第18話 冒険者サイド 分岐点

(このエリアは正直、ちょろかった。ダンジョンマスターもほぼ無抵抗。もしかしたら、他のエリアもちょろいかもしれない)

 カテゴリー1に分類されるダンジョンで、ごく初期の頃は攻略が非常に楽なことがあると聞いたことがある。

 稀なケースであるが、このエリアを見る限り、ほかのエリアも大したことがないかもしれない。

 少なくとも、このダンジョンはもう少し調べるべきだとエインは考えた。

「もう少し、探索してみよう」

「そう来なくちゃな!」

「行きましょう」

 2人の戦士は戦い不足からか、まだ士気は落ちていない。やる気十分だ。

「となると、前回のパーティの一人が命を落としたエリアへ行くのがよいだろう」

 地図を広げて魔法使いゲルドが指し示す。最初に左へ曲がった道まで戻り、左へ曲がる。

 最初の三叉路を真っ直ぐ進む道だ。前回生き残った戦士の話だと、ここへ進んだ魔法使いは入ってすぐに断末魔の声を上げて静かになったという。

 おそらく、トラップかガーディアンかに殺されたと思われる。

「よし。慎重に進もう」

 順調に三叉路まで戻った冒険者たちは、通路を進む。道は壁に挟まれたまっすぐな通路。人が二人並んで進むのがやっとという幅だ。

「ここへ入って直ぐに死んだという。何かあるな……」

 先頭を進むエインとルードは壁に何かないかとトーチを近づける。壁にはライオンの頭を象ったモニュメントがずらりと並んでいる。

 その大きく開けた口がちょうど、人間の頭付近に位置する。

「ルード、盾をかざせ」

「エイン、気になるか?」

「ああ……。矢が出てくるトラップは基本中の基本だからな」

 シュバシュバッ……。

 エインがそう言った途端に、矢が放たれた。盾に矢が幾本も突き刺さる。

「ここのダンジョンマスターもちょろそうだ。こんなバレバレな罠に引っかかるはずがなかろう」

「ライオンの顔より下を通れば、罠も作動しないみたいですね」

 2列目のクルスと魔法使いゲルドは身をかがめて歩く。矢が放たれる廊下は軽く突破できた。だが、パーティはこの先で行き詰まる。

ゴゴゴゴ……。

「な、なんだ!」

「壁が通路を塞ぐ!」

 廊下は左へ曲がり、そこで分厚い壁が右から動き出して通路を塞ぐのが見えた。

 前の戦士2人なら、完全に閉ざされる前に進めたと思うが、それではパーティが分断されてしまう。ここは様子見だろう。

「どうする。道が塞がれた」

 リーダーのエインが壁に触りながら、ため息混じりにそう他のものに尋ねた。

「シーフかスカウトがいれば、解除できるのに」

「ルード、そう嘆くな。こういうトラップは時間が経てば解除されると聞いたことがある」

「ですが、ゲルドさん。どのくらいの時間がかかるか分かりませんよね。もうダンジョンに潜って5時間は経っています。ここは他の場所へ行くべきかと……」

「クルスの言うとおりだ。トラップが初期化されるまでに1日以上かかる場合もあると聞く。こんなところで足止めされるのはもったないない」

 僧侶ハインリッヒはそうリーダーのエインの顔を見る。まだ、このダンジョンは解明されていないエリアが多い。そこに足を踏み入れ、情報を持ち帰るだけでも報酬がもらえる。

「そうだな……。ここは少しでも稼いでいかないとな。三叉路まで戻ろう。まだ、未解明な南エリアの探索に移ろう」

 エインの判断に仲間も頷く。まだ、誰も足を踏み入れていないこのダンジョン。最初に足を踏み入れたパーティは初心者だったので、悲劇的な結果になったが、自分たちには楽な仕事のように思えた。

 恐らく、まだ未解明の南エリアも難しくはないだろう。そう考えると、できるだけ広く探索した方が報酬は多い。

(これは入れ食い状態。できる限り、稼ぐべきだろう。そうそう、こんな美味しいダンジョンには巡り会えない)


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