第32話 ドルイドの女
侵入してきた冒険者は5人。
先頭は剣を持っているところを見ると戦士が2名。
真ん中に緑の衣をまとった女性。木製の杖を持っているが、その杖の周りを光る小さなものが2体飛び回っている。
そして後方は魔法使いと僧侶。オーソドックスな編成であるが、このパーティにはスカウトがいない。
俺は少しだけほっとしたが、そんな俺の心情に土足で入る言葉が聞こえた。
「ケケッ……安心するのは早いぞよ」
ばあるがいつの間には俺の背後にいる。この幼女悪魔は神出鬼没で心臓に悪い。
「あの緑の衣を来た女は要警戒ぞよ」
「ばある、どういうことだよ?」
「あの女のもつ杖の周りに小さい光が飛び回っているだろう?」
それは気になっていた。俺はモニターを凝視する。それは羽の生えた小さな人間みたいな奴だ。
「風の精霊シルフィを召喚したようじゃ。あの女はドルイド。精霊を召喚することができる。そして風の精霊シルフィは罠を見つけるのが得意なのじゃ」
「バカ野郎、それを早く言えよ」
「ククク……教えただけ親切というものじゃ。言ったじゃろ、あちきはダンジョンマスターの味方だと」
「7:3だろ!」
俺はタイミングを見て、マウスをクリックする。俺のダンジョンの最初の罠『酸の沼』を発動させようとした。
しかし、ドルイドの周りを飛び回る光が冒険者に危険を伝える。発動条件である一つの部屋2人以上の侵入を見破ったようだ。このトラップは10m四方のエリアに配置できる瞬間移動系のトラップである。
その設定エリアに2人以上の人間が入ったら任意のタイミングで床を底なしの酸の沼に変えるのだ。別のところにある酸の沼を移動させることで発動する。
女ドルイドは飛び回って斥候の役割を担う風の精霊から罠の存在を知る。先頭の戦士に忠告すると戦士はそのエリアに一人だけ侵入した。
そして、その戦士が通過すると次の戦士が行く。10m四方の空間に1人しか存在しなければ、トラップは起動しない。
「くそ……見破られたか……」
「ドルイドをなんとかしないと、お前、死ぬぞよ」
そうオーガヘッドのコメントが入る。アドバイスと言うより、面白がって見ているに違いない。
罠がダメなら力で押すしかない。ガーディアンで対処する。
俺にはオーガヘッドほどではないが、ジャイアント2体とアースドラゴンという強いガーディアンがいる。これをうまく使えば、今回侵入してきた冒険者のレベルなら始末できると考えた。
「まずはこいつらで様子を見る……」
ジャイアントは体が大きくて力も強い。身長は3mほどある。ダンジョンは広くなっている場所もあるが、通路は天井が低いところもある。
そういったところでジャイアントは使い勝手が悪い。よって、配置場所は通路から出た広場。そこにジャイアント2体を配置してあった。
「よし、戦力は十分……あっ!」
先頭の冒険者が攻撃する前に後方の魔法使いが唱えたのは、
一時的に視力を失ったジャイアントはめちゃくちゃに棍棒を振り回す。お互いに殴り合う始末だ。
その間に2人の戦士は弓で攻撃する。広いといっても学校の体育館ほどの広さのスペース。でかいジャイアント2体は格好の的である。
何本も矢を受けた1体のジャイアントは何もできずに倒れた。1体はやっとブラインドの魔法効果が切れて視力を取り戻したようだ。ここで2人の戦士は生き残ったジャイアントに挑みかかる。この2人はかなりの腕。ジャイアントの棍棒攻撃をかわし、着実にダメージを与えていく。
傷つけば後方から神官による
(連携がよく取れたパーティだ……中級レベルの経験を積んだ連中は侮れない……)
一人一人はさほど強いわけではないが、チームになると力を発揮する。これはパーティのレベルと個人のレベルは必ずしも一致しないことを示す。
かなり高いレベルの戦士や魔法使いがいたとしても、連携が取れていなければこの中級パーティほどの力は発揮できないだろう。
特に行動が制限されるダンジョンでは、連携が伴わなければ力が発揮できない。
こちらの攻撃の要である2体目のジャイアントが倒れた。もはや勝敗は決まる。この部屋では俺のガーディアンが排除されてしまう。
(まずい……)
俺のダンジョンはまっすぐ進むと十字路に出る。以前、ここで落とし穴と岩のトラップで初級者パーティを葬ったが、この中級パーティにはそんなちゃちな仕掛けでは通じない。
十字路をまっすぐ進むとSATOさんのダンジョンへ行く。左へ曲がれば、俺のいるROOM9。右は最終的には行き止まりのエリアとなる。
(さあ、どっちへ行く……)
俺はゆっくりと唾液を飲み込む。手に汗がじわりと染み出してきた。まず、真っ直ぐには進ませない。
俺はSATOさんを守ると決めた。だから、ここには最強の布陣を構えている。アースドラゴンとウィル・オー・ウィスプ2体。これにいくつかのトラップを仕掛けている。
左へくれば、先ほどオーク戦士をオーガヘッドのところへ送ったナビゲーションワープの罠と錬成窯で作った『骸の魔女』が配置してある。
このガーディアンがどれくらいの働きをするかは未定だ。だが、冒険者たちの行く手を阻んでくれなかれば、俺の命は今晩で尽きる。
冒険者たちは右へと進路を取った。ドルイドの女が放った風の精霊の情報から、こちらにはガーディアンが配置されていないことを察知したようだ。
(右へ行って戦利品を手に入れたら、今日は帰れ……)
俺は祈った。ダンジョンの至るところには戦利品として、金貨や美術品が配置してある。
これはダンジョンマスターの仕事ではなく、ばあるたち悪魔の仕事。適当に戦利品をばらまくことは、冒険者をおびき寄せる餌になる。
俺のエリアの右半分は冒険者によって探索された。こっちにはガーディアンもトラップも仕掛けていない。余裕があればできたのであろうが、ROOMの防衛やSATOさんのエリアへの通路以外を守るだけの余力はない。
やがて冒険者たちは右エリアの探索を終え、十字路に戻ってきた。そして、そこで立ち止まり相談をしている。
(帰れ、帰ってしまえ……)
冒険者たちは頷き、やがて左へと進み始めた。戦利品も情報も十分集めたということで、撤退をすることを決めたらしい。
(よし、賢い連中じゃないか……)
俺がそう思ったとき、通路で悲鳴声が上がった。
「きゃああああっ……助けて……」
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