一緒に行かせてあげるわ。ここまで守ってきたけど残念だったわね」
「西村さん……どういうことです?」
SATOさんは混乱しているようだ。俺と迷える子羊の会話に不意に入ってくる。だが、俺はSATOさんの会話を無視する。
「手厳しいことをいいますね。ですけど、あなたも同じでしょ」
俺はそう切り返した。もう『迷える子羊』の正体は分かっている。この女はかつて俺と同じダンジョンを支配していた手練れのダンジョンマスターであった。
彼女は彼氏と共にダンジョンマスターとして何度も生き残り、巨万の富を築いた。
生き残るためには他のダンジョンマスターを犠牲にする。彼女らはダンジョンに侵入した冒険者と同じダンジョンマスターを何人も殺してきたのだ。
「はい、今日のところはさよなら。ちゃんとトラップとガーディアンは補充しておいてね。明日からは神聖騎士団が相手よ。奴らはかなり手ごわい。今のあなたの装備では防ぎきれないでしょうね」
そんな捨て台詞を残して『迷える子羊』はログアウトした。俺とSATOさんを残して……。
俺も恐らく放心状態であろうSATOさんを残してゲームから離れる。
ダンジョンの強化は明日行えばよいだろう。
明日は学校で本物のSATOさんと会う。
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