第31話 鬼畜

「TRくん……わたしはどうなってもいいの」

 ここへ来て沈黙していたSATOさんがそう答えた。

「女は黙っていろよ。俺は紳士で博愛主義のTRくんに聞いているのだ。さあ、返事は?」

 俺は沈黙した。いろんな思考が頭を駆け巡る。

 だが、結論は一つである。今、オーガヘッドの奴を怒らせたら、SATOさんも殺される。そして俺も同じ運命だろう。

 奴のことだ。強力なガーディアンを俺のダンジョンに向かわせかねない。ガーディアンで俺の構築した罠を発動させて無効化する。

 そして冒険者を誘導すれば、俺は確実に攻略されて死ぬだろう。

「……ごめんなさい」

 俺は小さな声でそう呟いた。文字がゆっくりとモニターへ変換される。

「はあ?」

「ごめんなさい、オーガヘッド様。あなたに従います……」

「ククク……TRくん、素直になったじゃない。でも、こう言わないとボクは許さない。

 オーガヘッド様の下僕になります。(土下座)。さあ、言ってみろよ」

 俺は従った。SATOさんの命を守るためだ。そんな屈辱は耐えられる。

「ククク……。よく言ったよ、TRくん。じゃあ、今夜はボクが助けてあげよう。冒険者はボクが殺してあげるよ」

 オーガヘッドは自分のダンジョンに配置したあの強力なガーディアン軍団を堕天使のエリアへと移動させた。もはや虐殺と言ってよかった。

 アイアンゴーレムのパンチは、重戦士の鎧を簡単に潰した。

 魔法使いの炎の魔法もゴブリンの大群をなぎ倒したが、あまりの数に魔法も切れた。一斉に短剣で刺されて殺された。

 僧侶はバジリスクの石化の視線を受けて石になった。軽装の戦士も同様である。そして、悲惨なのはスカウトの女の子だ。

「ほーい。女の子とオークと言ったら、これしかないよね。さあ、オーク共よ、美味しい餌だぞ。思う存分楽しめ。クッコロタイム発動~」

 捕まったスカウトの女の子は悲鳴を上げる。革鎧は引きちぎられ、肌が露になる。

「ま、待て……オーガヘッド。それはかわいそう過ぎるだろ」

 俺はたまらずそう叫んだ。文字が虚しくモニターに表示される。

「おや……下僕になったTRくんはボクの行動に口答えするのですか?」

「いや、そうじゃない。ただ、かわいそうだろ……そんな可愛い女の子が……そんな目に」

「ククク……甘いな、甘いよ、TRくん。スカウトはダンジョンにとって最も警戒しないといけない奴。絶対に生きて帰してはいけないんだよ。そして、できるだけ残酷に始末する。そうすることでこのダンジョンに挑むスカウトはいなくなる」

「それなら普通に殺せばいいだろう!」

「ば~か。熱くなるなよ。これはゲームだぞ。ゲームの敵キャラが死のうが生きようが関係ないだろが。お前はこれまで冒険者を殺さなかったのか?」

「……」

 俺は沈黙した。俺だって昨日は残酷に冒険者を排除した。トラップネイキッドで丸裸にして容赦なく殺した。

 今、美少女の冒険者の命乞いをする資格など俺にはない。

 それでも俺はなんとかしなくてはと思った。それはSATOさんも同じだ。

「オーガヘッドさん、やめてください。そんな残酷なこと許されません」

「なんだよ、ゲームの時はだんまりなのに、こんな時だけじゃべるのか。うざい女だぜ」

「オーガヘッド、頼む。そのスカウトの女の子は普通に殺してやってくれ」

 俺とSATOさんの頼みにオーガヘッドは沈黙した。少しは心が動いたようだ。

「……じゃあ、お前ら2人。オーガヘッド様、お願いします。そのスカウトの女の子を犯さないでください。一生のお願いですと言え。女は最後に(にゃん)をつけろ」

 俺とSATOさんは素直に応える。

「オーガヘッド様、お願いします。そのスカウトの女の子を犯さないでください。一生のお願いです」

「オーガヘッド様、お願いします。そのスカウトの女の子を犯さないでください。一生のお願いですにゃん」

「ははははっ……これは愉快。愉快すぎて笑える。いいぜ、助けてやるぜ……って思うわけねえだろ、キモ!」

 オーガヘッドは命令する。20匹のオークに命じる残酷な命令だ。

「その女を徹底的にヤって、最後に殺せ!」

 オーク共に押し倒されて、服を破られるスカウトの女の子。もはやどうすることもできない。

「ひゃはははっ……笑えるううううっ~。あれ?」

 オークの1匹が剣を抜き、スカウトの女の子の胸を刺した。女の子は少しだけ笑みを浮かべて、静かに目を閉じた。

「このオークはボクのオーク兵じゃない……まさか、貴様か、TR!」

「お前が素直になるわけがないと思ってな。俺のオーク兵を一匹、送り込んだのさ!」

 SATOさんと俺は必死に命乞いをして時間を稼いでいる合間に、俺のオーク兵をナビゲーションワープでオーガヘッドのオーク隊の中に送り込んだのだ。

「こ、この野郎。決めた、お前は殺す。絶対に殺すぞ」

 オーガヘッドは怒り狂い、石化して立っている僧侶や戦士の石像を粉々に壊すようガーディアンに命ずる。

 命令に従い、石化した僧侶と戦士をアイアンゴーレムで打ち砕いた。

(こいつは悪魔だ……)

 俺は目を閉じた。


ピロリン……。音がした。


 冒険者が侵入しました。

 俺はモニターを見る。入口からまた冒険者の一団が侵入してきている。


「おいおい、早速、ボクの希望がかなうのかよ。こいつはいいぜ。TRくん、冒険者が君を殺すぜ。それにしても、1日に2組かよ。まあ、ボクだけ働くのは不公平だからね」

 くすくすと笑っているオーガヘッド。その冒険者がどこに向かうか知ってのことだ。

 その冒険者は救援に向かったのではない。その行き先は俺のダンジョンである。

「さあTRくん、お手並み拝見といきましょうか?」

「ちくしょう……」

 精神的ショックを受けて、落ち込んでいる暇はない。

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